聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

文字の大きさ
137 / 439
第一部:第十二章 幕開け

(一)年の瀬②

しおりを挟む
 寮母に挨拶をして外に出ると、街は慌ただしく動く人で溢れていた。
「それで、どこへ行くか決まっているの…ですか?」
 やはり言葉に迷いがある。
「今日は決めてないよ。入りたいところ有ったら相談して決めよう」
「ふむ」
 納得したように頷く。
「せっかくだし、何か買い物もしようか。夕方まで時間有るし」
「そうだね。家に何か買って帰ろうかな。エラゼルさんは欲しいもの有る?」
 即時にシェラが同意する。
「む……何というか、私はあまり街で外食や買い物をしたことがないので良くわからないのです…」
 顔を背け、もじもじと恥ずかしそうに答えるエラゼル。
(なんだろう、この可愛い娘は……?)
 今まで見たエラゼルの姿とは、全く違うものを目の当たりにして、シェラは驚きを隠せなかった。
 ちらりとラーソルバールを見たが、気にする様子もない。
 友達になったとは聞いていたが、何があったかまでは教えてくれなかった。きっと、こういう姿も見たことが有るのだろう。
「じゃあ、歩いて気になったところにね」
 シェラは頭をかいた。

 街を歩くと、時折鎧を着た冒険者とすれ違う。
 盗賊や怪物など周辺の治安が、未だにままならない状況なのだと思い知らされる。
 本来騎士団が対応すべきものでも、対応が後手に回れば彼らに頼らざるを得なくなる。
 騎士団にもできない事をやってくれたりする彼らは、街の便利屋のようなものだ。
 だが、中には不用意な行動をして事態を拡大させる者も居る。盗賊紛いの行動をしたり、莫大な報酬を要求したりする者の存在もあり、良い面ばかりではない。故に、必ずしも国民や騎士団にとって有難い存在とは言い切れない、
「最近、冒険者の姿を見かける事が多くなった気がするな」
「それだけ治安が悪化しているということなんだろうね」
 やや不満げに語るエラゼルにラーソルバールも応じる。
「帝国の計画で、国内各所で問題を起こしているんじゃないかと、誰かが言ってたよ」
「あながち無いとは言い切れないよね。この前の暴動だって……」
 ラーソルバールは言いかけて止めた。
 疑い始めたら際限が無くなってしまう。それは国が帝国に送り込んだ密偵が証拠を出してくるはずだ。
 噂話に惑わされないように、ちゃんと見極めなければいけない。
「ラーソルバール、このパテスティヤというのは何だ?」
 エラゼルの声で我に返る。
「え、ああ、麺が主体の料理だよ。食べたこと無い?」
「麺……とは何なのだ?」
 首を傾げるエラゼル。麺というもの自体を知らないらしい。
「説明するより、食べてみるのが早いね。シェラ、ここにしよう!」
「了解であります!」
 嬉しそうに答えるシェラ。実は彼女の大好物なのだった。
 店内に入ると席はほぼ満席で、三人は僅かに残っていたテーブルのひとつに案内される。
 若い娘三人で、いずれも人目を引く容貌だけに、周囲から視線が集まるが、酒場のような粗野さが無い分、気になる程では無い。
 特にエラゼルはそういったものに慣れているせいか、全く気にする様子も無い。
 席に座ると、すぐにメニューを渡された。
 だが、メニューに記載された品名だけでは何も分からずに、苦戦するエラゼル。暫しの後、シェラの説明で何とか趣向の合う物を見つけたらしく、ほっとしたように注文していた。
「ラーソルバールに聞きたい事が有るのですが……」
「なぁに?」
 食事が来るまでの間、背もたれに寄り掛かりって気を抜いていたラーソルバールは、その格好のままエラゼルの顔を見る。
「何故、戦闘の時に最初から本気を出さないのかと。…いや、責めている訳ではないのですが…」
 ためらいがちに聞くエラゼル。
 手を抜いても勝てると思われていたのだろうかと、エラゼルは気にしているようにも見えた。
 ちゃんと理由を言わねばならない。
「誤解をさせているようならごめんね。実際は手を抜いて戦っていた訳じゃないんだよ…。全力でやると体がついて来ないというか、負担が掛かって後で大変な事になるんだよね……。何度もそれで体を痛めちゃって。だからいつも『ここまでなら大丈夫』って手探りで、限界を見極めながらやっているというか…」
「ふむ…」
 少し納得したようだった。
「結局、最後の最後に無理をしちゃったから、ちょっと腕を傷めたんだよね」
「そうか…。理由が分かってすっきりした。腕のほうは無理をするなよ」
 エラゼルが優しい顔に戻った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

森聖女エレナ〜追放先の隣国を発展させたら元婚約者が泣きついてきたので処刑します〜

けんゆう
恋愛
緑豊かなグリンタフ帝国の森聖女だったエレナは、大自然の調和を守る大魔道機関を管理し、帝国の繁栄を地道に支える存在だった。だが、「無能」と罵られ、婚約破棄され、国から追放される。  「お前など不要だ」 と嘲笑う皇太子デュボワと森聖女助手のレイカは彼女を見下し、「いなくなっても帝国は繁栄する」 と豪語した。  しかし、大魔道機関の管理を失った帝国は、作物が枯れ、国は衰退の一途を辿る。  一方、エレナは隣国のセリスタン共和国へ流れ着き、自分の持つ「森聖力」の真価 に気づく……

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

悪役令嬢ですが、二度目は無能で通します……なので執事は黙っててください

放浪人
恋愛
社交界で“悪女”と呼ばれ、無実の罪で断罪された公爵令嬢リディア。 処刑の刃が落ちた瞬間、彼女は断罪される半年前の朝に時を遡っていた。 「二度目も殺されるなんて御免だわ。私は、何もできない無能な令嬢になって生き延びる!」 有能さが仇になったと悟ったリディアは、プライドも実績も捨てて「無能」を装い、北の辺境・白夜領へ引きこもる計画を立てる。 これで平和なスローライフが送れる……はずだった。 けれど、幼い頃から仕える専属執事・レージだけは誤魔化せない。 彼はリディアの嘘を最初から見抜いているくせに、涼しい顔で「無能な主人」を完璧に演じさせてくれないのだ。 「黙っててと言いましたよね?」 「ええ。ですから黙って、あなたが快適に過ごせるよう裏ですべて処理しておきました」 過保護すぎる執事に管理され、逃げ道を塞がれながらも、リディアは持ち前の正義感で領地の危機を次々と救ってしまう。 隠したいのに、有能さがダダ漏れ。 そうこうするうちに王都からは聖女と王太子の魔の手が迫り――? 「守られるだけはもう終わり。……レージ、私に力を貸しなさい」 これは、一度死んだ令嬢が「言葉」と「誇り」を取り戻し、過保護な執事の手を振りほどいて、対等なパートナーとして共に幸せを掴み取るまでの物語。

王子よ、貴方が責任取りなさい

天冨 七緒
恋愛
「聖女の補佐をしてくれないか?」  王子自ら辺境まで訪れ、頭を下げる。  それほど国は、切羽詰まった状況なのだろう。  だけど、私の答えは……  皆さんに知ってほしい。  今代の聖女がどんな人物なのか。  それを知った上で、私の決断は間違いだったのか判断してほしい。

華やかな異世界公爵令嬢?――と思ったら地味で前世と変わらないブラックでした。 ~忠誠より確かな契約で異世界働き方改革ですわ~』

ふわふわ
恋愛
華やかなドレス。きらびやかな舞踏会。 公爵令嬢として転生した私は、ようやく優雅な人生を手に入れた―― ……はずでしたのに。 実態は、書類の山、曖昧な命令、責任の押し付け合い。 忠誠の名のもとに搾取される領地運営。 前世のブラック企業と、何も変わりませんでしたわ。 ならば。 忠誠ではなく契約を。 曖昧な命令ではなく明文化を。 感情論ではなく、再評価条項を。 「お父様、お手伝いするにあたり契約を結びましょう」 公爵家との契約から始まった小さな改革は、やがて王家を巻き込み、地方貴族を動かし、王国全体の制度を揺るがしていく――。 透明化。共有化。成果の可視化。 忠誠より確かな契約で、異世界働き方改革ですわ。 これは、玉座を奪う物語ではありません。 国家を“回る構造”に変える、公爵令嬢の改革譚。 そして最後に選ばれるのは――契約ではなく、覚悟。 ---

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ
ファンタジー
 ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。  娘の名前はルーニー。  とても可愛い外見をしていた。  彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。  彼女は前世の記憶を持っていたのだ。  そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。  格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。  しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。  乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。  “悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。  怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。  そして物語は動き出した…………── ※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。 ※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。 ◇テンプレ乙女ゲームの世界。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

処理中です...