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第二部:第三十一章 騎士になる者として
(三)小さな戦場へ③
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部屋を出て二人は人気の無い廊下を歩く。
「ぷふっ、くくくくっ……」
ラーソルバールは抑えていた笑いを堪えきれず、思わず吹き出してしまった。
「ん? 何が可笑しい?」
エラゼルは理解できなかったのか、怪訝な表情を浮かべ首を傾げる。
「くくっ……あまりにも公爵閣下の前に居る時の態度が普段と違うから……もう、可笑しくって……ぷふ……これでも我慢してたんだよ」
「し……仕方ないではないか。父上の手前、無作法な真似をすれば後で何を言われるか分からんのだから……」
「はいはい。分かってます」
いつもの二人に戻り、二人は顔を見合わせて笑い出す。
ひとしきり笑ったところで、ラーソルバールはエラゼルの左腕を取ると、意味ありげに視線を向ける。
「お嬢様、今日のエスコートはどなたが?」
「身内だけの会でそんなものある訳が無いだろう?」
「では、僭越ながら、私めがその大役を」
ラーソルバールはわざとらしく一礼をすると、にやりと笑ってみせた。
「ふむ、ではそのようにいたせ」
エラゼルは笑いを堪えながら、すまし顔を作って応じた。
冗談めかしく二人がやりとりをしてる頃、陽は沈み街を夜の闇が包もうとしていた。
この日のために庭園に掲げられたランタンに灯が入れられると、冬が近いにも関わらず美しく咲く花が光で浮かび上がる。会を彩る演出でもあり、暗殺者を視認するための警備の一環でもあった。
「綺麗。さすが公爵家のお庭っていう感じがする」
バルコニーから見下ろす景色にシェラは感嘆の声を漏らした。
「街の灯りと相まって幻想的というか……。何か不思議な感じ。このまま、無事に会が終わるといいのにね」
身を乗り出すようにして、ディナレスが周囲を眺める。その様子に、モルアールが苦笑いする。
「ドレスは着ててもやっぱりお嬢様じゃないって事だな」
「いいじゃない。理由はどうあれ、平民の私が公爵家の会に出られるなんて、夢みたいな事なんだから!」
「それは分かるが、もう少し周囲の視線も気にしろよ」
「……はい。面目御座いません」
モルアールに窘められ、ディナレスは赤面してうつむいた。
浮かれ気分も有るのだろうが、これから戦闘になる可能性が高いと分かっているので、気を紛らわせたかったのかもしれない。
「二人はまだ……」
ガイザが口にし掛けたところで、会場がざわついた。
「おお、正に白と赤。エラゼル嬢と、あれがラーソルバール嬢か」
「ああ、エラゼル嬢のエスコートにラーソルバール嬢というのは、なかなかの演出じゃないか」
「流石にエラゼル嬢は美しいな……」
「ラーソルバール嬢も美しいとは聞いていたが、隣にあって見劣りしないとは驚きだ」
二人の会場入りに、感嘆の声が漏れる。
気恥ずかしさに赤面しそうになりながらも、ラーソルバールはエラゼルの横に付き添った。
「皆様、お忙しいところおいで下さり、感謝申し上げます。本日は余興がございますが、皆様の安全に十分配慮致しておりますので、ご安心くださいませ」
壇上に上がったエラゼルが優雅にお辞儀をすると、会場から拍手が巻き起こった。
そうしてエラゼルが注目を集める中、共に登場したラーソルバールは役目を終え、目立たぬようバルコニー近くへと逃げてきた。
「なかなか粋な登場だったじゃないか?」
聞き覚えのある声に、ラーソルバールは足を止める。そこには、赤みがかった茶髪と、それに似合う金の刺繍を入れた赤いドレスを纏った女性が立っていた。
「ジャハネート様、こちらにいらっしゃたのですか」
声を上げるラーソルバールに目配せをしつつ、口元に人差し指を当てる。
「アタシが居るって、あまり気付かれない方がいいんだろ?」
壁を背に。羽扇で顔を隠すようにしているが、楽しそうに笑っているのが良く分かる。彼女の横に立てかけられた大振りな箱の中身は、恐らく愛用の剣なのだろう。
「そうですね、大物の悪党でさえも寄ってこないでしょうから……」
ラーソルバールはくすりと笑った。騎士団長に冗談を言えるような立場では無いのだが、彼女の気さくな人柄がそうさせるのだろう。
「言ってくれるじゃないか。悪党はともかく、見目麗しい男性には逃げて欲しく無いんだがねぇ」
ジャハネートも冗談で応じた。
「そのお姿なら、世の男性は放っておかないと思いますが……」
「あはは、ありがとさん。んじゃあとは、お客様がいつ登場するか、だな」
手を振るジャハネートに頭を下げると、ラーソルバールは友たちの待つ自らの持ち場へと歩を進めた。
「ぷふっ、くくくくっ……」
ラーソルバールは抑えていた笑いを堪えきれず、思わず吹き出してしまった。
「ん? 何が可笑しい?」
エラゼルは理解できなかったのか、怪訝な表情を浮かべ首を傾げる。
「くくっ……あまりにも公爵閣下の前に居る時の態度が普段と違うから……もう、可笑しくって……ぷふ……これでも我慢してたんだよ」
「し……仕方ないではないか。父上の手前、無作法な真似をすれば後で何を言われるか分からんのだから……」
「はいはい。分かってます」
いつもの二人に戻り、二人は顔を見合わせて笑い出す。
ひとしきり笑ったところで、ラーソルバールはエラゼルの左腕を取ると、意味ありげに視線を向ける。
「お嬢様、今日のエスコートはどなたが?」
「身内だけの会でそんなものある訳が無いだろう?」
「では、僭越ながら、私めがその大役を」
ラーソルバールはわざとらしく一礼をすると、にやりと笑ってみせた。
「ふむ、ではそのようにいたせ」
エラゼルは笑いを堪えながら、すまし顔を作って応じた。
冗談めかしく二人がやりとりをしてる頃、陽は沈み街を夜の闇が包もうとしていた。
この日のために庭園に掲げられたランタンに灯が入れられると、冬が近いにも関わらず美しく咲く花が光で浮かび上がる。会を彩る演出でもあり、暗殺者を視認するための警備の一環でもあった。
「綺麗。さすが公爵家のお庭っていう感じがする」
バルコニーから見下ろす景色にシェラは感嘆の声を漏らした。
「街の灯りと相まって幻想的というか……。何か不思議な感じ。このまま、無事に会が終わるといいのにね」
身を乗り出すようにして、ディナレスが周囲を眺める。その様子に、モルアールが苦笑いする。
「ドレスは着ててもやっぱりお嬢様じゃないって事だな」
「いいじゃない。理由はどうあれ、平民の私が公爵家の会に出られるなんて、夢みたいな事なんだから!」
「それは分かるが、もう少し周囲の視線も気にしろよ」
「……はい。面目御座いません」
モルアールに窘められ、ディナレスは赤面してうつむいた。
浮かれ気分も有るのだろうが、これから戦闘になる可能性が高いと分かっているので、気を紛らわせたかったのかもしれない。
「二人はまだ……」
ガイザが口にし掛けたところで、会場がざわついた。
「おお、正に白と赤。エラゼル嬢と、あれがラーソルバール嬢か」
「ああ、エラゼル嬢のエスコートにラーソルバール嬢というのは、なかなかの演出じゃないか」
「流石にエラゼル嬢は美しいな……」
「ラーソルバール嬢も美しいとは聞いていたが、隣にあって見劣りしないとは驚きだ」
二人の会場入りに、感嘆の声が漏れる。
気恥ずかしさに赤面しそうになりながらも、ラーソルバールはエラゼルの横に付き添った。
「皆様、お忙しいところおいで下さり、感謝申し上げます。本日は余興がございますが、皆様の安全に十分配慮致しておりますので、ご安心くださいませ」
壇上に上がったエラゼルが優雅にお辞儀をすると、会場から拍手が巻き起こった。
そうしてエラゼルが注目を集める中、共に登場したラーソルバールは役目を終え、目立たぬようバルコニー近くへと逃げてきた。
「なかなか粋な登場だったじゃないか?」
聞き覚えのある声に、ラーソルバールは足を止める。そこには、赤みがかった茶髪と、それに似合う金の刺繍を入れた赤いドレスを纏った女性が立っていた。
「ジャハネート様、こちらにいらっしゃたのですか」
声を上げるラーソルバールに目配せをしつつ、口元に人差し指を当てる。
「アタシが居るって、あまり気付かれない方がいいんだろ?」
壁を背に。羽扇で顔を隠すようにしているが、楽しそうに笑っているのが良く分かる。彼女の横に立てかけられた大振りな箱の中身は、恐らく愛用の剣なのだろう。
「そうですね、大物の悪党でさえも寄ってこないでしょうから……」
ラーソルバールはくすりと笑った。騎士団長に冗談を言えるような立場では無いのだが、彼女の気さくな人柄がそうさせるのだろう。
「言ってくれるじゃないか。悪党はともかく、見目麗しい男性には逃げて欲しく無いんだがねぇ」
ジャハネートも冗談で応じた。
「そのお姿なら、世の男性は放っておかないと思いますが……」
「あはは、ありがとさん。んじゃあとは、お客様がいつ登場するか、だな」
手を振るジャハネートに頭を下げると、ラーソルバールは友たちの待つ自らの持ち場へと歩を進めた。
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