聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第二部:第二十三章 剣が語るもの

(四)友と国を守るための剣①

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(四)

「そう、ファタンダール・ジェレティアン。それが私の名だ。この名が君たちに手向ける葬送の花であると同時に、新しい国の王となる者の名でもある」
 自ら名乗り、悦に入ったように空を仰ぐ。
「ジェレティアンだと……?」
 エラゼルは周囲の気配に注意を払いつつも、ファタンダールから視線を外さない。そして肩を押さえ、ゆっくりと上半身を起こす。
「確かに、先々代の宮廷魔術師がそんな名前だった。人道を外れた実験を裏でしていた事が発覚して追放になったという話で……」
 ラーソルバールは一瞬、振り返り背後の戦闘を確認する。
 ボルリッツと挟撃する形なったことで、仲間たちは何とか持ちこたえている。だが、ガーゴイルを向けられる可能性もあり、長時間の戦闘は危険が伴う。
 エラゼルを守り、早めにこの場を収拾しなければならない。
「ああ、確かに父上から聞いた事が有る。あまりの事に本人は即時処刑され、家財は没収のうえ家族は放逐されたとか……。今更、国への復讐……いや、逆恨みか?」
「恨み……? そうだな。ヴァストールの人々を弄び、街を破壊するのは快感だったぞ。……だが、貴様らが邪魔さえしなければ、簡単に事は運び、もっと人が死に、街を消し炭にできたはずだ!」
 不敵な笑みを浮かべつつ、ラーソルバールを睨む。
「外道……」
 ラーソルバールは怒りのままを口にする。
「威勢のいい……。しかし王に対する言葉じゃないな」
「王などと……片腹痛い」
 ファタンダールは高笑いしつつも、エラゼルが肩に当てた手が僅かに発光するのを、見逃さなかった。
「こそこそと治癒など……」
 ガーゴイルに指示を出すかのように、ファタンダールは掲げた杖を振り下ろす。同時に二体のガーゴイルが、エラゼルを狙って空から襲い掛かる。

 ガーゴイルは通常の武器では傷つかないような造りになっている。魔法使いを無力化したし、エラゼルという娘の持っていた厄介な剣は地に転がっている。他の者は盗賊達に囲まれ動けないし、眼前の娘の剣は以前に見た。ガーゴイルの敵は居らず、すぐに決着がつく。ファタンダールはそう確信していた。
「させる訳ないでしょ!」
 ガーゴイルからエラゼルを守るように立ちはだかり、ラーソルバールは剣を踊らせた。左右から襲い掛かったガーゴイルは、ほぼ同時に真っ二つに切り裂かれると、地に落ちて砕け散る。
「な……! なぜその剣で切れる!」
「これは前の剣とは似て非なるもの。大事なものを守る為の剣」
 剣の箱にあった銘は『想いと願いの守人』。ラーソルバールが手にする為に作られた職人の想いが詰まった剣。
 想いは国と仲間を守ること、願いは大事な人達が笑顔で居られること。ラーソルバールの想いと願いを守る為に、剣は青白く光る。

「エラゼルいける?」
「すまぬ、冷静さを欠いた。何とかなりそうだ」
「じゃあ、皆を助けて」
 視線を合わさずとも、友同士の想いは通じている。エラゼルは無言で頷くと、転がっていた剣を拾い上げ、仲間のもとへ駆け出した。
 これで盗賊の戦闘は何とかなる。あとは眼前の魔法使いを何とかすれば、戦闘に区切りが付けられる。
 ラーソルバールは地を力一杯蹴り、ファタンダールとの距離を詰める。
「クッ!」
 魔法使いにとって、接近戦は絶対的不利となる。ファタンダールは距離を詰められぬよう、無詠唱で雷の塊を連続で放出する。
 ラーソルバールは、直線的に飛んでくる魔法をステップを踏みながら避け、少しずつ距離を縮める。
「鬱陶しい!」
 ファタンダールは光弾に切り替え、複数をほぼ同時に放つ。
 同じように避けようとしたラーソルバールを、光弾が追尾しながら襲い掛かる。
「……えっ!」
 想定外の動きに驚きつつも、剣に魔力を注ぎ込むと、次々に光弾を切り裂いて消し去る。だが、三つ目を消し去るのと同時に、残ったひとつが左腕を直撃する。
 バチンという音を立て、腕に強烈な痛みが走った。
「ぐっ……」
 魔法の勢いに弾かれ、足が止まる。
 この痛みは火傷だろうか、裂傷だろうか、打撲か骨折か。いや、腕はまだ動く。折れてはいないはずだ。これならばまだ我慢が出来る。
 この間に再び距離を取っていくファタンダールを、腕を押さえつつ睨み付けた。
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