聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第一部:第十章 エラゼルとラーソルバール(中編)

(四)雪辱への序曲①

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(四)

 大会最終日の天候は晴天。
 五日間の日程で行われ、雨も降らずにここまで行われてきた。エラゼルの願いが通じたということだろうか。
 この日の最初の試合はラーソルバールと、ガラーテという男子生徒で行われ事になっていた。
 前日、食堂で夕食を取っている際に、対戦相手の話になった。
 この男子生徒はガイザのクラスの推薦入学者で、ガイザいわく「槍を得意としていて間合いに入りにくい」という事らしいが、ラーソルバールはこの話を特に聞いていなかった。
「先入観を持ちたくないから情報は要らない」という事だった。
 ラーソルバールは更に付け加えた。
「大体、向こうはこちらの事を知らないんだから、不公平でしょ」
 そう言われたガイザは、何も言わなかったが、内心思うところがあった。
(お前の情報や噂はあちこちで飛び交ってるから、知らない奴なんかいないぞ。試合もじっくりと見られているぞ)
 そうは言っても試合自体は瞬時に終わらせているので、参考にはならないだろうが。

 そんなガイザの不安を余所に、試合開始直後ラーソルバールは剣は構えたものの何もせずに立ったままだった。
 これは槍の間合いを恐れて動けないに違いない。
 ラーソルバールの反応をそう受け取ったガラーテ。自分の間合いで胸元を狙うように槍を突き出したのだが……。
 ラーソルバールは剣で槍を軽く受け流すと、そのまま軽く地を蹴って懐に入り込み、即座に胴切りを決めてしまった。
 あまりの事にガラーテは理解できず攻撃を続行しようとしたが審判員に制止され、そのまま間を置くことなくラーソルバールの勝利が宣告されて試合は終わった。
 力を抜いて軽く当てるにとどめた攻撃が、理解できなかったのだろう。ガラーテは猛烈に抗議したが判定が覆るはずもない。審判員に全く相手にされず、再考の余地一切無しとして追い返されてしまった。
 それでも諦めきれないガラーテは判定に対する不服をわめきたてたが、周囲の印象を悪くするだけで、何も得るものは無いという事に気付かない。更に審判員に抗議を継続しようとしたところを、後ろに控えていたエラゼルが眼光鋭く睨んだため、発言を撤回し、逃げるように下がっていった。
「余計な情けをかけるから、敗者がつけ上がる」
 苛立ったようにエラゼルが呟いた。その苛立ちは、どちらに向けられたものなのか。それは本人にしか分からない。
 そしてエラゼルも剣を握り、ラーソルバールと入れ替わるように試合場へ上がる。
「あとふたつだ」
 エラゼルは自分に言い聞かせるように呟くと、しなやかに剣を構えた。

 この日試合のある八人は、試合場脇の椅子を使用することになっていた。
 試合から戻ってきて椅子に腰掛けようとしていたラーソルバールだったが、試合開始の声を聞いて慌てて振り返った。その直後、エラゼルは相手の男子生徒の腹部に突きを入れて、あっさりと勝負を決めてしまった。
 エラゼルの突きはかなりの衝撃だったのだろう。男子生徒は膝をつき、腹部を押さえていた。
「もう少し力を加減したら……?」
 ラーソルバールは苦笑いをしながら、ひとりつぶやく。
 勝者が宣言されたのを確認すると、表情を変えずにエラゼルは試合場から下りていった。
「そんな物は不要だ」
 ラーソルバールのひとり言が聞こえていたのか、隣に居たグレイズが立ち上がりざまに言い放つ。ラーソルバールを睨みつけ、苛立ちを隠そうともしない。
 横を見るとフォルテシアも静かに立ち上がり、ラーソルバールに視線を送りつつ微笑んだ。
「いってらっしゃい」
 フォルテシアの微笑みに応えるように、笑顔でフォルテシアを送り出す。
「貴様はそこで大人しく見ていろ。この女を倒したらその次だ!」
 グレイズはラーソルバールを睨みつけ、試合場に向かっていった。
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