121 / 439
第一部:第十章 エラゼルとラーソルバール(中編)
(四)雪辱への序曲①
しおりを挟む
(四)
大会最終日の天候は晴天。
五日間の日程で行われ、雨も降らずにここまで行われてきた。エラゼルの願いが通じたということだろうか。
この日の最初の試合はラーソルバールと、ガラーテという男子生徒で行われ事になっていた。
前日、食堂で夕食を取っている際に、対戦相手の話になった。
この男子生徒はガイザのクラスの推薦入学者で、ガイザいわく「槍を得意としていて間合いに入りにくい」という事らしいが、ラーソルバールはこの話を特に聞いていなかった。
「先入観を持ちたくないから情報は要らない」という事だった。
ラーソルバールは更に付け加えた。
「大体、向こうはこちらの事を知らないんだから、不公平でしょ」
そう言われたガイザは、何も言わなかったが、内心思うところがあった。
(お前の情報や噂はあちこちで飛び交ってるから、知らない奴なんかいないぞ。試合もじっくりと見られているぞ)
そうは言っても試合自体は瞬時に終わらせているので、参考にはならないだろうが。
そんなガイザの不安を余所に、試合開始直後ラーソルバールは剣は構えたものの何もせずに立ったままだった。
これは槍の間合いを恐れて動けないに違いない。
ラーソルバールの反応をそう受け取ったガラーテ。自分の間合いで胸元を狙うように槍を突き出したのだが……。
ラーソルバールは剣で槍を軽く受け流すと、そのまま軽く地を蹴って懐に入り込み、即座に胴切りを決めてしまった。
あまりの事にガラーテは理解できず攻撃を続行しようとしたが審判員に制止され、そのまま間を置くことなくラーソルバールの勝利が宣告されて試合は終わった。
力を抜いて軽く当てるにとどめた攻撃が、理解できなかったのだろう。ガラーテは猛烈に抗議したが判定が覆るはずもない。審判員に全く相手にされず、再考の余地一切無しとして追い返されてしまった。
それでも諦めきれないガラーテは判定に対する不服をわめきたてたが、周囲の印象を悪くするだけで、何も得るものは無いという事に気付かない。更に審判員に抗議を継続しようとしたところを、後ろに控えていたエラゼルが眼光鋭く睨んだため、発言を撤回し、逃げるように下がっていった。
「余計な情けをかけるから、敗者がつけ上がる」
苛立ったようにエラゼルが呟いた。その苛立ちは、どちらに向けられたものなのか。それは本人にしか分からない。
そしてエラゼルも剣を握り、ラーソルバールと入れ替わるように試合場へ上がる。
「あとふたつだ」
エラゼルは自分に言い聞かせるように呟くと、しなやかに剣を構えた。
この日試合のある八人は、試合場脇の椅子を使用することになっていた。
試合から戻ってきて椅子に腰掛けようとしていたラーソルバールだったが、試合開始の声を聞いて慌てて振り返った。その直後、エラゼルは相手の男子生徒の腹部に突きを入れて、あっさりと勝負を決めてしまった。
エラゼルの突きはかなりの衝撃だったのだろう。男子生徒は膝をつき、腹部を押さえていた。
「もう少し力を加減したら……?」
ラーソルバールは苦笑いをしながら、ひとりつぶやく。
勝者が宣言されたのを確認すると、表情を変えずにエラゼルは試合場から下りていった。
「そんな物は不要だ」
ラーソルバールのひとり言が聞こえていたのか、隣に居たグレイズが立ち上がりざまに言い放つ。ラーソルバールを睨みつけ、苛立ちを隠そうともしない。
横を見るとフォルテシアも静かに立ち上がり、ラーソルバールに視線を送りつつ微笑んだ。
「いってらっしゃい」
フォルテシアの微笑みに応えるように、笑顔でフォルテシアを送り出す。
「貴様はそこで大人しく見ていろ。この女を倒したらその次だ!」
グレイズはラーソルバールを睨みつけ、試合場に向かっていった。
大会最終日の天候は晴天。
五日間の日程で行われ、雨も降らずにここまで行われてきた。エラゼルの願いが通じたということだろうか。
この日の最初の試合はラーソルバールと、ガラーテという男子生徒で行われ事になっていた。
前日、食堂で夕食を取っている際に、対戦相手の話になった。
この男子生徒はガイザのクラスの推薦入学者で、ガイザいわく「槍を得意としていて間合いに入りにくい」という事らしいが、ラーソルバールはこの話を特に聞いていなかった。
「先入観を持ちたくないから情報は要らない」という事だった。
ラーソルバールは更に付け加えた。
「大体、向こうはこちらの事を知らないんだから、不公平でしょ」
そう言われたガイザは、何も言わなかったが、内心思うところがあった。
(お前の情報や噂はあちこちで飛び交ってるから、知らない奴なんかいないぞ。試合もじっくりと見られているぞ)
そうは言っても試合自体は瞬時に終わらせているので、参考にはならないだろうが。
そんなガイザの不安を余所に、試合開始直後ラーソルバールは剣は構えたものの何もせずに立ったままだった。
これは槍の間合いを恐れて動けないに違いない。
ラーソルバールの反応をそう受け取ったガラーテ。自分の間合いで胸元を狙うように槍を突き出したのだが……。
ラーソルバールは剣で槍を軽く受け流すと、そのまま軽く地を蹴って懐に入り込み、即座に胴切りを決めてしまった。
あまりの事にガラーテは理解できず攻撃を続行しようとしたが審判員に制止され、そのまま間を置くことなくラーソルバールの勝利が宣告されて試合は終わった。
力を抜いて軽く当てるにとどめた攻撃が、理解できなかったのだろう。ガラーテは猛烈に抗議したが判定が覆るはずもない。審判員に全く相手にされず、再考の余地一切無しとして追い返されてしまった。
それでも諦めきれないガラーテは判定に対する不服をわめきたてたが、周囲の印象を悪くするだけで、何も得るものは無いという事に気付かない。更に審判員に抗議を継続しようとしたところを、後ろに控えていたエラゼルが眼光鋭く睨んだため、発言を撤回し、逃げるように下がっていった。
「余計な情けをかけるから、敗者がつけ上がる」
苛立ったようにエラゼルが呟いた。その苛立ちは、どちらに向けられたものなのか。それは本人にしか分からない。
そしてエラゼルも剣を握り、ラーソルバールと入れ替わるように試合場へ上がる。
「あとふたつだ」
エラゼルは自分に言い聞かせるように呟くと、しなやかに剣を構えた。
この日試合のある八人は、試合場脇の椅子を使用することになっていた。
試合から戻ってきて椅子に腰掛けようとしていたラーソルバールだったが、試合開始の声を聞いて慌てて振り返った。その直後、エラゼルは相手の男子生徒の腹部に突きを入れて、あっさりと勝負を決めてしまった。
エラゼルの突きはかなりの衝撃だったのだろう。男子生徒は膝をつき、腹部を押さえていた。
「もう少し力を加減したら……?」
ラーソルバールは苦笑いをしながら、ひとりつぶやく。
勝者が宣言されたのを確認すると、表情を変えずにエラゼルは試合場から下りていった。
「そんな物は不要だ」
ラーソルバールのひとり言が聞こえていたのか、隣に居たグレイズが立ち上がりざまに言い放つ。ラーソルバールを睨みつけ、苛立ちを隠そうともしない。
横を見るとフォルテシアも静かに立ち上がり、ラーソルバールに視線を送りつつ微笑んだ。
「いってらっしゃい」
フォルテシアの微笑みに応えるように、笑顔でフォルテシアを送り出す。
「貴様はそこで大人しく見ていろ。この女を倒したらその次だ!」
グレイズはラーソルバールを睨みつけ、試合場に向かっていった。
0
あなたにおすすめの小説
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。
さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。
だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。
行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。
――だが、誰も知らなかった。
ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。
襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。
「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。
俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。
無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!?
のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!
出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた
黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆
毎日朝7時更新!
「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」
過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。
絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!?
伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!?
追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~
深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。
婚約破棄は構いませんが、私が管理していたものは全て引き上げます 〜成金伯爵家令嬢は、もう都合のいい婚約者ではありません〜
藤原遊
ファンタジー
成金と揶揄される伯爵家の令嬢である私は、
名門だが実情はジリ貧な公爵家の令息と婚約していた。
公爵家の財政管理、契約、商会との折衝――
そのすべてを私が担っていたにもかかわらず、
彼は隣国の王女と結ばれることになったと言い出す。
「まあ素敵。では、私たちは円満に婚約解消ですね」
そう思っていたのに、返ってきたのは
「婚約破棄だ。君の不出来が原因だ」という言葉だった。
……はぁ?
有責で婚約破棄されるのなら、
私が“善意で管理していたもの”を引き上げるのは当然でしょう。
資金も、契約も、人脈も――すべて。
成金伯爵家令嬢は、
もう都合のいい婚約者ではありません。
転生幼子は生きのびたい
えぞぎんぎつね
ファンタジー
大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。
だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。
神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。
たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。
一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。
※ネオページ、カクヨムにも掲載しています
異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない
葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3)
「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー)
ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。
神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。
そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。
ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。
早く穏やかに暮らしたい。
俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。
【毎日18:00更新】
※表紙画像はAIを使用しています
『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』
鷹 綾
恋愛
内容紹介
王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。
涙を流して見せた彼女だったが──
内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。
実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。
エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。
そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。
彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、
**「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。
「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」
利害一致の契約婚が始まった……はずが、
有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、
気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。
――白い結婚、どこへ?
「君が笑ってくれるなら、それでいい」
不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。
一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。
婚約破棄ざまぁから始まる、
天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー!
---
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる