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第一部:第三章 学校生活
(三)思い出と因縁(前編)③
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そして、初めてその相手を認識する日が訪れた。それは年に一度の学年一斉の運動能力測定だった。
男子生徒顔負けの結果を連発するエラゼルだったが、そのうちのいくつかを、後のクラスの生徒に塗り替えられていた。
それを知ったのは、クラスメイトの会話からだった。
クラスの女子生徒には今まで負け無しだったが、他クラスとの比較は今まで行われていなかった為に、慢心していたのかもしれない。
自分の記録の上をいったのは誰なのか、気になり、エラゼルは掲示されていた暫定記録表を見つめた。
『ラーソルバール・ミルエルシ』
エラゼルにとって、宿敵とも言えるその名が記されていた。
歴史だけが得意な文学系の生徒に違いない、そう思い込んでいた相手の名が、ここに記されているとは思わなかった。
そもそも、ラーソルバールという珍しい名が、男か女かさえも、分かっていなかったのだが。
この機会に自らの目で、その姿を見なくてはならない。
エラゼルは待ち時間中、後続クラスの女子生徒を凝視し続けた。
ひとり、ふたりと数えつつ見つめていたが、そんなに動きの良い人物は見当たらない。
半分ほどの女子生徒が測定を終えた時だった。
今までの生徒とは明らかに違う動きで、その女子生徒は走り出した。
細身だが全身がしなやかに弾み、一瞬で加速すると無駄の無い美しい走りで隣の男子生徒を置き去りにした。そして今まで見た誰よりも早く、ゴールラインを通過して行った。
間違いない。エラゼルは確信した。
次の瞬間、予想が当たっていた事が判明する。
「ミルエルシさん」
教師の呼び掛けに、彼女は手を挙げて答えた。
外見上は、普通の娘に見える。
エラゼルはようやく、自身に苦汁を味わわせ続けてきた、宿敵の姿を認識することができた。
自分が勝たねばならない存在を。
彼女は自分の事をどう認識しているのか。同じように敵だと思っているのか、それとも意識すらしていないのか。
認識など、どうでもいい。
勝てば良い。
エラゼルの中で初めてこの学校の生徒を認識し、その相手に興味が湧いた瞬間だった。
今まで誰一人として幼年学校の生徒に興味が無く、顔も名前を覚えようと思わなかったエラゼルにとって、意識を変える切っ掛けになったと言って良い。
全種目を二巡したところで、運動能力測定は終了した。
結局、エラゼルは八種目のうち三種目を制したが、四種目を宿敵に持っていかれた。
悔しさも有るが、来年取り返すしかない、と割りきった。
意外にあっさりと、気持ちを切り替えることができたのは、相手が「宿敵」だったからに他ならない。
残った一種目は、腕力が主体の競技であったため、二人とは別の、力自慢の女子生徒が制していた。
だがエラゼルは、力自慢をするつもりなど毛頭無いため、その事は特に気にもしなかった。
翌年も、その次の年も、同じような状況が続いた。
歴史で負け続け、運動能力測定は、ほぼ互角。
エラゼルにとっての四年目も、同じような結果で終わった。
ラーソルバールとすれ違う事が有ったが、エラゼルの視線に気付くと、向こうは会釈して通り過ぎていく。
自分と同じように、好敵手か宿敵として認識しているものと思っていたが、そうでは無かったらしい。
すれ違うこと何度目か。エラゼルはついに感情を押さえきれなくなった。
「ラーソルバール・ミルエルシ!」
エラゼルは叫んでいた。
男子生徒顔負けの結果を連発するエラゼルだったが、そのうちのいくつかを、後のクラスの生徒に塗り替えられていた。
それを知ったのは、クラスメイトの会話からだった。
クラスの女子生徒には今まで負け無しだったが、他クラスとの比較は今まで行われていなかった為に、慢心していたのかもしれない。
自分の記録の上をいったのは誰なのか、気になり、エラゼルは掲示されていた暫定記録表を見つめた。
『ラーソルバール・ミルエルシ』
エラゼルにとって、宿敵とも言えるその名が記されていた。
歴史だけが得意な文学系の生徒に違いない、そう思い込んでいた相手の名が、ここに記されているとは思わなかった。
そもそも、ラーソルバールという珍しい名が、男か女かさえも、分かっていなかったのだが。
この機会に自らの目で、その姿を見なくてはならない。
エラゼルは待ち時間中、後続クラスの女子生徒を凝視し続けた。
ひとり、ふたりと数えつつ見つめていたが、そんなに動きの良い人物は見当たらない。
半分ほどの女子生徒が測定を終えた時だった。
今までの生徒とは明らかに違う動きで、その女子生徒は走り出した。
細身だが全身がしなやかに弾み、一瞬で加速すると無駄の無い美しい走りで隣の男子生徒を置き去りにした。そして今まで見た誰よりも早く、ゴールラインを通過して行った。
間違いない。エラゼルは確信した。
次の瞬間、予想が当たっていた事が判明する。
「ミルエルシさん」
教師の呼び掛けに、彼女は手を挙げて答えた。
外見上は、普通の娘に見える。
エラゼルはようやく、自身に苦汁を味わわせ続けてきた、宿敵の姿を認識することができた。
自分が勝たねばならない存在を。
彼女は自分の事をどう認識しているのか。同じように敵だと思っているのか、それとも意識すらしていないのか。
認識など、どうでもいい。
勝てば良い。
エラゼルの中で初めてこの学校の生徒を認識し、その相手に興味が湧いた瞬間だった。
今まで誰一人として幼年学校の生徒に興味が無く、顔も名前を覚えようと思わなかったエラゼルにとって、意識を変える切っ掛けになったと言って良い。
全種目を二巡したところで、運動能力測定は終了した。
結局、エラゼルは八種目のうち三種目を制したが、四種目を宿敵に持っていかれた。
悔しさも有るが、来年取り返すしかない、と割りきった。
意外にあっさりと、気持ちを切り替えることができたのは、相手が「宿敵」だったからに他ならない。
残った一種目は、腕力が主体の競技であったため、二人とは別の、力自慢の女子生徒が制していた。
だがエラゼルは、力自慢をするつもりなど毛頭無いため、その事は特に気にもしなかった。
翌年も、その次の年も、同じような状況が続いた。
歴史で負け続け、運動能力測定は、ほぼ互角。
エラゼルにとっての四年目も、同じような結果で終わった。
ラーソルバールとすれ違う事が有ったが、エラゼルの視線に気付くと、向こうは会釈して通り過ぎていく。
自分と同じように、好敵手か宿敵として認識しているものと思っていたが、そうでは無かったらしい。
すれ違うこと何度目か。エラゼルはついに感情を押さえきれなくなった。
「ラーソルバール・ミルエルシ!」
エラゼルは叫んでいた。
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