聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

文字の大きさ
305 / 439
第二部:第二十六章 価値

(一)ブルテイラ事件③

しおりを挟む
 細い通路で兵士達を止めていたラーソルバールとエラゼルだったが、さすがに倒しても武器を奪ったとしても人数差を埋めるのは難しかった。
 ラーソルバールはシェラと入れ替わり通路の右に、そしてエラゼルは左に。シェラは少し下がってディナレスと並び、後ろを守るように立っていた。
 前の二人が合わせて十人程度を倒した時だった。
 兵達がいる後方の通路から、金属音の混ざった大人数の足音が響いてきたので、全員に緊張が走った。これ以上の増援となれば、もうどうにもならなくなる。
「ラーソルバール、エラゼル、シェラ、ディナレス! みんな無事?」
 フォルテシアの大きな声が響いた。
 焦燥が顔に出ていた四人に、笑顔が戻る。
「兵士共、剣を収めな! 戦闘を止めないんだったら、このジャハネートが叩き切るよ!」
 直後に良く通る大きな声が響き、兵士達を威圧する。その名は兵士達も知っており、主人の命に逆らうとはいえ恐れが先行したのか、誰もが慌てて剣を引いた。
 声の主はすぐに姿を現すと、その姿を兵士達に見せつけ、畏怖させる。
「子爵は捕縛した。これから犯罪者として本国に送る。逆らえなかったとは言え、アンタ達も犯罪と知ってて加担したんだ。お咎め無しって訳にはいかないよ!」
 騎士達がジャハネートの後ろから現れると、うなだれる執事や兵士達を取り囲んだ。

「あぅうわぁぁぁ……!」
 フォルテシアは言葉にならない叫び声を上げつつ、ラーソルバールとエラゼルに飛びつくと、そのまま泣きじゃくった。
「ありがとう、フォルテシア。貴女がジャハネート様を連れてきてくれたんだね」
 友の濡れた黒髪を撫でつつ、ラーソルバールは嬉しそうに微笑んだ。
「……ごめんなさい、遅くなって、ごめんなさい……」
 泣きながら何度もフォルテシアは謝る。
 シェラとディナレスも歩み寄ると、フォルテシアに笑顔を向けた。
「ありがとう、おかげで助かったよ!」
 その言葉に、疲れも忘れて抱きつく力に力が入る。
「痛いぞ、フォルテシア!」
 たまらずエラゼルが抗議して苦笑を浮かべる。フォルテシアは力を抜くと、涙でぐしゃぐしゃになった顔を、濡れた服の袖で拭った。
「フォルテシア、ガイザとモルアールは?」
「あ……」
 ラーソルバールの言葉に、フォルテシアは言葉を無くした。

 二人の居場所は、ジャハネートが捕らえた門衛から聞き出され、すぐに救出された。
 闇商売の者達に売られる直前だったらしいが、それを逆手にとって、ジャハネートは街にあった闇商売の者達の拠点を制圧し、全員を捕縛して見せた。まさに風の如くという対応だったようだ。
 ラーソルバール達はフォルテシアの父の計らいで、近くの宿に宿泊する事ができたものの、騎士団は宿泊場所が無く、やむを得ずデンティーク家の屋敷で一晩を過ごすことになった。
 そして、翌日も騎士団は精力的に活動した。
 相続の可能性を含め、妻子についての調査が行われた。デンティーク子爵は既に離婚しており、妻子は別の場所に住んでいるらしいという情報を街で得たが、騎士団としては事後処理の権限は無い。相続か取り潰しかの判断は王都に委ねる事になるだろう。
 また、捕らえられていた女性たちは、デンティーク家の私財から補償金支払いを約束され、近くの教会に助力を請う形で一時騎士団預かりとなる事が決まった。
 最後に心配されていたラーソルバール達の荷物だが、意外にも全て手元に戻ってきた。邸宅の一室に保管されたまま、まだ一切手を付けられていなかったところを、邸内を調べていた騎士によって発見され、速やかに回収されたのである。

「さて、またこんな事件があると厄介だから、本当はアタシが王都まで送ってやりたいんだが、任務があるんでね。その代わり、クローベル二月官を王都まで付けるから、安心しな」
 別れの際、ジャハネートは照れくさそうに告げたが、その意図は安全確保以外にも二つあった。
 ひとつ目は、王都への報告文書を持たせること。内容は任務に関するものと今回の事件に関するもの。ふたつ目は共に居る機会が少なかった、父娘に対する配慮である。
「ジャハネート様、今回の恩はいずれお返しします。ありがとうございました」
「礼は、アンタがアタシの配下に来てくれれば十分さ。でも、いい事もあったよ。面白かったし、屑貴族を排除できた。また、王都でな」
「はい、また!」
 ラーソルバールとジャハネートは笑顔で握手を交わすと、再会を約束し。別れを告げる。
 こうして、後にブルテイラ事件と呼ばれるようになる出来事は、慌しく終わった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした

ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。 しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義! そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。 「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

無能扱いされ、パーティーを追放されたおっさん、実はチートスキル持ちでした。戻ってきてくれ、と言ってももう遅い。田舎でゆったりスローライフ。

さら
ファンタジー
かつて勇者パーティーに所属していたジル。 だが「無能」と嘲られ、役立たずと追放されてしまう。 行くあてもなく田舎の村へ流れ着いた彼は、鍬を振るい畑を耕し、のんびり暮らすつもりだった。 ――だが、誰も知らなかった。 ジルには“世界を覆すほどのチートスキル”が隠されていたのだ。 襲いかかる魔物を一撃で粉砕し、村を脅かす街の圧力をはねのけ、いつしか彼は「英雄」と呼ばれる存在に。 「戻ってきてくれ」と泣きつく元仲間? もう遅い。 俺はこの村で、仲間と共に、気ままにスローライフを楽しむ――そう決めたんだ。 無能扱いされたおっさんが、実は最強チートで世界を揺るがす!? のんびり田舎暮らし×無双ファンタジー、ここに開幕!

出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた

黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆ 毎日朝7時更新! 「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」 過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。 絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!? 伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!? 追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!

異世界スローライフ希望なのに、女神の過保護が止まらない

葉泪秋
ファンタジー
HOTランキング1位感謝です!(2/3) 「小説家になろう」日間ランキング最高11位!(ハイファンタジー) ブラック企業で過労死した俺、佐久間遼。 神様に願ったのは、ただ「異世界で、畑でも耕しながらのんびり暮らしたい」ということだけ。 そうして手に入れた、辺境の村での穏やかな日々。現状に満足し、今度こそは平穏なスローライフを……と思っていたのだが、俺の妙なスキルと前世の社畜根性が、そうはさせない。 ふとした善意で枯れた井戸を直したことから、堅物の騎士団長やら、過保護な女神やらに目をつけられることになる。 早く穏やかに暮らしたい。 俺は今日も、規格外に育った野菜を手に、皆の姿を眺めている。 【毎日18:00更新】 ※表紙画像はAIを使用しています

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

転生幼子は生きのびたい

えぞぎんぎつね
ファンタジー
 大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。  だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。  神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。  たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。  一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。 ※ネオページ、カクヨムにも掲載しています

処理中です...