聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

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第二部:第二十六章 価値

(三)新入生①

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(三)

 期限をひと月と切られた他の生徒達と違い、任務を早期に終え、日数を十日ほど残して戻って来ることができたラーソルバール達。だが、過酷な日程と長距離移動がたたり、精神的にも肉体的にも疲労がたまっていた。おかげで、寮に戻ってきて安心した騎士学校の面々は、五人とも翌日になっても動く気力を無くしていた。

「モルアールとディナレスはどうしてるかな?」
 前の日の夜、遅くまで賑やかに食事をしたあと、再会を約束して別れた二人。昨日まで共に行動していた仲間が近くに居ないと思うと、少し寂しい気持ちになる。彼らの事を心配しつつも、今は何もやる気が起きないラーソルバールだった。
 とはいえそんな状態でも腹は減るもので、ふらふらと足取りもおぼつかぬまま食堂へと向かう。
 朝食の時間も終わり頃だったが、食堂には一年生が若干残っていた。
(ああ、そうだ、父上にも帰ってきたことを知らせないと……)
 そんな事を考えつつ、配膳の女性からパンとスープに加え、大きなハムが乗ったサラダを受け取りトレーに載せる。一年間で染み付いた行動なので、多少の間隔が空いていても無意識に体が動く。
 朝食の載ったトレーを手に、半分呆けた頭のまま空いている席に腰掛けた。
 そんなラーソルバールに熱い視線を向ける者がひとり。

「ミルエルシ先輩!」
 気を抜いて呆けながらパンを口に入れたところに、突然大きな声で呼ばれ、ラーソルバールは飛び上がるほど驚いた。
 振り向くと、そこにはダークブラウンの髪の見知らぬ少女が立っていた。
「お初にお目にかかります、リシェル・フロワーズと申します!」
 元気良く挨拶されたものの、どう反応して良いやら分からない。なぜこの娘は自分の事を知っているのか、眉間にしわを寄せ首を傾げた。
「あ、失礼致しました。昨年の武技大会で兄の応援に来たのですが、その際に見た先輩の剣技に、ひと目で魅せられてしまいまして……」
「はあ……、どうも……」
 疲れのせいか頭が回らず、まともな対応ができない。
「どうかされましたか? 顔色が優れないようにも見えますが……」
 リシェルは心配するような表情を浮かべ、僅かに首を傾げる。
「ん、ちょっと疲れがたまってて、何も考えられないだけ」
「ああ、先輩方は課外実習でしたっけ。あれ? でもまだ期間中ですよね?」
「あー、私は事情があって、ちょっと違う事をやってたの……。それより、時間大丈夫なの?」
 ラーソルバールの言葉にリシェルは慌てて周囲を見渡す。だが、食堂には他に誰も残っていなかった。
「あぅ、こ……これで失礼します!」
 焦りながらも敬礼をすると、リシェルは自分のトレーを片付けて、慌ただしく食堂から出ていった。
 ラーソルバールは苦笑しながらも、その姿に一年前の自身を重ねる。
「シェラと話し込んでて、あんな風に慌てて校舎に行ったことがあったっけ……」
 ひとり呟きつつ、スープを口に運ぶ。

「何だか嬉しそうではないか、良いことでも有ったのか?」
 食堂にやって来たエラゼルが、ひとり食事をするラーソルバールを見つけてやって来た。
「ん、今日初めて一年生を見たんだけど、一年前って自分もあんなだったかなぁって」
 ちらりと出入り口の方に視線をやると、エラゼルは苦笑いする。
「先程駆けて出ていった娘のようにか?」
「まあね……。って、ほらエラゼル、早くカウンター行かないと、朝食全部片付けられちゃうよ」
「な……、ああ、片付けるのを待って下さい!」
 配膳係が後片付けを始めた様子を見て、エラゼルは慌ててカウンターへ駆けていった。
 なんだ、他人のことを言えないどころか、今でも変わらないじゃないか、と友の後ろ姿を見て思う。そうだ、一年前は彼女とこんな風に話すことになるなんて思って無かったっけ。
 ラーソルバールは配膳カウンターで頭を下げるエラゼルの姿を眺め、笑いを堪えつつパンをかじった。
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