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53. 水晶の訴え
しおりを挟む「その文字は、我が国ルウェルンの古代語……遠い昔に使われていた文字ですわ」
(古代語?)
私が首を傾げているとリリーベル様は続ける。
「ルウェルンに住む私たちでも、もう日常的に目にすることが無くなった文字です───お兄様、お願いしたあれを……」
「ああ、これだろう? 朝、一番で書庫に行って来た」
「ふふ、ありがとうございます、お兄様」
トラヴィス様が何冊かの本をリリーベル様に手渡す。
「え? 顔が腫れ……」
「あれって殴られ……え? だ、誰に?」
トラヴィス様の腫れた頬を見ながら、クロムウェル王国の四人は動揺していた。
サヴァナと殿下の戸惑う声が聞こえてくる。
(どう見ても痛々しいものね……)
ちなみに、トラヴィス様の力を持ってすれば、癒しの力で治すことは簡単らしいのだけれど、相手が王子殿下の為、勝手なことは出来ないということでそのまま。
ちなみに、元気いっぱいで目覚めたリリーベル様も朝、トラヴィス様の顔を見て「人類の大きな損失ですわーーーー」と、悲鳴をあげていた。
そして、殴った相手が自分の婚約者と聞いて頭を抱えていた。
そんなトラヴィス様が言うには、ルウェルンの古代語に関する書物は、もう王宮の書庫にしか残されていないらしい。
そして、書庫に入るには王族の許可が必要……
もう、限られた書物でしか見ることがない文字らしいので読める人は極わずかなんだとか。
「あの水晶はとても古い物で、古代語が使われていた頃に作られた物なのです」
「……? クロムウェル王国の水晶なのに、ですか?」
私が訊ねると、リリーベル様は大きく頷いた。
「どうやら、ルウェルンの魔術師がクロムウェル王国のローウェル伯爵家のために作って贈った物のようですわね」
(国に……ではなく、ローウェル伯爵家のために作って贈った?)
「それで、こちらがルウェルンで使われていた古代語の文字ですわ!」
(──あ!)
リリーベル様が開いた見せてくれた書物に載っていた文字は、確かに昨日、水晶に現れていた文字と同じだった。
「た、確かに……この文字じゃ……!」
筆頭魔術師も興奮している。そして、深呼吸して心を落ち着かせるとしみじみとした様子で言った。
「ルウェルンの古語……この水晶はルウェルンの魔術師が作ったものじゃったのか……」
「水晶にはいくつかの条件が付与されていますわ」
「条件じゃと?」
「ええ、水晶が反応を示すための条件ですわ」
リリーベル様はこれを読み取るのが苦労しましたのよ……!
と、水晶のことを恨めしそうに睨みながら説明する。
昨日は途中で力尽きた為、今朝になってリリーベル様はもう一度、水晶と睨み合っていた。
そして、無事に今日は勝利したらしい。
───私にかかれば、こんなものですわーー!
そう言って得意げに胸を張るリリーベル様は何だかとても可愛らしかった。
そんなリリーベル様によると……
守護の力を持っていたとされるローウェル伯爵家の始祖となる人物から血を繋いでいくうちに、一族の中で妙に力の強い者が現れることに気付いた。
そして、その者は何やら特殊な能力まで使えてしまう。おそらく何代かを経たことで長子の法則にも気付く。
しかし、その能力は毎回同じではない───そこで、魔力の判定が出来るものを欲した。
それが、水晶が出来た理由らしい。
「───けれど、クロムウェル王国は昔から魔術に明るくないから、ルウェルン国の魔術師が手を貸したということですか?」
「そういうことですわね! そこにローウェル伯爵家の血筋であり、かつ長子である者へ判定を下すなどの条件を付与したものと思われますわ」
なるほど……と思いながらも、まだ疑問は残る。
「では、なぜ“守護の力”だけ私たちが読み取れるクロムウェル語で、他の文字はルウェルンの古代語だったのでしょう?」
「条件を満たした者の判定結果の時だけ、クロムウェル語で示すという条件がついていますわ」
「……えっと?」
「全てをクロムウェル語にするのは難しかったようですの」
それを聞いて、作ったのが他国の人間なのだからそれは仕方がないことなのかも、と思った。
「ですから、判定結果以外のことに関しては、そこの水晶は何を訴えたくても、全てルウェルンの古代語になってしまうということですわね」
最も大事な判定結果だけは絶対皆に分かるように、そう条件つけた、ということかしら。
「おそらく、最初の頃はこういった話も伝えられていたのでしょうけれど」
「……」
リリーベル様の言いたいことは分かる。
時の流れと共にそういったことは伝えられなくなっていった、ということ。
十八歳の誕生日に水晶に触れて測定するだけのことに、本来ならややこしいことなど起こらないはずだった。
(けれど……私が魔力を封印していたことでややこしいことに……)
十八歳になった“守護の力”を授かっていたはずの長子は、見合う魔力が合ったはずなのに何故か足りないし、翌年、我が物顔で水晶に触れる奪取の力を持った一族の長子以外の人間は現れるし……
さぞかし、水晶は混乱したことだろう。
「実際、どんな感じで文字が現れるか試してみます?」
「え?」
リリーベル様はそう言ってサヴァナを呼んだ。
「は? どうして私がまた水晶に触れなくちゃならないんですか!」
寝不足で顔色の悪いサヴァナは呼ばれると、さっそく怒り出した。
「本当に現れる文字が、ルウェルンの古代語であるかどうか試したいからですわ」
「そんなの! お姉様が触れば済むことでしょう!? どうして私!?」
サヴァナが私に向かって指を指しながら憤慨する。
「あなた……本当に阿呆ですわね?」
「は?」
「先程、説明したでしょう? 条件を満たした者の判定結果の時だけ、クロムウェル語で示すと。マルヴィナさんが触ったらクロムウェル語で文字が出ますわよ?」
「っ!」
サヴァナがショックを受けた顔をする。
「……」
「あら、怖いんですの? 大丈夫ですわ。今更あなたが失うものなんて何もありませんから」
「なっ!?」
躊躇ってなかなか水晶に触れようとしないサヴァナをさらに煽るリリーベル様。
「あなただって興味あるでしょう? いったい水晶はあなたになんと応えるのか」
「……っ」
「……」
「わ、分かったわよ! 触れてやるわよ! それで万が一、私が本物だったら許さないわよ」
(まだ、本物とか言っている……)
ギリッと唇をかみ締めたサヴァナがそう怒鳴りながら水晶に触れた。
───最初、水晶は反応が鈍かった。
光もしなければ文字が浮かび上がることもない。
「は? またなの? このポンコツ玉!」
サヴァナが怒り出す。
「今度こそ、本当に叩き割ってやるわよ!?」
(…………今度こそって、何?)
何だか聞き捨てならない言葉だった。
けれど、サヴァナがそう口にした瞬間、水晶だけがほんのり光り始める。
私は、ぼんやりと儀式の時のように眩しく光るわけじゃないんだ……と思った。
そして、ボワッと文字が浮かび上がる。それはやはり、クロムウェル語ではなかった。
あと、何故か今回の文字は一つではなさそう。
(まるで、たくさん何かを訴えているみたい……)
そんな風に思えた。
そうして、リリーベル様が浮かび上がった文字を書物と照らし合わせてみると───
「こ、これはまた、すごいですわねぇ……」
「……っっっ」
サヴァナが言葉を失っている。
水晶の文字は、サヴァナに向かって、
“奪取の力”
という能力を示した文字だけでなく……
“偽者”“嘘つき”“魔力不足”など、サヴァナをちょっと小馬鹿にするような文字がたくさん浮かび上がっていた───
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