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30. 奪われていたらしい
しおりを挟む「……マルヴィナ」
「は、はい?」
先程までとは変わって、トラヴィス様は真剣な声で私の名前を呼んだ。
そして、抱きしめてくれている腕にもグッと力が込められた。
(何かしら? 頭痛の話をしてしまったから心配かけちゃった……?)
トラヴィス様はうーん……と言葉を選びながら口を開く。
「これはあくまでも俺の思う仮定の話、なんだけど」
「仮定の話、ですか?」
「うん……でも、俺の考えは間違っていないと思う。そうだな……魔術師の勘とでも思ってくれればいい」
「魔術師の勘……」
(すごく当たりそう)
そこまで言ったトラヴィス様は、私を抱きしめていた力を緩めると、じっと私の顔を見つめてきた。
ときめいている場合ではないのに、ついドキッとしてしまう。
「マルヴィナの家、ローウェル伯爵家の長子が代々授かって来たという特殊な力。今回は長子のマルヴィナではなく、妹が授かった……という話だったよね?」
「はい。水晶は確かにそう示しました」
「それは本当に間違いないのか?」
「え……?」
水晶の文字を読んだのは筆頭魔術師。嘘をつくことは可能……かもしれない。
でも、サヴァナが水晶に触れた後に起きた眩いあの光は、あの場にいた全員が見ているのだからやっぱり間違いはない。
「間違いないです」
「……俺はそうは思わない」
それなのに、なぜかトラヴィス様は首を横に振って否定した。
「なぜ、ですか?」
いったいなんの根拠があってのことなのかしら?
トラヴィス様は続ける。
「さっき、マルヴィナは妹が力を授かってから頭痛に悩まされるようになったと言っていた」
「は、はい。そうです」
「その頭痛の始まり……一番最初はいつだった?」
「始まり……?」
そう言われて思い出す。
最初にズキッとしたのは確か……
「サヴァナが水晶に触れて光った時だったかと」
そうだ。ちょうど、あのタイミングでズキッと頭に痛みが走って、そこからは惨めな気持ちと一緒にどんどん酷くなっていって……
「マルヴィナ。その時だ」
「え?」
「……確かにその時、あの妹も何らかの能力が覚醒したんだ」
「何らかの……能力?」
サヴァナが授かった力は、最強の“守護の力”なのに、どうしてトラヴィス様はそんな曖昧な言い方をするの?
「そして、それは……人の魔力を奪うような力、だと俺は思っている」
「ひ、人の魔力……を奪う?」
「……意識的にやっているのか無意識なのかは、さすがに分からないが」
「……」
人の魔力を奪う力……そんな力が本当にあるの?
そんな私のか疑問は顔に出ていたようで、トラヴィス様が困った顔で説明してくれた。
「我が国ではそういった力を持った者も生まれているから不思議な話ではない」
「生まれて……いる?」
「ただ、我が国では魔力コントロールは幼い頃から学ぶから、皆、上手くコントロールしている。まぁ、もしも悪用しようとするなら魔力封じという荒療治が必要だったりするけど」
「!」
(クロムウェル王国はルウェルン国より圧倒的に魔術で劣っている……そういう知識や情報は少ない……)
魔力コントロールなんて以ての外。
「それで話を戻すけど、魔力を力によって無理やり奪われる時は、奪われた側は頭痛が起きると言われているんだよ」
「頭痛……が?」
「普通の頭痛とは違うらしい」
「……」
では、私が、悩まされていたあの頻繁の頭痛は……
サヴァナに魔力を奪われて……いたからだった?
私は、とたんに身体の力が抜けてガクッと崩れて倒れそうになる。
「マルヴィナ!」
「ト、トラヴィス様……」
バランスを崩した私をトラヴィス様が慌てて支えてくれた。
「大丈夫か?」
「……は、い。でも……」
(まさか……魔力が奪われていたなんて)
私は唇を噛んだ。
───どうして?
どうしてサヴァナは……あの子は私から何でも奪っていくの?
私が欲しかったもの……お父様とお母様からの愛情、クリフォード様、ローウェル伯爵家の力───
(どうして? どうして? そんな気持ちが……消えてくれない)
「───ごめん、マルヴィナ」
トラヴィス様が混乱する私をギュッと抱きしめてくれた。
「……っ!」
「君にこの話をすると苦しませることは分かっていた……のに。ごめん」
「……」
そう口にするトラヴィス様の方が辛そうに見える。
「ただ、一つだけ……これだけは勘違いしないで欲しい」
「勘違い?」
「さっき言った特殊な力を授かったのが、妹だという話だ」
「あ……」
私が声を詰まらせるとトラヴィス様はそっと優しく私の頭を撫でた。
「あの妹は、マルヴィナの魔力は奪えても“特殊な力”までは完全に奪えていないはずだ」
(───え?)
どういう意味だろうと私は顔を上げた。
「最強の力───“守護の力”を与えられた本当の持ち主はマルヴィナ、君だ。そして、その力の大半は今も君の中にある」
トラヴィス様のその言葉に私は目を丸くして固まった。
❋❋❋
トボトボ肩を落として元気なく部屋に入って来たサヴァナに、休んだおかげか調子の良くなったクリフォードが明るく声をかける。
「───サヴァナ、ルウェルン国一の魔術師の授業はどうだった?」
「……」
「休んでいる間に、ここの王宮の人たちから聞いたけど、若いのに本当にすごい力を持っている人らしくてさ」
「……」
「明日は僕も必ず───って、そんな浮かない顔をしてどうかしたのか?」
「……っっ」
(い、言えない……言葉が何一つ分かりませんでした……だなんて)
授業なんてされていない。
「それで? 今日は何をしたんだい?」
「あ、えっと~……ま、魔術を……」
(魔術をかけられて無理やり着席させられました───……)
「ああ! もしかして魔術を実演してもらったのか?」
「じ、実演……え、ええ……まぁ……」
「なるほど、彼の授業は実践的なのか……」
「……そ、そうですね~~……」
クリフォードは疑うことなくニコニコしながら頷いてそんなことを言っている。
(ど、どうしよう!)
サヴァナが本当のことを言うかどうかを悩んだその時だった。
「───失礼します。クロムウェル王国の王子殿下宛に早馬で手紙が届いております」
扉がノックされてルウェルン国の者が現れた。
その手には手紙を持っている。
「僕宛てに早馬で手紙?」
クリフォードは怪訝そうにその手紙を受け取る。
そして差出人を見てハッとした。
この封蝋は……
「───ち、父上からじゃないか!」
その言葉には、さすがにサヴァナも筆頭魔術師も、ローウェル伯爵も皆でハッと息を呑む。
こんなにすぐ届くということは自分たちが国を出てすぐに追いかけて来た可能性が高い。
そんな緊急性の高そうな国王陛下からの連絡とは……?
「いったい何があったんた……?」
おそるおそるクリフォードが手紙を開封する。
そして手紙に目を通した。
その光景を眺めていたサヴァナは、突然身体がゾクッとした。
(…………な、に?)
すごく……すごく嫌な予感がする。
サヴァナの背中には冷たい汗が流れブルブルと身体も震えだしていた。
「…………な、何だって!?」
手紙を読んだクリフォードが驚きの声を上げる。
「殿下、何があったのじゃ?」
「まさか陛下に何かあったのか?」
魔術師と伯爵がそれぞれ心配する中、クリフォードはチラッとサヴァナを見る。
目が合ったサヴァナはドキッとした。
(な、何で私を見るの?)
しかし、クリフォードはすぐに目を逸らすと顔を俯けた。
そして、何処か言いにくそうに語る。
「────僕らが国を出た直後……」
「……直後? 何があったのじゃ」
「……直後……に」
クリフォードの声も心なしか震えている。
「あんなにもずっとずっと降り続いていた雨が…………止んだらしい」
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