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第一部:第二章 希望を胸に
(四)始まりは…②
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しばらくすると、黒髪の少女が二人の方へ歩いてきた。フォルテシアだった。
「練習しているところ済まない。私も混ぜてくれないか」
「どうぞ」
笑顔で迎えるシェラ。
「ここで練習している人が居ると聞いて、先ほど二人が話していた事を思い出したんだ」
ぶっきらぼうな物言いだが、不快感を与えるものではない。むしろ、努めて温和に話しているようにも感じる。
「私はもうヘトヘト。ラーソルの相手はきついわ。フォルテシア、変わって」
解放されたとばかりにシェラは座り込む。
「こらこら、私は怪物か何かか?」
「その類です」
シェラはニヤリと笑った。
「では、代わりを勤めさせてもらおう。手加減無しで良いか」
そう言うフォルテシアの顔が、心なしか嬉しそうに見えた。
「手加減なんていらないよ、私の代わりに叩きのめしておいて」
そう言って笑いながら、シェラはフォルテシアに声援を送ると、二人の動きを見つめた。
開始の合図は無いが、互いに剣を構える。
ゆったりと構えたラーソルバールに対し、先にフォルテシアが襲いかかった。素早く振り下ろして薙ぐ。それは無駄の無い動きだったが、ラーソルバールは振り下ろされた剣を体を捻って避け、横薙ぎの剣を自らの剣で跳ねあげた。
「な……」
驚くフォルテシアの頭を剣がコツンと叩いた。
「イタっ!」
全く相手にされなかった事に、フォルテシアは驚いた。同年代の相手であれば、遅れは取らない自信があったからだ。簡単に避けられるような、安易な攻撃はしていないつもりだった。
「怪物の類いだってば」
戸惑うフォルテシアに、シェラが声をかけた。
「そうか」
自分は自惚れていたのか。そう理解して、頭を切り替える事にした。
もう一度剣を構え、切り込む。
しかし剣は空を切り、弾かれる。また弾かれ、空を切る。それが数度繰り返された。攻撃が単調なのか、踏み込みが甘いのか。
捉える事が出来ないと分かり、フォルテシアは一旦間合いを取る。
「攻撃してもいい?」
「本気でやっていい」
問いに対して頷いた後、あえて言葉を付け加えた。自分の剣を軽々とあしらう相手の、本気がどの程度のものか見てみたかったからだ。
ラーソルバールは「うん」と短く答えると、一呼吸置いてから動いた。
「あっ…!」
迎え討ったはずの剣は避けられ、腹部に斬り込まれていた。
軽く当てるだけに留められた攻撃は、振り抜いていれば相当な衝撃だったはずだ。
「分かった。今の私では貴女に勝てない。だから、魔法を使っても良いか?」
「さすが。もう補助魔法使えるんだね。使って良いよ。私は魔法の訓練してないから苦手…というか使えないんだよね」
同意を得て、フォルテシアは詠唱を始める。
「風の力よ、大地の息吹よ……」
戦場では詠唱の暇など与えられない。無詠唱に近いほどまで短縮させるか、印を切って発動させる。そうでなければ、触媒を持ち歩く事になる、とフォルテシアは父に教えられた。恐らく学校でも同じことを教わるだろう。
これからはそれを修得しなければならない。
だが、今は出来ることをやる。
詠唱を終え、速度強化魔法を発動させると、フォルテシアは剣を握る手に力を入れた。
「いくぞ」
先程とは明らかに違う速度の剣が、ラーソルバールを襲う。それを弾き返すと、次の攻撃が来る。
ラーソルバールは速度強化された相手と、剣を合わせた事がない。
「こんなに違うんだ」
口には出さなかったが、正直驚いた。二割程は動きが違う。
弾き返しながら、時折反撃を加える。反応速度は変わらないが対応時間が速い。
感心して気を抜いていたら、危うくフォルテシアに一撃入れられるところだった。
三十程数える頃、フォルテシアの速度が落ちた。魔法の効果時間が切れたのだろう。
「駄目か」
フォルテシアは効果時間中に、ラーソルバールに一矢報いたかったのだろう。
攻撃は全て避けられるか止められた。反撃も様子見程度のもので、本気を出させていない。
まだ足りない。
息を切らしながら、ラーソルバールを見つめた。
「何が足りない? 教えて欲しい」
そう聞かれてラーソルバールは困ったような顔をした。
「私は半分は自己流だから、他の人に何かを教える事はできないよ。これからそれを学校で教わるんじゃないかな。でも……」
そう言って横で見ていたシェラに視線をやる。
んー、と唸った後でシェラは思い付いたようにフォルテシアの顔を見た。
「手首を使ってないから……だと思うよ。人がやってるのを見ると、自分がやってる時と違う発見があるね」
シェラの答えに、ラーソルバールは満面の笑みを浮かべた。
何か納得したような表情で、フォルテシアは自分の手元を見つめた。
「練習しているところ済まない。私も混ぜてくれないか」
「どうぞ」
笑顔で迎えるシェラ。
「ここで練習している人が居ると聞いて、先ほど二人が話していた事を思い出したんだ」
ぶっきらぼうな物言いだが、不快感を与えるものではない。むしろ、努めて温和に話しているようにも感じる。
「私はもうヘトヘト。ラーソルの相手はきついわ。フォルテシア、変わって」
解放されたとばかりにシェラは座り込む。
「こらこら、私は怪物か何かか?」
「その類です」
シェラはニヤリと笑った。
「では、代わりを勤めさせてもらおう。手加減無しで良いか」
そう言うフォルテシアの顔が、心なしか嬉しそうに見えた。
「手加減なんていらないよ、私の代わりに叩きのめしておいて」
そう言って笑いながら、シェラはフォルテシアに声援を送ると、二人の動きを見つめた。
開始の合図は無いが、互いに剣を構える。
ゆったりと構えたラーソルバールに対し、先にフォルテシアが襲いかかった。素早く振り下ろして薙ぐ。それは無駄の無い動きだったが、ラーソルバールは振り下ろされた剣を体を捻って避け、横薙ぎの剣を自らの剣で跳ねあげた。
「な……」
驚くフォルテシアの頭を剣がコツンと叩いた。
「イタっ!」
全く相手にされなかった事に、フォルテシアは驚いた。同年代の相手であれば、遅れは取らない自信があったからだ。簡単に避けられるような、安易な攻撃はしていないつもりだった。
「怪物の類いだってば」
戸惑うフォルテシアに、シェラが声をかけた。
「そうか」
自分は自惚れていたのか。そう理解して、頭を切り替える事にした。
もう一度剣を構え、切り込む。
しかし剣は空を切り、弾かれる。また弾かれ、空を切る。それが数度繰り返された。攻撃が単調なのか、踏み込みが甘いのか。
捉える事が出来ないと分かり、フォルテシアは一旦間合いを取る。
「攻撃してもいい?」
「本気でやっていい」
問いに対して頷いた後、あえて言葉を付け加えた。自分の剣を軽々とあしらう相手の、本気がどの程度のものか見てみたかったからだ。
ラーソルバールは「うん」と短く答えると、一呼吸置いてから動いた。
「あっ…!」
迎え討ったはずの剣は避けられ、腹部に斬り込まれていた。
軽く当てるだけに留められた攻撃は、振り抜いていれば相当な衝撃だったはずだ。
「分かった。今の私では貴女に勝てない。だから、魔法を使っても良いか?」
「さすが。もう補助魔法使えるんだね。使って良いよ。私は魔法の訓練してないから苦手…というか使えないんだよね」
同意を得て、フォルテシアは詠唱を始める。
「風の力よ、大地の息吹よ……」
戦場では詠唱の暇など与えられない。無詠唱に近いほどまで短縮させるか、印を切って発動させる。そうでなければ、触媒を持ち歩く事になる、とフォルテシアは父に教えられた。恐らく学校でも同じことを教わるだろう。
これからはそれを修得しなければならない。
だが、今は出来ることをやる。
詠唱を終え、速度強化魔法を発動させると、フォルテシアは剣を握る手に力を入れた。
「いくぞ」
先程とは明らかに違う速度の剣が、ラーソルバールを襲う。それを弾き返すと、次の攻撃が来る。
ラーソルバールは速度強化された相手と、剣を合わせた事がない。
「こんなに違うんだ」
口には出さなかったが、正直驚いた。二割程は動きが違う。
弾き返しながら、時折反撃を加える。反応速度は変わらないが対応時間が速い。
感心して気を抜いていたら、危うくフォルテシアに一撃入れられるところだった。
三十程数える頃、フォルテシアの速度が落ちた。魔法の効果時間が切れたのだろう。
「駄目か」
フォルテシアは効果時間中に、ラーソルバールに一矢報いたかったのだろう。
攻撃は全て避けられるか止められた。反撃も様子見程度のもので、本気を出させていない。
まだ足りない。
息を切らしながら、ラーソルバールを見つめた。
「何が足りない? 教えて欲しい」
そう聞かれてラーソルバールは困ったような顔をした。
「私は半分は自己流だから、他の人に何かを教える事はできないよ。これからそれを学校で教わるんじゃないかな。でも……」
そう言って横で見ていたシェラに視線をやる。
んー、と唸った後でシェラは思い付いたようにフォルテシアの顔を見た。
「手首を使ってないから……だと思うよ。人がやってるのを見ると、自分がやってる時と違う発見があるね」
シェラの答えに、ラーソルバールは満面の笑みを浮かべた。
何か納得したような表情で、フォルテシアは自分の手元を見つめた。
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