聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第一部:第二章 希望を胸に

(四)始まりは…③

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 翌日、騎士団の任務交代時期により、第四騎士団が王都に帰還した。
 交代で第六騎士団が、北方の帝国との境界近くにあるアスカルド砦で、その任に就いている。
 第四騎士団の長、ガレン・シジャードは、王城にある軍務省で帰還報告を終えた後、軍務省の会議室に行くよう指示された。
 会議室は、第一騎士団長のサンドワーズ、第二騎士団長のランドルフ、第八騎士団長のジャハネートが既に着座していた。
「皆さん、お久しぶり」
 明るい口調で挨拶をする。
 シジャードは三十代前半の美男子であり、筋骨隆々なランドルフと比べれば、優男と言ってしまっても過言ではない。
 だが、実際には『穿つ者』の異名を持つ槍の使い手でもある。一突きで直線上の全てを穿つ、と噂される程の猛者である。
 見た目の良さもあり、女性からの人気が高い。
 噂は誇張されすぎだろうが、彼の指揮する第四騎士団は、突撃力に於いて、王国騎士団最強、果ては大陸最強とまで言われている。槍を防衛線の維持ではなく、攻撃力に転化させた戦い方は彼の手腕あってこそである。

「今年の騎士学校の入学者はどうだった?」
 椅子に腰掛けながら、三人を見渡す。
「大体、例年通りといったところだな。一部を除いて」
 ランドルフが憮然として答える。
「ん?良くなかったのか?」
 不思議そうに首を傾げるシジャードを見て、ジャハネートが笑った。
「筋肉馬鹿は色々とあってな、その話はしたくないらしい」
「ふぅん。そういや、ランドルフには言っただろ?『今年は物凄いのが入学すると思うぞ』って」
 シジャードは気になった事があるように、問いかけた。
「あれ予言だか、冗談じゃなかったのか? 本気で言ってたのか……?」
 呆れたようにランドルフが返す。
「冗談のつもりは無いよ。知人の娘でラーソルバールっていう、珍しい名前の子なんだが、居なかったか」
「居たよ。知ってるのか?」
 ジャハネートから笑みが消え、真剣な表情になった。
 いつも不敵な態度でいる彼女が、妙に真面目な表情に変わったのが、シジャードは気になった。
 話に興味があるという事だろうか。
「言うほどでもなかったか?」
 全てを知っているようにしながらも、小首を傾げ微笑するシジャードには、きっと悪魔の尻尾が生えてるに違いない。
「あのなぁ、物凄いとかで済む話じゃねぇぞ。帝国の猛者どもにも負けねえよ。うちの騎士団員も太刀打ちできねぇとか、ありえねぇだろ」
 怒っているというか、呆れているというか、とりあえず文句が言いたいらしい。
「戦場であの見た目に騙されたら即刻地獄行きだわ。俺は危うく試験で団長としての威厳を損ねるところだったんだぞ! 知ってたんなら名前くらいは教えておけよな!」
「損なうような威厳なんて無いだろ? 大体、お前は名前を教えたところで、『入学前の小娘ならたかが知れてる』とか言って、気にもしないだろうよ」
 図星である。例年の入学試験では、良くても現役の騎士団員よりやや劣る程度の者しかいなかった。それ故、多少強い者が混じって居たとしても、ランドルフには軽くあしらう自信はあった。
 あれだけの強さを持った者が受験してくるなど、全く想像もしていない。
 だが、シジャードが直接指南したというなら、あの強さも分からないでもないが。
「あぁ、俺はあの娘に何も教えてないよ。剣なんか教えられんし。自慢じゃないが、剣なら勝てる気がしない」
 視線に気付いたのか、あっけらかんと言ってのけ、能天気に笑うシジャードを見て、ランドルフは怒る気も失せてしまった。
「じゃあ、誰に教わった?」
「独学だと思うよ。親父さんとも違うしな…。ああ、時々学校の練習風景眺めてたって言ってたかな。」
 ……あれ、とランドルフは首を傾げた。
「あれが独学……? ん……親父?」
「おっと、そこから先は本人に口止めされてるから内緒で……」
 そこまで話した所で、軍務大臣のナスタークが入室してきて、雑談は終了となった。

 同日、騎士学校ではクラス長の会合が行われたのだが、フォルテシアは明らかに疲労した様子で戻ってきた。
 事前の話では、顔合わせ程度という予定だったのだが……。他のクラス長は、エラゼルやグレイズを含め、みな曲者揃いだったようで、初日だというのに収拾がつかなかったらしい。
 ラーソルバールはフォルテシアに同情すると共に、申し訳ない気持ちで一杯になった。
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