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第一部:第四章 ラーソルバールの休暇(前編)
(三)少しだけの涙③
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「さて、面白いものも手にいれたし、私達はそろそろ出立するよ。けど、またここに買い付けに来るし、王都にもそのうちまた行くから、また会うことも有るかな。色々と有り難うね、お嬢様」
そう言うと、メルーナは悪戯っぽい顔をした。
行商を行っていた二人も戻ってきており、すぐに支度を整えていた。
慌ただしく荷物を積み込み、三人は馬車に乗り込んだ。
「元気でね。美人に育つんだよ」
寂しさを紛らわせるためか、メルーナは冗談を交えて別れの挨拶をする。
「またお会い出来る日を」
昨日会ったばかりの人達だが、別れるとなると寂しさが募る。きっと良い出会いだった、ということなのだろう。
去っていく馬車から手を振る三人の姿が見えなくなるまで、手を振り返し続けた。
「慌ただしい出立でしたね」
後ろから声がした。
宿の前に立ち尽くしていたので、女将が気になって中から出てきたようだった。
「おや、お嬢様、泣いているんですか?」
「え……あれ……?」
女将に言われて目元に触れると、その手が濡れた。
泣いていたことに気付かなかった。
「いつからだろう。別れ際に涙見せちゃったかな? 良い人達だったから、別れるのが寂しくなっちゃって……」
涙声で話すラーソルバールを、暖かいものが包み込んだ。
「お嬢様は寂しがり屋ですねえ」
「ターシャさん……」
ラーソルバールを背後から抱き締める女将の顔が、笑っているように見えた。
「何で笑ってるんですか?」
「役得だからですよ。お嬢様を抱き締める機会なんて、なかなか無いですからね」
どこまで本心か分からないが、その笑顔が、ラーソルバールには嬉しかった。
幼くして亡くした母親は、こんな感じだった気がする。ラーソルバールも向き直って、両手を回し抱きついた。
優しさに包まれ、少しだけ寂しさが薄らいだ気がする。
「さ、宿に戻りますよ。今日はここに宿泊されるんでしょう?」
ラーソルバールは女将の腕の中で、無言で頷いた。
「夕食はいつも通り、情報収集も兼ねて隣で召し上がりますか?」
「今日は賑やかな所で食べる気分じゃないので、宿で食べても良いですか」
上目遣いでせがむ、駄々をこねる幼子のようにも見えた。
「任せてくださいな!」
頼られたと思ったのか、女将は嬉しそうに承諾する。無理を言ったかと思っていたラーソルバールだが、それを見て少し安心した。
「さあ、中に入りますよ。夕食の支度をしなくちゃね」
張り切る女将の姿が、どこか頼もしげに見えた。
そう言うと、メルーナは悪戯っぽい顔をした。
行商を行っていた二人も戻ってきており、すぐに支度を整えていた。
慌ただしく荷物を積み込み、三人は馬車に乗り込んだ。
「元気でね。美人に育つんだよ」
寂しさを紛らわせるためか、メルーナは冗談を交えて別れの挨拶をする。
「またお会い出来る日を」
昨日会ったばかりの人達だが、別れるとなると寂しさが募る。きっと良い出会いだった、ということなのだろう。
去っていく馬車から手を振る三人の姿が見えなくなるまで、手を振り返し続けた。
「慌ただしい出立でしたね」
後ろから声がした。
宿の前に立ち尽くしていたので、女将が気になって中から出てきたようだった。
「おや、お嬢様、泣いているんですか?」
「え……あれ……?」
女将に言われて目元に触れると、その手が濡れた。
泣いていたことに気付かなかった。
「いつからだろう。別れ際に涙見せちゃったかな? 良い人達だったから、別れるのが寂しくなっちゃって……」
涙声で話すラーソルバールを、暖かいものが包み込んだ。
「お嬢様は寂しがり屋ですねえ」
「ターシャさん……」
ラーソルバールを背後から抱き締める女将の顔が、笑っているように見えた。
「何で笑ってるんですか?」
「役得だからですよ。お嬢様を抱き締める機会なんて、なかなか無いですからね」
どこまで本心か分からないが、その笑顔が、ラーソルバールには嬉しかった。
幼くして亡くした母親は、こんな感じだった気がする。ラーソルバールも向き直って、両手を回し抱きついた。
優しさに包まれ、少しだけ寂しさが薄らいだ気がする。
「さ、宿に戻りますよ。今日はここに宿泊されるんでしょう?」
ラーソルバールは女将の腕の中で、無言で頷いた。
「夕食はいつも通り、情報収集も兼ねて隣で召し上がりますか?」
「今日は賑やかな所で食べる気分じゃないので、宿で食べても良いですか」
上目遣いでせがむ、駄々をこねる幼子のようにも見えた。
「任せてくださいな!」
頼られたと思ったのか、女将は嬉しそうに承諾する。無理を言ったかと思っていたラーソルバールだが、それを見て少し安心した。
「さあ、中に入りますよ。夕食の支度をしなくちゃね」
張り切る女将の姿が、どこか頼もしげに見えた。
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