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第一部:第十二章 幕開け
(一)年の瀬②
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寮母に挨拶をして外に出ると、街は慌ただしく動く人で溢れていた。
「それで、どこへ行くか決まっているの…ですか?」
やはり言葉に迷いがある。
「今日は決めてないよ。入りたいところ有ったら相談して決めよう」
「ふむ」
納得したように頷く。
「せっかくだし、何か買い物もしようか。夕方まで時間有るし」
「そうだね。家に何か買って帰ろうかな。エラゼルさんは欲しいもの有る?」
即時にシェラが同意する。
「む……何というか、私はあまり街で外食や買い物をしたことがないので良くわからないのです…」
顔を背け、もじもじと恥ずかしそうに答えるエラゼル。
(なんだろう、この可愛い娘は……?)
今まで見たエラゼルの姿とは、全く違うものを目の当たりにして、シェラは驚きを隠せなかった。
ちらりとラーソルバールを見たが、気にする様子もない。
友達になったとは聞いていたが、何があったかまでは教えてくれなかった。きっと、こういう姿も見たことが有るのだろう。
「じゃあ、歩いて気になったところにね」
シェラは頭をかいた。
街を歩くと、時折鎧を着た冒険者とすれ違う。
盗賊や怪物など周辺の治安が、未だにままならない状況なのだと思い知らされる。
本来騎士団が対応すべきものでも、対応が後手に回れば彼らに頼らざるを得なくなる。
騎士団にもできない事をやってくれたりする彼らは、街の便利屋のようなものだ。
だが、中には不用意な行動をして事態を拡大させる者も居る。盗賊紛いの行動をしたり、莫大な報酬を要求したりする者の存在もあり、良い面ばかりではない。故に、必ずしも国民や騎士団にとって有難い存在とは言い切れない、
「最近、冒険者の姿を見かける事が多くなった気がするな」
「それだけ治安が悪化しているということなんだろうね」
やや不満げに語るエラゼルにラーソルバールも応じる。
「帝国の計画で、国内各所で問題を起こしているんじゃないかと、誰かが言ってたよ」
「あながち無いとは言い切れないよね。この前の暴動だって……」
ラーソルバールは言いかけて止めた。
疑い始めたら際限が無くなってしまう。それは国が帝国に送り込んだ密偵が証拠を出してくるはずだ。
噂話に惑わされないように、ちゃんと見極めなければいけない。
「ラーソルバール、このパテスティヤというのは何だ?」
エラゼルの声で我に返る。
「え、ああ、麺が主体の料理だよ。食べたこと無い?」
「麺……とは何なのだ?」
首を傾げるエラゼル。麺というもの自体を知らないらしい。
「説明するより、食べてみるのが早いね。シェラ、ここにしよう!」
「了解であります!」
嬉しそうに答えるシェラ。実は彼女の大好物なのだった。
店内に入ると席はほぼ満席で、三人は僅かに残っていたテーブルのひとつに案内される。
若い娘三人で、いずれも人目を引く容貌だけに、周囲から視線が集まるが、酒場のような粗野さが無い分、気になる程では無い。
特にエラゼルはそういったものに慣れているせいか、全く気にする様子も無い。
席に座ると、すぐにメニューを渡された。
だが、メニューに記載された品名だけでは何も分からずに、苦戦するエラゼル。暫しの後、シェラの説明で何とか趣向の合う物を見つけたらしく、ほっとしたように注文していた。
「ラーソルバールに聞きたい事が有るのですが……」
「なぁに?」
食事が来るまでの間、背もたれに寄り掛かりって気を抜いていたラーソルバールは、その格好のままエラゼルの顔を見る。
「何故、戦闘の時に最初から本気を出さないのかと。…いや、責めている訳ではないのですが…」
ためらいがちに聞くエラゼル。
手を抜いても勝てると思われていたのだろうかと、エラゼルは気にしているようにも見えた。
ちゃんと理由を言わねばならない。
「誤解をさせているようならごめんね。実際は手を抜いて戦っていた訳じゃないんだよ…。全力でやると体がついて来ないというか、負担が掛かって後で大変な事になるんだよね……。何度もそれで体を痛めちゃって。だからいつも『ここまでなら大丈夫』って手探りで、限界を見極めながらやっているというか…」
「ふむ…」
少し納得したようだった。
「結局、最後の最後に無理をしちゃったから、ちょっと腕を傷めたんだよね」
「そうか…。理由が分かってすっきりした。腕のほうは無理をするなよ」
エラゼルが優しい顔に戻った。
「それで、どこへ行くか決まっているの…ですか?」
やはり言葉に迷いがある。
「今日は決めてないよ。入りたいところ有ったら相談して決めよう」
「ふむ」
納得したように頷く。
「せっかくだし、何か買い物もしようか。夕方まで時間有るし」
「そうだね。家に何か買って帰ろうかな。エラゼルさんは欲しいもの有る?」
即時にシェラが同意する。
「む……何というか、私はあまり街で外食や買い物をしたことがないので良くわからないのです…」
顔を背け、もじもじと恥ずかしそうに答えるエラゼル。
(なんだろう、この可愛い娘は……?)
今まで見たエラゼルの姿とは、全く違うものを目の当たりにして、シェラは驚きを隠せなかった。
ちらりとラーソルバールを見たが、気にする様子もない。
友達になったとは聞いていたが、何があったかまでは教えてくれなかった。きっと、こういう姿も見たことが有るのだろう。
「じゃあ、歩いて気になったところにね」
シェラは頭をかいた。
街を歩くと、時折鎧を着た冒険者とすれ違う。
盗賊や怪物など周辺の治安が、未だにままならない状況なのだと思い知らされる。
本来騎士団が対応すべきものでも、対応が後手に回れば彼らに頼らざるを得なくなる。
騎士団にもできない事をやってくれたりする彼らは、街の便利屋のようなものだ。
だが、中には不用意な行動をして事態を拡大させる者も居る。盗賊紛いの行動をしたり、莫大な報酬を要求したりする者の存在もあり、良い面ばかりではない。故に、必ずしも国民や騎士団にとって有難い存在とは言い切れない、
「最近、冒険者の姿を見かける事が多くなった気がするな」
「それだけ治安が悪化しているということなんだろうね」
やや不満げに語るエラゼルにラーソルバールも応じる。
「帝国の計画で、国内各所で問題を起こしているんじゃないかと、誰かが言ってたよ」
「あながち無いとは言い切れないよね。この前の暴動だって……」
ラーソルバールは言いかけて止めた。
疑い始めたら際限が無くなってしまう。それは国が帝国に送り込んだ密偵が証拠を出してくるはずだ。
噂話に惑わされないように、ちゃんと見極めなければいけない。
「ラーソルバール、このパテスティヤというのは何だ?」
エラゼルの声で我に返る。
「え、ああ、麺が主体の料理だよ。食べたこと無い?」
「麺……とは何なのだ?」
首を傾げるエラゼル。麺というもの自体を知らないらしい。
「説明するより、食べてみるのが早いね。シェラ、ここにしよう!」
「了解であります!」
嬉しそうに答えるシェラ。実は彼女の大好物なのだった。
店内に入ると席はほぼ満席で、三人は僅かに残っていたテーブルのひとつに案内される。
若い娘三人で、いずれも人目を引く容貌だけに、周囲から視線が集まるが、酒場のような粗野さが無い分、気になる程では無い。
特にエラゼルはそういったものに慣れているせいか、全く気にする様子も無い。
席に座ると、すぐにメニューを渡された。
だが、メニューに記載された品名だけでは何も分からずに、苦戦するエラゼル。暫しの後、シェラの説明で何とか趣向の合う物を見つけたらしく、ほっとしたように注文していた。
「ラーソルバールに聞きたい事が有るのですが……」
「なぁに?」
食事が来るまでの間、背もたれに寄り掛かりって気を抜いていたラーソルバールは、その格好のままエラゼルの顔を見る。
「何故、戦闘の時に最初から本気を出さないのかと。…いや、責めている訳ではないのですが…」
ためらいがちに聞くエラゼル。
手を抜いても勝てると思われていたのだろうかと、エラゼルは気にしているようにも見えた。
ちゃんと理由を言わねばならない。
「誤解をさせているようならごめんね。実際は手を抜いて戦っていた訳じゃないんだよ…。全力でやると体がついて来ないというか、負担が掛かって後で大変な事になるんだよね……。何度もそれで体を痛めちゃって。だからいつも『ここまでなら大丈夫』って手探りで、限界を見極めながらやっているというか…」
「ふむ…」
少し納得したようだった。
「結局、最後の最後に無理をしちゃったから、ちょっと腕を傷めたんだよね」
「そうか…。理由が分かってすっきりした。腕のほうは無理をするなよ」
エラゼルが優しい顔に戻った。
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