聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第二部:第二十二章 暗き森への誘い

(二)闇に包まれた森①

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(二)

 馬を連れて宿に戻ったラーソルバールは、大きくため息をついた。まだ誰も戻ってきていないので、広いベッドに身を投げ出す。
「気付かれなかったかなぁ……」
 ひとり呟くと、すぐに睡魔が襲ってくる。悩み続けてあまり寝ることもできずに朝を迎えたため、かなりの寝不足だった事が原因だろう。
(ああ、化粧を落とさなきゃ……)
 そう思ったが、身を起こす事もできずに眠りに落ちた。

「ラーソルバール!」
 凛とした声で呼ばれ、ラーソルバールは眠りから目覚めた。何か夢を見ていたような気がするが、覚えていない。
「ああ、エラゼル。おかえり」
 体を起こしたものの、目は半分程度しか開けずに、友の顔を見る。
「うまくいったか?」
「何が?」
 何故か生き生きとした表情で問いかける友の、言わんとするところが理解できない。眠さにもう一度目を閉じてしまいそうになると、エラゼルに鼻を摘ままれた。
「あの御曹司とうまくいったのか?」
「交渉ならエラゼルが全部纏めたじゃない……」
 言い終わると大きなあくびをする。眠いので話が噛み合っていないという事に気付いていない。
「そうではない、あの男に惚れたのであろう?」
 そう言われて、一気に目が覚めた。
「な、な、なんで?」
 慌てたため、取り繕うことも出来ていない。
「皆が知っておるぞ」
 エラゼルはゆっくりとラーソルバールの横に腰掛ける。
「うそ……」
 ここに至っては観念するしかなかった。大きく一呼吸すると、エラゼル達が帰った後の事をかいつまんで説明した。

「そうか……、そうだな」
 話を聞き終えるとエラゼルは、そう呟いたあと押し黙った。
 友好国ならいざ知らず、緊張を高めつつあり、やがて戦争に至る可能性が高い国。その国の伯爵家の息子であれば、行く末は明るいものではない。
「すまぬ、私が愚かだった」
 暫しの沈黙の後、エラゼルは頭を下げた。
「ううん……気を使わせてごめんね……」
 ラーソルバールはそう言って少し寂しげな笑顔を浮かべる。気落ちしたようなその様子を見て、エラゼルは自らの拳を握りしめた。

「そうだ、常闇の森の情報を仕入れてきたのだが……」
 誤魔化すように話を切り替えたつもりだったが、思わず声が上ずった。
「何か分かったの?」
「演習地に生えたという、ゼフォノアとかいう植物の自生する地域は、常闇の森のほぼ全域にあたるらしい。そしてもうひとつの手掛かり、王都に現れた怪物達の足に付着していた赤土だが、森の中で同じように赤土が表層に出ている地域は、このルクスフォール領にかかる北側半分から、隣接するガランシャー伯爵領と、更に北のファルガン子爵領内にまで跨がっているそうだ」
「良く調べたね……」
 このような知識を町中で仕入れるのは容易では無いはず。どうやって調べたのだろうかと気になった。
「なに、書店の前を歩いていたら寄っていけと言われたものでな、丁度良いとばかりに地質と薬草の本を立ち読みしてきたまでだ」
 多分、違う意味で寄っていけと言われたのだと思うよ、とは言えないラーソルバールだった。きっと立ち読みするエラゼルに釣られて、大勢の客が詰めかけて、声を掛けた本人はそれどころでは無くなったのでは無いだろうか。
 特に今日は化粧までしているし、その効果は絶大だったに違いない。書店の主には悪いが、想像しただけで笑えてしまう。

「まあ、兎に角だ、今の情報だけでは広範囲すぎて絞りきれぬ。帰りの日数を勘案すると、二十日程度で答えを出すというのは難しいぞ。せめて門石《ゲートストーン》が手掛かりにでもなれば良いのだが……」
 大きくため息をつき、エラゼルはベッドに仰向けに倒れる。
「そうだねぇ……。……ん……門石? もし……門石があの男の、帝国の技術で作られたのでは無いとしたら?」
 だとしたら……。ラーソルバールは記憶の糸を手繰り寄せた。
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