聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

文字の大きさ
191 / 439
第一部:第十六章 動乱

(四)カレルロッサ動乱①

しおりを挟む
(四)

 爆発による死者八名。
 重体六名。
 重傷者三十二名。
 軽傷者七十八名。

 戦闘による死者一名。
 軽傷五名。

 行方不明者二名。

 事件当日に学校側が発表した被害者。これは学生、教員を合わせた数だ。
 教員の被害は数名程度。
 多くの一年生は早急に避難したため、全員無事だったが、爆発が二年生のすぐ脇で発生したこともあり、被害者は二年生に集中していた。
 
 戦闘で深手を負った軍務大臣は、即座に手当てを受け、命に別状は無しと判断されたが、大事をとってそのまま救護院に向かった。

 今回の事件を引き起こして撤退した兵士達を、街中で見かけた者は居ない。
 安全確保のため、撤退する兵士を追撃する事を避けたため、兵士達の行方は知れない。怪我人も居たはずだが、どこへ消えたのか、疑問だけが残った。

 だが、華やかな卒業式が暗転した事件は、ここで終わらなかった。
 夕刻、大講堂の片付けをし、翌日の追悼式と、順延された卒業式の再実施を目指していた騎士学校に、一つの情報が届けられた。
 いくつかの貴族領から、私兵がいずこかへ移動しているらしい、というものだった。
 ジャハネートが安全確認を終えるまでと、騎士団に戻らず騎士学校に留まっていたため、彼女の部下によってその報はもたらされた。
「今更隠す事も無い。ちょいと来な、ラーソルバール」
 報告を受けたジャハネートが手招きする。
 ラーソルバールは憔悴しきったような顔をしているが、目は死んでいない。自分のすべき事があるのなら、アルディスたちを引き戻す手があるのなら、動かずには居られなかった。
 ジャハネートに呼ばれると、離れた場所で椅子に座って休んでいたラーソルバールはゆっくりと歩み寄り、ジャハネートの隣に座る。
「メッサーハイト公爵が宰相になられてから、国内にある不正を一掃しようという動きが有ったのは、知っているだろう?」
「…はい」
「それによって処罰されたり、爵位を返上させられたりした貴族が居たのも知っているはずだ。年始からそうなるだろうという想定は誰もがしていた。だから、メッサーハイト侯爵が宰相になった事に対し、就任当初から不満を持つ者が多かった」
「姉上の言っていたことか……」
 ラーソルバールに寄り添うように居たエラゼルが口を開いた。
「なんだい、それ?」
「大臣の人事に不満を持つ幾つかの家が、新年会を連帯して欠席したとか何とか…」
「ああ、それだ。その中心にあるのが、フォンドラーク侯爵だ」
「フォンドラーク……」
 その名を聞いて、ラーソルバールは全てを理解した。
 フォンドラークの本家が主体となって今回の事件を引き起こしたのなら、分家であるアルディスの家は逆らえなかったに違いない。
 だがそれでも、しがらみを断ち切って、本家とは違う道を辿って欲しかったと思う。

「特務庁長官のザハティンは今回の件でクビだろうな。イスマイアの暴動の際も、今回も事前に動きを掴んでおきながら、情報を小出しにして事態を深刻化させちまった。無能ではないが己の手柄に固執する愚者だ……。おっと、今のは聞かなかったことにしておくれ」
 そう言って、ジャハネートは大きくため息をついた。
「恐らく、フォンドラーク侯爵家を主軸としてどこかに集結して、内乱を起こすつもりだろうねえ。アタシはもう少しここに居るつもりだったが、鎮圧命令が出るだろうから戻らにゃならなくなったよ」
 ジャハネートは、ラーソルバールの頭をポンポンと叩いた。
「あんたは良くやった。立派な騎士だ。思うところも色々あるだろうが、今は胸を張りな」
 近くで戦っていたジャハネートが、苦悩するラーソルバールの戦いを一番見ていたはずだ。その騎士団長の言葉は優しく胸に響くものだった。
「あとで勲章か、爵位か、褒章金が出るだろうさ」
 そう言い残して手を振ると、ジャハネートは壁に空いた大きな穴から外に出て、夕闇に消えていった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ボンクラ王子の側近を任されました

里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」  王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。  人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。  そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。  義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。  王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

奪う人たちは放っておいて私はお菓子を焼きます

タマ マコト
ファンタジー
伯爵家の次女クラリス・フォン・ブランディエは、姉ヴィオレッタと常に比較され、「控えめでいなさい」と言われ続けて育った。やがて姉の縁談を機に、母ベアトリスの価値観の中では自分が永遠に“引き立て役”でしかないと悟ったクラリスは、父が遺した領都の家を頼りに自ら家を出る。 領都の端でひとり焼き菓子を焼き始めた彼女は、午後の光が差す小さな店『午後の窓』を開く。そこへ、紅茶の香りに異様に敏感な謎の青年が現れる。名も素性も明かさぬまま、ただ菓子の味を静かに言い当てる彼との出会いが、クラリスの新しい人生をゆっくりと動かし始める。 奪い合う世界から離れ、比較されない場所で生きると決めた少女の、静かな再出発の物語。

婚約破棄は構いませんが、私が管理していたものは全て引き上げます 〜成金伯爵家令嬢は、もう都合のいい婚約者ではありません〜

藤原遊
ファンタジー
成金と揶揄される伯爵家の令嬢である私は、 名門だが実情はジリ貧な公爵家の令息と婚約していた。 公爵家の財政管理、契約、商会との折衝―― そのすべてを私が担っていたにもかかわらず、 彼は隣国の王女と結ばれることになったと言い出す。 「まあ素敵。では、私たちは円満に婚約解消ですね」 そう思っていたのに、返ってきたのは 「婚約破棄だ。君の不出来が原因だ」という言葉だった。 ……はぁ? 有責で婚約破棄されるのなら、 私が“善意で管理していたもの”を引き上げるのは当然でしょう。 資金も、契約も、人脈も――すべて。 成金伯爵家令嬢は、 もう都合のいい婚約者ではありません。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

転生幼子は生きのびたい

えぞぎんぎつね
ファンタジー
 大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。  だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。  神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。  たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。  一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。 ※ネオページ、カクヨムにも掲載しています

【完結】辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

処理中です...