聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

文字の大きさ
197 / 439
第一部:第十七章 真実は突然に

(二)その者の名は①

しおりを挟む
(二)

 ヴァストール国王は悩んでいた。
 何度か聞く事になった「ラーソルバール・ミルエルシ」という名前の娘とは誰で、何なのか。
 宰相の命を守る事に貢献したばかりでなく、街の危機に駆けつけ大きな仕事をしたとか、闇の門というものの情報を提供をしたという話も聞いた。
 事実であれば、褒賞や、爵位なども考えなくてはならないではないか。

 悩んだので、色々と知っていそうな次男を捕まえて聞いてみた。
「ええ、知っていますよ。美しい娘で、剣も一流、才覚も十分。デラネトゥス家のイリアナを暗殺者の手から救いました」
 あっさりと答えが返ってきた。

 漠然としていて良く分からず、デラネトゥス公爵が丁度城に顔を出したと聞いたので、話を聞いてみる事にした。
「ええ、三女の友人で、長女の命の恩人です。気の良い娘ですよ」
 簡潔な答えが返ってきたが、娘の友人で、更に恩人となれば、悪し様には言うまい。

 腑に落ちず、通りかかった長男を捕まえた。
「ああ、鷲の娘です。騎士学校に通っています。綺麗な娘ですよ」
 こちらもあっさりと応えた。

 騎士学校ならば、ナスタークに聞いてみれば良いかと思い、軍務大臣を呼んでみた。
「ああ、ラーソルバール嬢ですか。陛下もご存知かとは思いますが、私も先日、宰相と共に命を救われました。剣の腕は騎士団長にも引けを取りません。赤のドレスの娘と言えば、有名です。フェスバルハ伯の秘蔵っ子ですな」
 ならば、一番事情を知って居そうな、そのフェスバルハ伯爵を呼んでみるか、と考えた。

 商業の報告を聞くついでと称して呼び、話を聞いてみる。
「はい、良く存じております。才知に富んでおり、剣の腕も立ちますが、なにぶん目立つ事が嫌いで褒められるのを苦手としております。陛下にはお話しておりませんでしたが、昨年の流言の件で、陛下に進言するよう私の腰を上げさせたのが彼女でございます」
 聞けば聞くほど分からない。

 騎士学校の生徒といえば、十五歳程度。
 双剣の鷲といえば、息子の尊敬して止まないミルエルシ男爵で、その娘という事になる。
 そこまでは理解できるが、皆が知っていて褒める。
 しかも剣の腕前は、騎士団長程もあるとか。
「ワシは皆にからかわれておるのか?」
 国王は苦笑した。

 そうだ、あの男なら冗談を言うまい。
 サンドワーズ第一騎士団長を急用があると言って呼び寄せた。
「ラーソルバールという者を知っているか?」
「はい、存じております。かなりの剣の腕を持つ娘です。私もこの目で見ておりますし、部下の証言もあります。現在問題になっている闇の門の対処にも大きく関わっております。部下の話では、デラネトゥスの娘と共に相当な才があるのではないかと申しておりました」
 この時点でようやく皆の話が嘘ではないと納得した国王は、宰相を呼ぶことにした。

「はい。目の前で我々を救うべく、ジャハネートと共に獅子奮迅の働きをしてくれました。初見でしたが、体は大きくないのに、剣の腕はジャハネートに劣るものではございませんでした。ああ、そうそう、剣の腕とは別に、とても可愛い娘でしたよ。こう言ってはなんですが、デラネトゥスの娘と並んでも遜色ありませんでした」
 そう言われたので、国王はひとつため息をつくと、ようやく会ってみようかと重い腰を上げる事とした。
 ラーソルバールが初の謁見を行う三日前の出来事である。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

追放された悪役令嬢、農業チートと“もふもふ”で国を救い、いつの間にか騎士団長と宰相に溺愛されていました

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢のエリナは、婚約者である第一王子から「とんでもない悪役令嬢だ!」と罵られ、婚約破棄されてしまう。しかも、見知らぬ辺境の地に追放されることに。 絶望の淵に立たされたエリナだったが、彼女には誰にも知られていない秘密のスキルがあった。それは、植物を育て、その成長を何倍にも加速させる規格外の「農業チート」! 畑を耕し、作物を育て始めたエリナの周りには、なぜか不思議な生き物たちが集まってきて……。もふもふな魔物たちに囲まれ、マイペースに農業に勤しむエリナ。 はじめは彼女を蔑んでいた辺境の人々も、彼女が作る美味しくて不思議な作物に魅了されていく。そして、彼女を追放したはずの元婚約者や、彼女の力を狙う者たちも現れて……。 これは、追放された悪役令嬢が、農業の力と少しのもふもふに助けられ、世界の常識をひっくり返していく、痛快でハートフルな成り上がりストーリー!

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました

黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。 彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。 戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。 現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと! 「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」 ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。 絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。 伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進! 迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る! これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー! 美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。 人生、逆転できないことなんて何もない!

わたくしがお父様に疎まれている?いいえ、目に入れても痛くない程溺愛されております。

織り子
ファンタジー
王国貴族院の卒業記念パーティーの場で、大公家の令嬢ルクレツィア・アーヴェントは王太子エドワードから突然の婚約破棄を告げられる。 父であるアーヴェント大公に疎まれている―― 噂を知った王太子は、彼女を公衆の面前で侮辱する。

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

転生幼子は生きのびたい

えぞぎんぎつね
ファンタジー
 大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。  だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。  神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。  たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。  一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。 ※ネオページ、カクヨムにも掲載しています

処理中です...