聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第一部:第五章 ラーソルバールの休暇(後編)

(二)剣の重さ①

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(二)

 緊張の連続だった食事を終え、あとはデザートを残すのみとなった。
 何を食べたか、何を話したか、緊張のあまり覚えていない。マナーに気をつけ、食事をこぼさぬ様に細心の注意を払い、ようやく終えた、という気がしている。
 ラーソルバールが息をつこうとした時、伯爵の表情が変わった。
「今日のうちに王都へ早馬をとばせておいた」
 伯爵の動きは早かった。
 明日の朝一番に、家臣が国王への面会申請をしておき、王都に到着次第登城する予定でいるらしい。
「王都に戻るのなら、明日一緒に馬車に乗って行くと良い」
「いえ、何から何までお世話になる訳には……」
「護衛の二人には、途中まで同行し、馬を預けてカンフォールへ戻って貰えば良いのではないかな」
 全部段取りが出来ているのではないか。今までの事といい、相当な手際の良さだ。
 豊かではなかったこの地域を、伯爵が一代で大きく発展させたというのは、本当の話らしい。

「デザートとお茶をご用意致しました」
 執事とメイドが、デザートと茶をテーブルに置いていく。
「普段飲んでいるお茶の、どれとも香りが違いますね。新しい物ですか? 華やかで良い香り……」
 カップから立つ香りに、夫人が反応した。
「さすがは奥様。これはミルエルシ様より頂戴致しました茶葉にございます」
「あら、ラーソルバールちゃん、ありがとう」
 夫人は嬉しそうにラーソルバールを見た。
「いえ、伯爵様にお願いが有って参りましたのに、手ぶらでは失礼ですから、カンフォール村の最上の茶葉をお持ち致しました。皆様のお口に合えば幸いです」
「お茶もいいけれど、お願いの対価はラーソルバールちゃんがいいのに」
 本気とも冗談ともつかぬことを言う。似たような事を何度も言うのだから、案外これが本音なのかもしれない。
「あら、美味しい! 香りだけでなく、ちょっとした甘さと苦味と渋みがいいわ」
 カップに口をつけ茶を僅かに口に含んだ後、婦人が驚いたように声を上げた。
「これは確かに、ガラントの最高級茶葉に負けない良いものだ」
 夫人に続いて伯爵も称賛の言葉を口にする。
 進物の品だけに、世辞も有るのだろうが、カンフォール村の物が誉められる事が、ラーソルバールには嬉しかった。
 デザートのムースも、茶葉に合わせてくれたようで、お互いに引き立て合って、絶妙な美味しさだった。ラーソルバールの口内に、幸福なひとときをくれた料理人に、お礼を言いたくなった。
 機嫌良く、ティーカップを置いたのを、見計らったかのように、伯爵が口を開いた。
「そういえば、こちらで預かっている剣を念のため確認させてもらった。青白く光るあの剣は何か特殊な加工がしてあるのかね?」
 預けた武器を確認するのは当然とは思うが、剣自体に興味を持ったのだろうか。その質問には深い意図が有るようには感じない。
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