聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第一部:第七章 部隊演習

(一)斥候③

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「そろそろ戻ってきても良い頃だと思うが」
 赤軍の六班班長は、斥候が戻らない事に苛立ちを募らせていた。
「やられたのかもしれないねえ」
 隣の副班長が不満そうに返した。
「やられたって、お前、五人も出しておけば大丈夫って言っただろう?」
「言ったさ。五人も居れば、相手の斥候と鉢合わせしても、何とかなるはずだし、部隊が来て気付かれても散開して逃げれば、何人かは戻る」
「それは確かにそうだが……」
 副班長の理論に言い負かされて、班長は何も言えなくなった。
「それに、班の人数だって二十名だ。これ以上割けるか!」
 反論の余地がない。
 仲間同士で諍いを起こしている場合ではない。指揮官はこういう場合、腹をくくるしかない。
「何にせよ、これ以上は待てないな」
「同感だ」
 副班長もすぐに冷静に戻った。
 こういう場合は慌てた方が損をする。今まで学んできた事だ。
「進軍するか、戻るかだが。進むべきだと思うが、どう思う?」
 班長の問いに一瞬悩んだ副班長だったが、結論を導き出した。
「戻るなら四班とも連携をとらないと駄目だ。だが、戻るのは危険だ。進むべきだ。」
「ならば、此方の動きが敵に知られている事を念頭に、攻撃に備えつつ、進撃するしかない」
「よし、四班にも伝達しよう」
 六班の判断は決した。

 僅かに先行していた四班に伝令が届いたのは、すぐ後の事だった。
「我が六班が偵察に出した数名が戻らないものの、進軍の予定に変更無し。四班は敵襲に注意しつつ進軍されたし」
 伝令兵を任された生徒は、四班の班長であるアルディスに伝え終えると、敬礼して戻ろうとする。
「あ、六班と合流してから進軍するため、こっちは少し停止する。その旨、伝えてくれ」
 六班の方針を聞き、伝令は戻った。
「うちは、木陰の目立たない所で休息だ。それでいいかい?」
「いいと思う」
 すぐに休息の指示が出され、一年生達は地面に座り込んだ。
 初めての野外での実戦的訓練と、それに伴う緊張感で、目に見えぬ疲労が溜まっていたのだろう。シェラも例外では無く、疲労に少し息を切らしていた。
「フォルテシアは良く平気だね」
「誰かの相手をしているよりは、ましだから」
 無表情に見える顔で皮肉を言うフォルテシア。シェラは本気とも冗談ともつかぬことを真顔で言う、フォルテシアの様子を見て苦笑した。
「その誰かさんは、どの辺に居るんだろうね」
「目の前には出てきて欲しくないな……」
「それはそうだね」
 木々の隙間から覗く、青空に向かって、大きく息を吐いた。
「訓練なのに、意外と緊張感あるもんだなぁ」
 もう少し、この独特の緊張感を味わっておく事が大事なのだろう。その為には、簡単にやられる訳にはいかない。
 シェラは妙案を思い付いた。
「フォルテシア、貴女にしかお願い出来ないことなんだけど……」

 ラーソルバールとエフィアナは、最初の『死亡者』達と別れを告げ、自らの班に戻ってきていた。
「斥候二名、只今戻りました。相手の斥候兵五名と交戦、殲滅致しました。敵軍の部隊ひとつは、西方、一レリュース(※一レリュースおよそ一キロメートル)辺りに居ると思われますが、他は視認出来ませんでした。その部隊の進軍方向に、若干木々の動きが怪しい箇所がありましたので、その辺りにも部隊が存在する可能性が有ります。以上、報告終わります!」
 隣に居たラーソルバールは、エフィアナを横目で見つつ黙っていたが、その堂々たる姿に憧れた。幼少時から見ていた彼女の姿と違う、騎士としての姿が立派に見えたからだ。
 隊列に戻ると、ラーソルバールのよく知るエフィアナの顔に戻った。
「とりあえず、お疲れ……。ね、ラーソルと一緒だったから上手く行ったでしょ?」
 頭を撫でるエフィアナの手が優しかった。
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