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第一部:第十二章 幕開け
(四)大忙しの一日①
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(四)
エレノールさんに用意してもらった朝食を食べ終わると、急いで出かける仕度を始める。
私はいつも通りの格好で良いと言ったのに、エレノールさんは譲らなかった。
「社交界ではないにせよ、お嬢様を外に出すのですから、誰が見ても美しいと思うように仕上げるのが私の仕事です」
はい分かりました。と言うしかない気迫だった。
街に買い物に出かけるだけなのにも関わらず、髪を梳かされ、しっかり化粧までされる始末。
いや、買い物から帰ってきて、その後でお城に行くときは、何処まで仕立て上げられるのだろうかと、不安になるほどだった。
とりあえず、第一の試練を突破し、買い物に出かける。
「まずは小物、アクセサリーからですね。どこか良いお店はありますか?」
そう聞かれても困る。言わずもがな、私の答えは…
「知りません」
用の無い店を知っているはずがない。
「ですよねえ…。お嬢様ならそうお答えになると思っておりました」
そう思っていたなら、何故聞くのか。
自分はやはりエレノールさんにからかわれて、遊ばれて居るのだろう。
「そこの角を右に曲がってください」
言われるままに道を曲がる。エレノールさんは私の半歩後ろをついてくる。
「私と主従じゃないんですから、隣を歩いて下さい」
「そうは参りません。いずれ…ゴホン、伯爵様よりお供をするようにと仰せつかっておりますので」
(今、一瞬不穏な事を言いかけたな…)
言い出すと退かない人なだけに、これ以上は言うまい。
「そこの『猫の首飾り』という店です。大手ほど品揃えは良くありませんが、品質も良く、価格も控え目なんですよ」
私は扉を開けて店に入る。が、誰も居ない。
「主人は偏屈ですが、腕の良い職人なんですよ」
エレノールさんの解説が続く。
「エレノール、誰が偏屈だって?」
工房と思われる部屋から、店のご主人が現れる。
「これが私の叔父。ウスダール。お嬢様のお気に召すものが無ければ、他所へ行きましょう」
「質問を無視した上に、『これ』呼ばわりとは良い度胸してるな」
「では、お嬢様、探しますか。指輪とネックレス。腕輪も欲しいところですね」
全く意に介さず、品定めに入るエレノールさん。
「全く無視か、おい」
「うるさいですねえ。今日は時間が無いのですよ」
振り向きもせずに、手をヒラヒラと振る。
「オーダーしているドレスは、先日より明るい赤です。所々に白や金をあしらって貰っていますので、それに合うような物が良いですね」
今日のエレノールさんは一段と容赦が無い。
「そのお嬢さんの赤いドレスに合わせるのか?」
「そう聞こえませんでしたか?」
「ふん、エレノールは気に入らんが、それだけ綺麗な娘さんの為なら、取って置きのを出してやるよ」
そう言うと、ご主人は工房へ入り、すぐに茶色い大きめの箱を持って戻って来た。
「金のあしらいが有るなら、ネックレスの地金は白金がいいな。腕輪と指輪は金でもいいし、統一感を出して白金でもいいか」
貴金属の審美眼など私に有るわけが無いが、確かに箱の中の物は、展示してある物よりも良く見える。
「さあ、展示物も含めて選びましょう」
エレノールさんの気合いが凄い。
けれど、確かに悩んでいる時間も無い。私は腹をくくった。
エレノールさんに用意してもらった朝食を食べ終わると、急いで出かける仕度を始める。
私はいつも通りの格好で良いと言ったのに、エレノールさんは譲らなかった。
「社交界ではないにせよ、お嬢様を外に出すのですから、誰が見ても美しいと思うように仕上げるのが私の仕事です」
はい分かりました。と言うしかない気迫だった。
街に買い物に出かけるだけなのにも関わらず、髪を梳かされ、しっかり化粧までされる始末。
いや、買い物から帰ってきて、その後でお城に行くときは、何処まで仕立て上げられるのだろうかと、不安になるほどだった。
とりあえず、第一の試練を突破し、買い物に出かける。
「まずは小物、アクセサリーからですね。どこか良いお店はありますか?」
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「知りません」
用の無い店を知っているはずがない。
「ですよねえ…。お嬢様ならそうお答えになると思っておりました」
そう思っていたなら、何故聞くのか。
自分はやはりエレノールさんにからかわれて、遊ばれて居るのだろう。
「そこの角を右に曲がってください」
言われるままに道を曲がる。エレノールさんは私の半歩後ろをついてくる。
「私と主従じゃないんですから、隣を歩いて下さい」
「そうは参りません。いずれ…ゴホン、伯爵様よりお供をするようにと仰せつかっておりますので」
(今、一瞬不穏な事を言いかけたな…)
言い出すと退かない人なだけに、これ以上は言うまい。
「そこの『猫の首飾り』という店です。大手ほど品揃えは良くありませんが、品質も良く、価格も控え目なんですよ」
私は扉を開けて店に入る。が、誰も居ない。
「主人は偏屈ですが、腕の良い職人なんですよ」
エレノールさんの解説が続く。
「エレノール、誰が偏屈だって?」
工房と思われる部屋から、店のご主人が現れる。
「これが私の叔父。ウスダール。お嬢様のお気に召すものが無ければ、他所へ行きましょう」
「質問を無視した上に、『これ』呼ばわりとは良い度胸してるな」
「では、お嬢様、探しますか。指輪とネックレス。腕輪も欲しいところですね」
全く意に介さず、品定めに入るエレノールさん。
「全く無視か、おい」
「うるさいですねえ。今日は時間が無いのですよ」
振り向きもせずに、手をヒラヒラと振る。
「オーダーしているドレスは、先日より明るい赤です。所々に白や金をあしらって貰っていますので、それに合うような物が良いですね」
今日のエレノールさんは一段と容赦が無い。
「そのお嬢さんの赤いドレスに合わせるのか?」
「そう聞こえませんでしたか?」
「ふん、エレノールは気に入らんが、それだけ綺麗な娘さんの為なら、取って置きのを出してやるよ」
そう言うと、ご主人は工房へ入り、すぐに茶色い大きめの箱を持って戻って来た。
「金のあしらいが有るなら、ネックレスの地金は白金がいいな。腕輪と指輪は金でもいいし、統一感を出して白金でもいいか」
貴金属の審美眼など私に有るわけが無いが、確かに箱の中の物は、展示してある物よりも良く見える。
「さあ、展示物も含めて選びましょう」
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けれど、確かに悩んでいる時間も無い。私は腹をくくった。
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