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54. 婚約破棄
❋❋❋
(な、何よこれぇぇぇ!!)
サヴァナは次から次へと浮かび上がる自分を嘲笑うかのような文字の数々に憤慨していた。
守護の力のことは、本当に悔しいし仕方がないけど理解したつもりだった。
そして、自分には奪取の力なんて凄い力を授かっていたことが判明したものの、魔力が足りずに今はその力すら使えそうにないということも思い知らされたばかりだった。
(悔しくて眠れなかったわ……おかげで寝不足よ!)
それなのに文字は、どんどん出てくる。
そして、読み上げられる内容はどれもこれも酷い。酷すぎる。
“盗っ人”“性悪”“勘違い女”……
(な、なんですって!? もう我慢ならない!)
「ちょっと! その本、貸しなさいよ!」
「え?」
読み上げられている言葉が信じられず、これは嵌められているのかもしれないと思い、ルウェルンの古代語についての解説とやらが載った本をひったくる。
そうして自分でも文字と本の訳を確認してみようとした。
けれど、現代のルウェルン語も怪しい自分には結局、正解が分からない。
それでも、どうにか読み取った文字は……
「だっしゅ……あくじょ……悪女!?」
やはり、読み上げられていた文字に嘘はないのかもしれない、と泣きそうになる。
聞こえてくる限り、良い言葉なんて一つも浮かんでいない。
水晶は完全に私をバカにしている。
そして、水晶によるとどめはこんな文字だった。
───“破滅を導く”
「は、破滅……!?」
その文字が浮かび上がった瞬間、誰もが羨むほどの輝かしい道を順風満帆に歩むはずだったサヴァナ・ローウェル伯爵令嬢の未来にヒビが入った音が聞こえたような気がした。
────
(どうしてこんなことになったのよ……)
あの、美少女により水晶の謎が明かされたことで、以前、筆頭魔術師が一人でいる時に水晶に浮かんだ文字とやらは、やはり警告だったと結論づけられた。
“偽者”や“破滅”という文字に筆頭魔術師は覚えがあったと言う。
───このまま偽者を崇めていると国は破滅する。雨はその始まりに過ぎない───
そんな言葉だった可能性が高い……ということで落ち着いた。
そうして、もはや“用済み”となった私たち──
予定ではもう少しルウェルン国に滞在するはずだったのに、切り上げて帰国するという。
私たちに向かってそう説明した時の青白い顔をしたクリフォード殿下は、一切、私の目を見ようともしなかった。
そんな殿下は帰国前この国の王子殿下に呼び出されているという。
なので、殿下が戻ってくるまでは帰れないので待機するしかない。
私は、部屋でぼんやりと待つことにした。
ふと、窓の外に目を向ける。
(いい天気……晴れ間なんてこの国に来て久しぶりに見たわ)
クロムウェル王国の……長雨は偶然なんかではなく……警告だった。
そんな報告をされたら私の人生は滅茶苦茶よ!
はぁ、とため息を吐いた時、部屋の扉がノックされた。
(もしかして? 話が終わったクリフォード殿下かしら?)
やっぱり私が恋しかったから真っ直ぐ会いに来てくれたとか??
そう思いながら顔を出したら、そこに居たのは殿下ではなく……
「───サヴァナ」
「……お父様」
同じく待機中のお父様だった。
期待させんじゃないわよ!
そんな気持ちでお父様を睨みつけると、お父様はうっ……と小さく唸って黙り込んだ。
「……」
「……」
互いに言葉が出てこないため、気まずい空気が流れる。
(いったい何しに来たのよーーーー!)
「サ……」
そして、お父様が何かを言いかけたその時だった。
部屋の窓から見える庭園に二人の人影が見えた。
よくよく目を凝らすと、それはお姉様と、何故かお姉様なんかを愛してると言ったあのかっこいい魔術師だった。
「……チッ」
(お姉様なんかの何処がいいのよ……絶対に私の方がお似合いだと思うのに)
今朝、魔術師の頬は誰かに殴られたようでびっくりするくらい腫れていたけれど、美貌がまったく損なわれておらず、あんないい男に愛されているらしいお姉様が憎い。
そんな気持ちで二人を睨んでいると──……
(は? 二人で手を繋いで……距離が近っ……え? 何やってるの?)
魔術師がお姉様の耳元で何か囁いたのか、お姉様の表情はパッと華やいで嬉しそうに笑う。
そんなお姉様のことを見る魔術師の目はとても優しい。
とにかくお姉様のことが愛おしいというのが伝わって来るようで───……
ギリっと唇を噛む。
(どうして? どうしてお姉様なの?)
「知らなかった……マルヴィナはあんな風に笑う子だったのだな……」
「え?」
気がつくと私の隣に立って窓の外を見つめながらお父様がボソッと呟いた。
「十九年間……マルヴィナがあんな嬉しそうに笑った顔など見たことがなかった……」
「お父様?」
「知らなかった……私は……本当に何も……何も知らず…………」
ガクッと項垂れるお父様。
どうやらお父様は昨日、お姉様に言われた
────クロムウェル王国なんかに未練はありませんので、どうぞ私のことはお構いなく!
という言葉が相当ショックだったようで、ずっと項垂れている。
今更、お姉様を追い出したことを後悔しているらしい。
「お父様、もう戻らないなんて言うお姉様なんか、放っておけばいいじゃない!」
「……」
「大丈夫よ、私が王妃になれば……」
「────サヴァナ」
お父様がじっと私を見ると、首を横に振りながら言った。
「お前が王妃になることはない」
「は? お父様ったら何を言っているの? 私と殿下は婚約しているのよ?」
「そのクリフォード殿下との婚約だが───」
「……?」
……ドクンッ
心臓が嫌な感じに跳ねた。私の背中に冷たい汗が流れる。
(嫌な予感がするのは気のせい……よね?)
お父様がそんな真剣な顔をするからいけないのよっ!
そうやって必死に嫌な予感を打ち消そうとした私にお父様が告げた。
「今朝、クリフォード殿下に言われたのだ」
「い、言われた……?」
「────サヴァナとは婚約破棄をしたい、と」
お父様の発したその言葉に私は目を大きく見開くとヒュッと息を呑んだ。
❋❋❋
帰国前のサヴァナがちょうど“婚約破棄”の話を聞かされていた頃。
私はトラヴィス様と共に王宮の庭園にいた。
「お花を摘んで帰っていいだなんて王子殿下も太っ腹ですね」
「昨日、殴ったことのお詫びだと言っていたが……」
そう言われてトラヴィス様の頬に目を向ける。
「まだ、痛いですよね?」
「少し」
私は、まだトラヴィス様の腫れている頬を見ながら思う。
(私にも“癒しの力”が使えたらいいのに───)
「どうした? マルヴィナ」
「いえ……早く良くなりますように、と」
「ああ、ありがとう」
私たちは、目が合ってフフッと微笑み合う。
「そうだ、マルヴィナ」
「はい」
「今頃、イライアス殿下とあの阿呆王子が顔を合わせている頃だと思うけど」
「あ、そうですね?」
帰国させる前にどうしてもとイライアス殿下の方が話がしたいと頼み込んだらしい。
「今頃、あの阿呆王子はこの国に来たことを色々と後悔しているかもしれないよ」
「え?」
「色々と頼んでおいた。ま、自業自得だからね」
(た、頼んだ……?)
そう口にしたトラヴィス様の笑顔はとっても黒かった。
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