310 / 439
第二部:第二十六章 価値
(三)新入生②
しおりを挟む
「ときに、シェラやフォルテシアはどうした?」
朝食を手に配膳カウンターから戻ってきたエラゼルは、不思議そうに問うた。
「いや……、あの二人は私達と違って、もっと早くに来て食べ終わってるでしょ。もう朝食の時間も終わりだし」
「それは納得だが、私は本を読んでいただけで、朝が弱いのはラーソルバールだけなのだから、一緒にしないで欲しい」
不本意ながら、エラゼルの言う事が正しい。旅の間、最後に起き出してきたのは、ほぼいつもラーソルバールだったからだ。
「うん、朝が弱いのは否定しないよ……」
「良く学校に遅刻しないものだと思うぞ」
「ひひ……。今は慣れてきたけど、入学したての頃はシェラに起こして貰ってた」
照れ隠しのように笑みを浮かべると、エラゼルが呆れてため息をつく。
「全く……、だから始業前に教室を覗いても居ない事が多かったのか」
あまりにも意外な言葉に、ラーソルバールは一瞬きょとんとする。
「なに? その頃から気にしてくれてたの?」
「あ……いや、宿敵だからだな、相手の動向を調べるのも……」
照れ隠しするように下を向くと、パンをちぎって食べる。公爵令嬢という肩書きをどこかに置いてきたような所作を見ていると楽しいし、嬉しい。
「そういえば皆が課外活動を終えて帰ってきたら、学園交流期間というものに入るらしいのだが、知っているか?」
エラゼルは誤魔化すように話題を変えた。特に前の話にこだわる必要も無いので、その話に乗ってみる。
「期間中は『王国立エイルディア修学院』に通って勉強する事になるって書いてあったよ」
学院の名を聞いたエラゼルは眉間にしわを寄せ、あからさまに嫌そうな顔をする。
「なに? どうしたの?」
「先日の反乱が有った後だから、今どうなっているかは分からぬが、修学院は上級貴族の子女が仕切る派閥がいくつか有って、幅を利かせていて、時折対立したりすると聞いた事がある」
「うわ、面倒臭そう……。んー、でもエラゼルなら何の心配も要らないでしょ。公爵家の娘なんだから……」
渋い表情のまま、エラゼルはラーソルバールを見る。
「元々私は公爵家という恩恵のもと、派閥などとは無縁で生きてきた身だからひとりだろうと気にはしない。……だが私は良いとしても、他の者達はどうなる」
力の無い者ならば派閥間の面倒事に巻き込まれたり、派閥から弾かれて苦労を強いられたりする可能性も否定できない。そこに配慮するようになった分、エラゼル自身が大きく成長している証であるし、またそうした性格の変化は、周囲にも良い影響を与えている。
「あくまでも噂だけだけでしょ。実際はどうか分からないよ。ああ、でも本当ならエラゼルに寄ってくる人も増えそうだね」
「それを言うな。考えただけで気が滅入る」
面倒事の中心に据えられたりするのも嫌だし、公爵家に擦り寄ってくる人間の相手などしたくは無い、という事だろう。憂鬱そうにする友を見て、ラーソルバールはくっくと笑い、エラゼルは深いため息でそれに応じた。
交流期間中は救護学園や魔法学院なども一緒なのだろうか。二人に聞いておけば良かったと、少し後悔する。エラゼルに聞こうと思ったが、あまり交流期間の話に触れると可哀想なので、聞くのを止めて話を変える。
「他の生徒が戻ってくるまで十日程有るけど、いつ軍務省から呼び出しが有るか分からないから、何処へも行けないよね」
「それなんだが、私達はその十日間、何をしていれば良いのだ? そもそも休暇なのか?」
前日に会ったとき、校長は何も言わなかった。元よりこんなに早く戻ってくるとは思っていなかったのだろうが、何も言われないということは疲れを取れという事なのか。
「とりあえず今日明日くらいは休みだろうから、実家に帰還報告しないとね」
ラーソルバールは、パンの最後のひとかけを口に放り込んだ。
朝食を手に配膳カウンターから戻ってきたエラゼルは、不思議そうに問うた。
「いや……、あの二人は私達と違って、もっと早くに来て食べ終わってるでしょ。もう朝食の時間も終わりだし」
「それは納得だが、私は本を読んでいただけで、朝が弱いのはラーソルバールだけなのだから、一緒にしないで欲しい」
不本意ながら、エラゼルの言う事が正しい。旅の間、最後に起き出してきたのは、ほぼいつもラーソルバールだったからだ。
「うん、朝が弱いのは否定しないよ……」
「良く学校に遅刻しないものだと思うぞ」
「ひひ……。今は慣れてきたけど、入学したての頃はシェラに起こして貰ってた」
照れ隠しのように笑みを浮かべると、エラゼルが呆れてため息をつく。
「全く……、だから始業前に教室を覗いても居ない事が多かったのか」
あまりにも意外な言葉に、ラーソルバールは一瞬きょとんとする。
「なに? その頃から気にしてくれてたの?」
「あ……いや、宿敵だからだな、相手の動向を調べるのも……」
照れ隠しするように下を向くと、パンをちぎって食べる。公爵令嬢という肩書きをどこかに置いてきたような所作を見ていると楽しいし、嬉しい。
「そういえば皆が課外活動を終えて帰ってきたら、学園交流期間というものに入るらしいのだが、知っているか?」
エラゼルは誤魔化すように話題を変えた。特に前の話にこだわる必要も無いので、その話に乗ってみる。
「期間中は『王国立エイルディア修学院』に通って勉強する事になるって書いてあったよ」
学院の名を聞いたエラゼルは眉間にしわを寄せ、あからさまに嫌そうな顔をする。
「なに? どうしたの?」
「先日の反乱が有った後だから、今どうなっているかは分からぬが、修学院は上級貴族の子女が仕切る派閥がいくつか有って、幅を利かせていて、時折対立したりすると聞いた事がある」
「うわ、面倒臭そう……。んー、でもエラゼルなら何の心配も要らないでしょ。公爵家の娘なんだから……」
渋い表情のまま、エラゼルはラーソルバールを見る。
「元々私は公爵家という恩恵のもと、派閥などとは無縁で生きてきた身だからひとりだろうと気にはしない。……だが私は良いとしても、他の者達はどうなる」
力の無い者ならば派閥間の面倒事に巻き込まれたり、派閥から弾かれて苦労を強いられたりする可能性も否定できない。そこに配慮するようになった分、エラゼル自身が大きく成長している証であるし、またそうした性格の変化は、周囲にも良い影響を与えている。
「あくまでも噂だけだけでしょ。実際はどうか分からないよ。ああ、でも本当ならエラゼルに寄ってくる人も増えそうだね」
「それを言うな。考えただけで気が滅入る」
面倒事の中心に据えられたりするのも嫌だし、公爵家に擦り寄ってくる人間の相手などしたくは無い、という事だろう。憂鬱そうにする友を見て、ラーソルバールはくっくと笑い、エラゼルは深いため息でそれに応じた。
交流期間中は救護学園や魔法学院なども一緒なのだろうか。二人に聞いておけば良かったと、少し後悔する。エラゼルに聞こうと思ったが、あまり交流期間の話に触れると可哀想なので、聞くのを止めて話を変える。
「他の生徒が戻ってくるまで十日程有るけど、いつ軍務省から呼び出しが有るか分からないから、何処へも行けないよね」
「それなんだが、私達はその十日間、何をしていれば良いのだ? そもそも休暇なのか?」
前日に会ったとき、校長は何も言わなかった。元よりこんなに早く戻ってくるとは思っていなかったのだろうが、何も言われないということは疲れを取れという事なのか。
「とりあえず今日明日くらいは休みだろうから、実家に帰還報告しないとね」
ラーソルバールは、パンの最後のひとかけを口に放り込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜
Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。
【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~
いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。
地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。
「――もう、草とだけ暮らせればいい」
絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。
やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる――
「あなたの薬に、国を救ってほしい」
導かれるように再び王都へと向かうレイナ。
医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。
薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える――
これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
「役立たず」と捨てられた仮面聖女、隣国の冷徹皇帝に拾われて真の力が目醒める〜今さら戻ってこいと言われても溺愛されすぎて忙しいので無理です
まさき
恋愛
「役立たずの偽聖女め、その不気味な仮面ごと消えてしまえ!」
十年もの間、仮面で素顔を隠し、身代わり聖女として国を支えてきたリゼット。
しかし、異母妹が聖女として目醒めたことで、婚約者の第一王子から婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。
捨てられた先は、凶悪な魔獣が跋扈する『死の森』。
死を覚悟したリゼットだったが、仮面の下の本音は違った。
(……あー、やっとあのブラック職場からおさらばですわ! さっさと滅びればいいんですわ、あんな国!)
清々した気持ちで毒を吐くリゼットの前に現れたのは、隣国の冷徹皇帝・ガイウス。
彼はリゼットの仮面の下に隠された「強大すぎる魔力」と、表の顔とは裏腹な「苛烈な本性」を瞬時に見抜き、強引に連れ去ってしまう。
「気に入った。貴様は今日から、私のものだ」
バルディア帝国へと連行されたリゼットを待っていたのは、冷徹なはずの皇帝からの、逃げ場のない過保護な溺愛だった……。
一方、真の聖女(リゼット)を失った王国は、守護の結界が崩壊し絶体絶命の危機に陥る。
「戻ってきてくれ」と泣きつく王子たちに対し、皇帝の腕の中に収まったリゼットは、極上のスイーツを頬張りながら優雅に言い放つ。
「お断りいたしますわ。私、今とっても忙しい(溺愛されている)んですもの」
仮面の下で毒を吐くリアリスト聖女と、彼女を離さない執着皇帝の、大逆転溺愛ファンタジーが開幕!
追放された悪役令嬢、農業チートと“もふもふ”で国を救い、いつの間にか騎士団長と宰相に溺愛されていました
黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢のエリナは、婚約者である第一王子から「とんでもない悪役令嬢だ!」と罵られ、婚約破棄されてしまう。しかも、見知らぬ辺境の地に追放されることに。
絶望の淵に立たされたエリナだったが、彼女には誰にも知られていない秘密のスキルがあった。それは、植物を育て、その成長を何倍にも加速させる規格外の「農業チート」!
畑を耕し、作物を育て始めたエリナの周りには、なぜか不思議な生き物たちが集まってきて……。もふもふな魔物たちに囲まれ、マイペースに農業に勤しむエリナ。
はじめは彼女を蔑んでいた辺境の人々も、彼女が作る美味しくて不思議な作物に魅了されていく。そして、彼女を追放したはずの元婚約者や、彼女の力を狙う者たちも現れて……。
これは、追放された悪役令嬢が、農業の力と少しのもふもふに助けられ、世界の常識をひっくり返していく、痛快でハートフルな成り上がりストーリー!
金喰い虫ですって!? 婚約破棄&追放された用済み聖女は、実は妖精の愛し子でした ~田舎に帰って妖精さんたちと幸せに暮らします~
アトハ
ファンタジー
「貴様はもう用済みだ。『聖女』などという迷信に踊らされて大損だった。どこへでも行くが良い」
突然の宣告で、国外追放。国のため、必死で毎日祈りを捧げたのに、その仕打ちはあんまりでではありませんか!
魔法技術が進んだ今、妖精への祈りという不確かな力を行使する聖女は国にとっての『金喰い虫』とのことですが。
「これから大災厄が来るのにね~」
「ばかな国だね~。自ら聖女様を手放そうなんて~」
妖精の声が聞こえる私は、知っています。
この国には、間もなく前代未聞の災厄が訪れるということを。
もう国のことなんて知りません。
追放したのはそっちです!
故郷に戻ってゆっくりさせてもらいますからね!
※ 他の小説サイト様にも投稿しています
白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます
時岡継美
ファンタジー
初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。
侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。
しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?
他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。
誤字脱字報告ありがとうございます!
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について
いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。
実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。
ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。
誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。
「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」
彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。
現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。
それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる