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第二部:第二十二章 暗き森への誘い
(二)闇に包まれた森③
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『一歩踏み入り森の中、十歩進んで暗き森、百歩進めば闇の中』
常闇の森を表した言葉として、誰もが知っている。
ラーソルバール達がこれから足を踏み入れようという場所はそういう所だ。常に闇に住まう怪物や、獣達と遭遇し危険に晒される。冒険者でも深部へと進む事を躊躇う場所。
無論、恐怖心が無いわけではない。不安は旅立つ前からずっと抱え続けている。それでも使命感に押されてここまでやって来た。
暗くなる前に用意した食材を手早く調理し、夕食とすると、井戸から汲み上げた水を温め、体を拭く。寝る仕度を整え終わる頃には、二つの月が頭上に輝いていた。
炭焼き小屋は森の手前の岩場に有るが、日が沈んだ頃から森から聞こえる獣達の声が絶え間なく聞こえている。時折、何かの雄叫びのようなものも混じり、苛立ちや恐怖心を煽り続けている。夜が更けるにつれ、その声も増えてくる。
「いよいよ明日だね」
夜空を見上げてラーソルバールが呟いた。気構えをするためであて、感慨によるものではない。
「苦労はしたくないわ」
「ごめんね、付き合わせちゃって」
「ん? 楽しいよ。こんな長旅したこと無かったしね」
月明かりの下、シェラが微笑む。
「でもきっと、この旅だけじゃなく、騎士になってからも大変な事が待っていると思う」
「予感?」
「うーん、予感というよりは今の状況から見た予想、かな。杞憂に終われば良いんだけどね」
小さくため息をつき、近くにあった岩に腰掛ける。ひんやりとした感覚が伝わってきて、夜風と共に体を冷やす。一瞬、寒さを覚えて身震いする。
「私はね、大変かもしれないけど、良い未来が待っている気がする。これは予感」
「いいね、それ。そうあって欲しいな」
シェラはラーソルバールの隣に腰掛けると、持っていた毛布を広げ一緒に包まる。
「あったかい……。有難う」
肩を寄せて、頬を近づける。体温が感じられ、心も温まる気がした。
「ん。これからも、支えて、支えられて。よろしくね」
「うん、よろしく……」
二人の吐いた息がほんのり白かった。
翌朝、前日に買っておいたパンを軽く炙って朝食にした後、炭焼き小屋を後にし、裏手にある森に足を踏み入れた。
森の外からは感じない、負の力のようなものが精神の圧迫を始める。
「十歩進んで暗き森、とは良く言ったものだ」
感心したように、エラゼルが呟いた。
文字通り木々が光を遮り、地面まで殆ど光を通していない。おかげで下草は無いのだが、木々の根が交錯しており、歩きやすいという状況からは程遠い。
明かりの補助にフォルテシアがランタンを下げ、馬はガイザが手綱を握り誘導している。歩みはそれ程速くはできない。
「とりあえず、地図に有る遺跡の方向に歩こう。モルアールに方向確認はお任せします」
「あいよ」
周りを見回してもどの方向も木ばかりで、目印になるような物は無い。魔法院特製の方向計が頼りだった。
森に入って百歩までもうすぐか、という時だった。
「足を踏み入れたばかりなのに、もう既に嫌な気配がするよね」
ラーソルバールが周囲に動く何かを察知し、剣を抜く。同じように気配を感じたのか、隣に居たエラゼルも同時に剣を抜いていた。
「お出迎えの歓迎だろう? もてなしてくれるのだから、お断りする訳にもいくまい?」
「公爵家の令嬢が、何でそんな皮肉を言える……?」
警戒する方角にランタンをかざしつつ、フォルテシアは苦笑した。
常闇の森を表した言葉として、誰もが知っている。
ラーソルバール達がこれから足を踏み入れようという場所はそういう所だ。常に闇に住まう怪物や、獣達と遭遇し危険に晒される。冒険者でも深部へと進む事を躊躇う場所。
無論、恐怖心が無いわけではない。不安は旅立つ前からずっと抱え続けている。それでも使命感に押されてここまでやって来た。
暗くなる前に用意した食材を手早く調理し、夕食とすると、井戸から汲み上げた水を温め、体を拭く。寝る仕度を整え終わる頃には、二つの月が頭上に輝いていた。
炭焼き小屋は森の手前の岩場に有るが、日が沈んだ頃から森から聞こえる獣達の声が絶え間なく聞こえている。時折、何かの雄叫びのようなものも混じり、苛立ちや恐怖心を煽り続けている。夜が更けるにつれ、その声も増えてくる。
「いよいよ明日だね」
夜空を見上げてラーソルバールが呟いた。気構えをするためであて、感慨によるものではない。
「苦労はしたくないわ」
「ごめんね、付き合わせちゃって」
「ん? 楽しいよ。こんな長旅したこと無かったしね」
月明かりの下、シェラが微笑む。
「でもきっと、この旅だけじゃなく、騎士になってからも大変な事が待っていると思う」
「予感?」
「うーん、予感というよりは今の状況から見た予想、かな。杞憂に終われば良いんだけどね」
小さくため息をつき、近くにあった岩に腰掛ける。ひんやりとした感覚が伝わってきて、夜風と共に体を冷やす。一瞬、寒さを覚えて身震いする。
「私はね、大変かもしれないけど、良い未来が待っている気がする。これは予感」
「いいね、それ。そうあって欲しいな」
シェラはラーソルバールの隣に腰掛けると、持っていた毛布を広げ一緒に包まる。
「あったかい……。有難う」
肩を寄せて、頬を近づける。体温が感じられ、心も温まる気がした。
「ん。これからも、支えて、支えられて。よろしくね」
「うん、よろしく……」
二人の吐いた息がほんのり白かった。
翌朝、前日に買っておいたパンを軽く炙って朝食にした後、炭焼き小屋を後にし、裏手にある森に足を踏み入れた。
森の外からは感じない、負の力のようなものが精神の圧迫を始める。
「十歩進んで暗き森、とは良く言ったものだ」
感心したように、エラゼルが呟いた。
文字通り木々が光を遮り、地面まで殆ど光を通していない。おかげで下草は無いのだが、木々の根が交錯しており、歩きやすいという状況からは程遠い。
明かりの補助にフォルテシアがランタンを下げ、馬はガイザが手綱を握り誘導している。歩みはそれ程速くはできない。
「とりあえず、地図に有る遺跡の方向に歩こう。モルアールに方向確認はお任せします」
「あいよ」
周りを見回してもどの方向も木ばかりで、目印になるような物は無い。魔法院特製の方向計が頼りだった。
森に入って百歩までもうすぐか、という時だった。
「足を踏み入れたばかりなのに、もう既に嫌な気配がするよね」
ラーソルバールが周囲に動く何かを察知し、剣を抜く。同じように気配を感じたのか、隣に居たエラゼルも同時に剣を抜いていた。
「お出迎えの歓迎だろう? もてなしてくれるのだから、お断りする訳にもいくまい?」
「公爵家の令嬢が、何でそんな皮肉を言える……?」
警戒する方角にランタンをかざしつつ、フォルテシアは苦笑した。
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