228 / 439
第二部:第十九章 シルネラ共和国へ
(四)国境を越えて①
しおりを挟む
(四)
村での戦闘を終えた後、七人は村の人々に囲まれ、感謝の言葉を重ねられた。
それでも自責の念は有る。もう少し早く対応が出来ていれば、死者を出さずに済んだかもしれない。あの時の行動は誤っていなかったか、いや、そもそも熊の処理をもっと早くしておけば……。後悔しつつ、頭を下げる。
「遅くなって申し訳ありませんでした。私たちがもう少し早く来ていたら……もっと早く対処が出来ていたら…」
ラーソルバールの両頬を涙が伝った。
「何を泣かれる、お嬢さん。貴女方が来なければ、この村の誰もが死んでいたかも知れない。感謝こそすれ、恨む理由など無い。恨むとすれば、我々の無力さだよ」
老婆がラーソルバールの手を取って笑顔を向ける。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
老婆の手に涙の雫が落ちる。
「婆さんの言う通りだ。我々が弱かった。そして、こういう兵士達を野に放つ原因になった、愚かで自分勝手な貴族が悪いのであって、お嬢さんは何も悪くない」
「有難うよ、死んだ者の為に涙してくれて」
「ああ、本当に、あんた達には感謝してもしきれない、何か礼をさせてくれ」
村の人々の言葉に、ラーソルバールは黙って首を横に振った。責められない事のほうが辛い気さえもする。その気配を察したのだろうか、エラゼルが背後に立つ。
無理矢理にでもこの場から離した方が良い、と考えたのかもしれない。
「さあ、行くぞ」
エラゼルの手が、優しく肩に置かれる。ラーソルバールはその手を握り締めると、涙を拭った。
「大変申し訳ありません。先を急ぎますので、これで失礼させて頂きます」
深々と頭を下げると、七人は礼をさせて欲しいと引きとめる声を振り払って、馬車へと走った。
馬車に戻ると、皆疲れ果てたように転がり込む。
「お待たせしてすみませんでした。出発してください」
シェラが息を切らしながら御者に依頼する。
「あいよ、終わったのかい?」
手綱を動かすと、馬車が動き出す。風が馬車の中を抜け、火照った体に心地よい。
「ええ、なんとか。でも、ヘトヘトです」
「お疲れ様。馬も休めたし、少し急ごうか。今日のうちに国境近くまで行かなきゃならないし」
馬車は少しだけ速度を上げた。
「疲れた……」
フォルテシアが大きく息を吐いた。生死に関わる戦闘をしただけに、身体的疲労よりも精神的な疲労の方が大きかったのだろう。そのぐったりした様子が、エラゼルを笑わせた。
「時折、鉄面皮のような輩かと思わせるが、存外表情豊かだな」
「……エラゼルの方が鉄面皮」
ラーソルバール以外では、フォルテシアが一番遠慮をせずにエラゼルに物を言う。エラゼルもそれを気にする様子も無い。
「ふふふ……」
涙を浮かべていたラーソルバールも、二人のやりとりを聞いていて、思わず笑い出す。それにつられて、全員が緊張が解けたかのように、笑い出した。
「実際、見て分かった。アレは確かにものが違う。エラゼルも似たようなもんだが……」
笑い声の中、モルアールは小声でガイザに話しかける。ラーソルバールの強さに懐疑的だったモルアールも、実際の戦闘を目の当たりにしては、その強さを認めるしかなかった。怪我人を出すことなく、賊退治を終えた事は、驚きを通り越して呆れるしかなかった。
苦笑を浮かべながら返ってきた答えは「だろ?」という短いものだった。
夕闇に包まれた頃、ようやく目的にたどり着いた。
時間が時間だけに宿は三部屋しか取れず、部屋割りに少々もめることになる。
公爵家のエラゼルが一人部屋で、あとは女四人、男二人で良い、という話になったが、ラーソルバールはエラゼルは無理矢理拉致される形で連れて行かれる形で、決着となる。「こういう日は、ラーソルバールが凹むから、私が付いていないと駄目だ」というのがその理由だった。
もっともらしい理由に誰も異論を唱えず、引きずられるように部屋に連れて行かれるラーソルバールを、五人は苦笑いしながら見送った。
村での戦闘を終えた後、七人は村の人々に囲まれ、感謝の言葉を重ねられた。
それでも自責の念は有る。もう少し早く対応が出来ていれば、死者を出さずに済んだかもしれない。あの時の行動は誤っていなかったか、いや、そもそも熊の処理をもっと早くしておけば……。後悔しつつ、頭を下げる。
「遅くなって申し訳ありませんでした。私たちがもう少し早く来ていたら……もっと早く対処が出来ていたら…」
ラーソルバールの両頬を涙が伝った。
「何を泣かれる、お嬢さん。貴女方が来なければ、この村の誰もが死んでいたかも知れない。感謝こそすれ、恨む理由など無い。恨むとすれば、我々の無力さだよ」
老婆がラーソルバールの手を取って笑顔を向ける。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
老婆の手に涙の雫が落ちる。
「婆さんの言う通りだ。我々が弱かった。そして、こういう兵士達を野に放つ原因になった、愚かで自分勝手な貴族が悪いのであって、お嬢さんは何も悪くない」
「有難うよ、死んだ者の為に涙してくれて」
「ああ、本当に、あんた達には感謝してもしきれない、何か礼をさせてくれ」
村の人々の言葉に、ラーソルバールは黙って首を横に振った。責められない事のほうが辛い気さえもする。その気配を察したのだろうか、エラゼルが背後に立つ。
無理矢理にでもこの場から離した方が良い、と考えたのかもしれない。
「さあ、行くぞ」
エラゼルの手が、優しく肩に置かれる。ラーソルバールはその手を握り締めると、涙を拭った。
「大変申し訳ありません。先を急ぎますので、これで失礼させて頂きます」
深々と頭を下げると、七人は礼をさせて欲しいと引きとめる声を振り払って、馬車へと走った。
馬車に戻ると、皆疲れ果てたように転がり込む。
「お待たせしてすみませんでした。出発してください」
シェラが息を切らしながら御者に依頼する。
「あいよ、終わったのかい?」
手綱を動かすと、馬車が動き出す。風が馬車の中を抜け、火照った体に心地よい。
「ええ、なんとか。でも、ヘトヘトです」
「お疲れ様。馬も休めたし、少し急ごうか。今日のうちに国境近くまで行かなきゃならないし」
馬車は少しだけ速度を上げた。
「疲れた……」
フォルテシアが大きく息を吐いた。生死に関わる戦闘をしただけに、身体的疲労よりも精神的な疲労の方が大きかったのだろう。そのぐったりした様子が、エラゼルを笑わせた。
「時折、鉄面皮のような輩かと思わせるが、存外表情豊かだな」
「……エラゼルの方が鉄面皮」
ラーソルバール以外では、フォルテシアが一番遠慮をせずにエラゼルに物を言う。エラゼルもそれを気にする様子も無い。
「ふふふ……」
涙を浮かべていたラーソルバールも、二人のやりとりを聞いていて、思わず笑い出す。それにつられて、全員が緊張が解けたかのように、笑い出した。
「実際、見て分かった。アレは確かにものが違う。エラゼルも似たようなもんだが……」
笑い声の中、モルアールは小声でガイザに話しかける。ラーソルバールの強さに懐疑的だったモルアールも、実際の戦闘を目の当たりにしては、その強さを認めるしかなかった。怪我人を出すことなく、賊退治を終えた事は、驚きを通り越して呆れるしかなかった。
苦笑を浮かべながら返ってきた答えは「だろ?」という短いものだった。
夕闇に包まれた頃、ようやく目的にたどり着いた。
時間が時間だけに宿は三部屋しか取れず、部屋割りに少々もめることになる。
公爵家のエラゼルが一人部屋で、あとは女四人、男二人で良い、という話になったが、ラーソルバールはエラゼルは無理矢理拉致される形で連れて行かれる形で、決着となる。「こういう日は、ラーソルバールが凹むから、私が付いていないと駄目だ」というのがその理由だった。
もっともらしい理由に誰も異論を唱えず、引きずられるように部屋に連れて行かれるラーソルバールを、五人は苦笑いしながら見送った。
0
あなたにおすすめの小説
ボンクラ王子の側近を任されました
里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」
王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。
人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。
そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。
義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。
王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?
「役立たず」と捨てられた仮面聖女、隣国の冷徹皇帝に拾われて真の力が目醒める〜今さら戻ってこいと言われても溺愛されすぎて忙しいので無理です
まさき
恋愛
「役立たずの偽聖女め、その不気味な仮面ごと消えてしまえ!」
十年もの間、仮面で素顔を隠し、身代わり聖女として国を支えてきたリゼット。
しかし、異母妹が聖女として目醒めたことで、婚約者の第一王子から婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。
捨てられた先は、凶悪な魔獣が跋扈する『死の森』。
死を覚悟したリゼットだったが、仮面の下の本音は違った。
(……あー、やっとあのブラック職場からおさらばですわ! さっさと滅びればいいんですわ、あんな国!)
清々した気持ちで毒を吐くリゼットの前に現れたのは、隣国の冷徹皇帝・ガイウス。
彼はリゼットの仮面の下に隠された「強大すぎる魔力」と、表の顔とは裏腹な「苛烈な本性」を瞬時に見抜き、強引に連れ去ってしまう。
「気に入った。貴様は今日から、私のものだ」
バルディア帝国へと連行されたリゼットを待っていたのは、冷徹なはずの皇帝からの、逃げ場のない過保護な溺愛だった……。
一方、真の聖女(リゼット)を失った王国は、守護の結界が崩壊し絶体絶命の危機に陥る。
「戻ってきてくれ」と泣きつく王子たちに対し、皇帝の腕の中に収まったリゼットは、極上のスイーツを頬張りながら優雅に言い放つ。
「お断りいたしますわ。私、今とっても忙しい(溺愛されている)んですもの」
仮面の下で毒を吐くリアリスト聖女と、彼女を離さない執着皇帝の、大逆転溺愛ファンタジーが開幕!
婚約破棄は構いませんが、私が管理していたものは全て引き上げます 〜成金伯爵家令嬢は、もう都合のいい婚約者ではありません〜
藤原遊
ファンタジー
成金と揶揄される伯爵家の令嬢である私は、
名門だが実情はジリ貧な公爵家の令息と婚約していた。
公爵家の財政管理、契約、商会との折衝――
そのすべてを私が担っていたにもかかわらず、
彼は隣国の王女と結ばれることになったと言い出す。
「まあ素敵。では、私たちは円満に婚約解消ですね」
そう思っていたのに、返ってきたのは
「婚約破棄だ。君の不出来が原因だ」という言葉だった。
……はぁ?
有責で婚約破棄されるのなら、
私が“善意で管理していたもの”を引き上げるのは当然でしょう。
資金も、契約も、人脈も――すべて。
成金伯爵家令嬢は、
もう都合のいい婚約者ではありません。
【書籍化決定!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
☆皆様のおかげで、書籍化が決定致しました!3月中旬頃、発売予定です。よろしくお願い致します。
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
『婚約破棄ありがとうございます。自由を求めて隣国へ行ったら、有能すぎて溺愛されました』
鷹 綾
恋愛
内容紹介
王太子に「可愛げがない」という理不尽な理由で婚約破棄された公爵令嬢エヴァントラ。
涙を流して見せた彼女だったが──
内心では「これで自由よ!」と小さくガッツポーズ。
実は王国の政務の大半を支えていたのは彼女だった。
エヴァントラが去った途端、王宮は大混乱に陥り、元婚約者とその恋人は国中から総スカンに。
そんな彼女を拾ったのは、隣国の宰相補佐アイオン。
彼はエヴァントラの安全と立場を守るため、
**「恋愛感情を持たない白い結婚」**を提案する。
「干渉しない? 恋愛不要? 最高ですわ」
利害一致の契約婚が始まった……はずが、
有能すぎるエヴァントラは隣国で一気に評価され、
気づけば彼女を庇い、支え、惹かれていく男がひとり。
――白い結婚、どこへ?
「君が笑ってくれるなら、それでいい」
不器用な宰相補佐の溺愛が、静かに始まっていた。
一方、王国では元婚約者が転落し、真実が暴かれていく――。
婚約破棄ざまぁから始まる、
天才令嬢の自由と恋と大逆転のラブストーリー!
---
竜皇女と呼ばれた娘
Aoi
ファンタジー
この世に生を授かり間もなくして捨てられしまった赤子は洞窟を棲み処にしていた竜イグニスに拾われヴァイオレットと名づけられ育てられた
ヴァイオレットはイグニスともう一頭の竜バシリッサの元でスクスクと育ち十六の歳になる
その歳まで人間と交流する機会がなかったヴァイオレットは友達を作る為に学校に通うことを望んだ
国で一番のグレディス魔法学校の入学試験を受け無事入学を果たし念願の友達も作れて順風満帆な生活を送っていたが、ある日衝撃の事実を告げられ……
出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた
黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆
毎日朝7時更新!
「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」
過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。
絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!?
伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!?
追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
転生幼子は生きのびたい
えぞぎんぎつね
ファンタジー
大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。
だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。
神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。
たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。
一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。
※ネオページ、カクヨムにも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる