45 / 46
45. 初夜とは
しおりを挟むエドゥアルト様は困惑しながらも、私の言う通りにカーペットの上にうつ伏せになる。
(でも……どうして、エドゥアルト様はこんなに困惑しているのかしら?)
初夜は夫の望むことをする───
ズリズリは結婚式で披露したから、やることと言えば踏み踏みしかないと思うのだけど?
私はうーんと首を傾げる。
(ま、いっか)
私はエドゥアルト様の元に近付いて片足を上げる。
「……レティーシャ! 一応、君の声に従ってみたがやはり“これ”は何かが違うと思うん…………」
「───えいっ!」
ムニュッと私の足がエドゥアルト様の背中を踏みつける。
「……だぁぁあぁ!?」
(まあ! とてもいい声! これはいい感じの位置に入ったようね!)
ガーネット様の教えによると背中は背中でも場所によって侯爵様の反応が違うという。
好みは人によって違うので、それは実際に踏んでみないと分からないらしい。
そして大事なのは力加減。
ジェローム様を踏みつけた時とは違う。
痛めつけたいわけじゃない。
(悦んでもらいたいの!)
「レ……」
「どうです? エドゥアルト様。次は少し強めにいきますわ! ───えいっ!」
───ムニュッ、グリッ
「ティ~~~~っ!」
「ふふ、どうです? これがガーネット様直伝の夫が喜ぶ踏み踏みですわ!」
「…………ケホッ、これ……は」
「エドゥアルト様?」
私が横からエドゥアルト様の顔を覗き込むと、エドゥアルト様はうっとりしたような恍惚の表情を浮かべていた。
「懐かしい…………んグッ!」
私がグリッを追加するとエドゥアルト様は更に嬉しそうな声を上げる。
懐かしい、そう言ってくれた。
これはエドゥアルト様を初めて踏みつけたというジョエル様の感覚を思い出してくれている───
そう思ったら嬉しくなった。
(幸せ……夫に悦んでもらうって)
こんなに幸せなことだったんだわ!!
「エドゥアルト様────大好きですわ」
「んっ……! ぐぅっ」
グリグリグリグリ……
また更に別の刺激を与えながら私は素直に感じた言葉を口にする。
「レ、レティーシャ……」
「わたくし! これからも! あなたをもっともっと悦ばせられるように……」
「うぉうッ!」
「───精進いたしますわ!!」
ムギュッ!!
私は最大限に力を込めた。
エドゥアルト様は声にならない声を上げてとっても幸せそうにぐったりしていたので、私も嬉しくなった。
(初夜とは────夫の望むことをする……その通りですわ!)
ふふっと私は笑った。
─────
翌朝。
「おはよう、エドゥアルト。そしてレティーシャさん」
「お、おはようございます!」
先に朝食の席に着いていた公爵夫人───義母が微笑む。
「改めて、我が家にようこそ」
「お、お義母……さま!」
私が感激しているとお義母さまはエドゥアルト様を見る。
「ふふふ、朝からエドゥアルトがこんなに静かだなんて…………ねえ、あなた」
「ああ。いつもなら朝から、どこにそんな元気があるんだと言わんばかりにペラペラ喋るのに」
公爵様──お義父さまも頷きながらそう言った。
昨夜、エドゥアルト様はだんだん無口になっていった。
今はどこかぼんやりしている。
「本当にレティーシャさんと出会ってからのエドゥアルトは面白いわね」
「ギルモア家の嫡男に出会った時を思い出す」
「ええ。あれも面白かったわね────“ともだちとはふむものだった!”とか言い出して」
懐かしそうに語る義両親。
「ボクはおもいっきりふまれた! これはもうしんゆーだ! とか言い出していたな」
可愛かったと思い出し笑いする義父。
(何それ! ……エドゥアルト様、可愛い!)
「……レティーシャ。念の為に聞く。それはなんの震えだ?」
「もちろん! エドゥアルト様の可愛さに、ですわっっ!」
ようやくここで言葉を発したエドゥアルト様。
昔話が聞けた私は悶えながらも満面の笑みで答えた。
その日の午後。
私は昨夜の成果をガーネット様に伝えるべく、エドゥアルト様とギルモア家に向かった。
「昨日、やんちゃに暴れていましたが今日もジョシュアくんは相変わらずでしょうか?」
「まあ、ジョシュアだからな」
ようやくいつもの調子を取り戻した様子のエドゥアルト様とそんな会話をしながら馬車を降りる。
すると思った通り元気な声が聞こえてきた。
「あうあ、あうあ、あうあ!」
「オーホッホッホ! 今日も元気ねぇ、ジョシュア?」
「あうあ、あうあ、あうあ~!!」
(ん?)
───お祖母様! 僕は待ってたです! ずっと!
(これはジョシュアくんの抗議の声?)
「エドゥアルトとレティーシャさんもそろそろ到着するんじゃないかしら?」
───お祖母様! 誤魔化すダメです! 僕は惑わされません!
「はいはい、お腹がすいたのね?」
「あうあ!」
ニパッ!
───いいえ、僕のお腹はいっばいです!
「うん? ジョシュアがガーネット様に抗議しているな?」
「笑顔のせいで全く伝わってませんけど……」
ジョシュアくんって怒る時もニパッ! なのね。
「あうあ、あうあ……あうあーーーー!」
「あ、こらジョシュア!」
───お祖母様、いいですか? 僕は昨晩…………あ、お兄さーん、お姉さーんーー!!
プリプリしていたジョシュアくんは私とエドゥアルト様の姿を見つけると、話を打ち切って目を輝かせて興奮した。
そして勢いよく駆け出す。
「あうあ~~!」
ニパッ!
「待ってたです? いいところに? ジョシュアくん。どうしたの?」
ジョシュアくんは私たちの側に到着するなりそう言った。
私たちは顔を見合わせる。
「うん? そんなに興奮するなんて珍しいな?」
「あうあ!」
「なるほど。ジョルジュ様とジョエルが覚醒前でガーネット様との会話が成立しなくて困っていたのか」
「あうあ!」
────さあ、お兄さん! 僕の熱い思いを余すことなく伝えるです!
ジョシュアくんがばーんと胸を張った。
私たちはまた顔を見合わせる。
「僕の熱い思いって?」
「説明が足りないところは、ジョエルそっくりだな」
「あうあ!」
ニパッ!
ジョシュアくんは語った。
「昨夜、ボクはずっといい子でドアの前でお座りして待ってました?」
「ジョシュアくん?」
「あうあ!」
「───お父様の眉間のシワが増えても、お母様がもう寝なさい、と天使の顔で言っていても……? つまりそれって怒られたのよね? ジョシュアくん……」
「あうあ!」
(ジョシュアくんはは一晩中、怒られながら何を待って───)
そう思ったところで思い出す。
─────ホーホッホッホッ! 分かったわ。なら今夜、この私がジョシュアを引きずってあげるわよ!
─────だって、今日はとーってもめでたい日ですもの! 大サービスよ、ジョシュア!
(あれだ!)
ベビーの僕には早いって言いながら、ちゃっかり待ってたんだ!
(ガーネット様、ガブガブとお酒飲んでたからなぁ……)
きっと記憶にない。
私がそう思いながら横目でチラッとガーネット様を見ると、まるで二日酔いなど微塵も感じさせない出で立ちでジョシュアくんと私たちの会話に首を傾げている。
「はいはい、ジョシュア。私はレティーシャさんとお話があるからエドゥアルトと遊んでなさい!」
「あうあ」
ガーネット様が手をパンパンと叩きながら、ジョシュアくんをひょいっと持ち上げてエドゥアルト様に渡す。
ジョシュアくんは手足をパタパタさせながら、お兄さーんと訴えている。
「はっはっは! ジョシュア、気持ちは分かるがもう少し大きくなるまで我慢だ」
「あうあ!」
「そう落ち込むな……まずは大きな男になるため、今日も走り込むぞ!」
「あうあ!」
「はっはっは! それに、だ。僕も少し走ってスッキリしたい気分なんだ! 付き合ってくれ!」
「あうあ!」
───合点承知です!
(ってどこの言葉よ、それ……)
ところでエドゥアルト様もスッキリしたいって何だろうと不思議に思った。
「ホホホ! 二人とも元気ねぇ~。さあ、レティーシャさん。昨夜は踏み踏みの成果を聞かせてもらいましょうか」
「は、はい!」
私は気を取り直して張り切ってガーネット様に昨夜の出来事を伝える。
踏み踏みの話を最初は笑顔でウンウンと頷いていたガーネット様。
しかし、途中から顔色が段々曇ってゆく。
「それで、空が明るくなって来る頃になったので、わたくしは───」
「……っ! 待って、レティーシャさん!」
何故かストップをかけられた。
「ガーネット様?」
ガーネット様がガシッと私の両肩を掴む。
「まさかとは思うけど…………」
「はい?」
「もしかして昨晩は、ずーーーーっとエドゥアルトの背中を踏んで、た?」
私は目をパチパチさせた後、満面の笑みで頷いた。
「はい! もちろんです」
「!」
何故かガーネット様が息を呑む。
「…………レティーシャさん。あなた“初夜の作法”はお母様からうかがってるって言っていたわよ……ね?」
「はい! 母からは夫の望むことをしなさい、と!」
「ホホホ、そうね。それで?」
「え? それだけですわ?」
「は? …………それ、だけ?」
またガーネット様が息を呑んだ。
「え? それで……レティーシャさんは一晩中、踏み踏み?」
「はい! 踏み踏みですわ! さすがに明け方は少し眠かったですけど」
「ホホ、ホホホ。一晩中……エドゥアルト……は? 何か言って、た?」
私はうーんと考える。
「あ、本にそんなことは書かれていなかった……! みたいなことは最初に」
「───っっっ!」
何故かエドゥアルト様の名前を叫んで天を仰ぐガーネット様。
「ガーネット様?」
「───レティーシャさんっっ!」
────その後、私は本当の初夜の作法をガーネット様にみっちり叩き込まれた。
とりあえず……
穴を掘ってもらってその場に埋まりたくなった。
1,528
あなたにおすすめの小説
婚約破棄されたので、もう誰の役にも立たないことにしました 〜静かな公爵家で、何もしない私の本当の人生が始まります〜
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、
完璧であることを求められ続けてきた令嬢エリシア。
だがある日、彼女は一方的に婚約を破棄される。
理由は簡単だった。
「君は役に立ちすぎた」から。
すべてを失ったはずの彼女が身を寄せたのは、
“静かな公爵”と呼ばれるアルトゥール・クロイツの屋敷。
そこで待っていたのは――
期待も、役割も、努力の強要もない日々だった。
前に出なくていい。
誰かのために壊れなくていい。
何もしなくても、ここにいていい。
「第二の人生……いえ、これからが本当の人生です」
婚約破棄ざまぁのその先で描かれる、
何者にもならなくていいヒロインの再生と、
放っておく優しさに満ちた静かな溺愛。
これは、
“役に立たなくなった”令嬢が、
ようやく自分として生き始める物語。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
これ以上私の心をかき乱さないで下さい
Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。
そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。
そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが
“君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない”
そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。
そこでユーリを待っていたのは…
【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。
王冠
恋愛
幼馴染のリュダールと八年前に婚約したティアラ。
友達の延長線だと思っていたけど、それは恋に変化した。
仲睦まじく過ごし、未来を描いて日々幸せに暮らしていた矢先、リュダールと妹のアリーシャの密会現場を発見してしまい…。
書きながらなので、亀更新です。
どうにか完結に持って行きたい。
ゆるふわ設定につき、我慢がならない場合はそっとページをお閉じ下さい。
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
私の婚約者はちょろいのか、バカなのか、やさしいのか
れもんぴーる
恋愛
エミリアの婚約者ヨハンは、最近幼馴染の令嬢との逢瀬が忙しい。
婚約者との顔合わせよりも幼馴染とのデートを優先するヨハン。それなら婚約を解消してほしいのだけれど、応じてくれない。
両親に相談しても分かってもらえず、家を出てエミリアは自分の夢に向かって進み始める。
バカなのか、優しいのかわからない婚約者を見放して新たな生活を始める令嬢のお話です。
*今回感想欄を閉じます(*´▽`*)。感想への返信でぺろって言いたくて仕方が無くなるので・・・。初めて魔法も竜も転生も出てこないお話を書きました。寛大な心でお読みください!m(__)m
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
真実の愛のお相手様と仲睦まじくお過ごしください
LIN
恋愛
「私には真実に愛する人がいる。私から愛されるなんて事は期待しないでほしい」冷たい声で男は言った。
伯爵家の嫡男ジェラルドと同格の伯爵家の長女マーガレットが、互いの家の共同事業のために結ばれた婚約期間を経て、晴れて行われた結婚式の夜の出来事だった。
真実の愛が尊ばれる国で、マーガレットが周囲の人を巻き込んで起こす色んな出来事。
(他サイトで載せていたものです。今はここでしか載せていません。今まで読んでくれた方で、見つけてくれた方がいましたら…ありがとうございます…)
(1月14日完結です。設定変えてなかったらすみません…)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる