聖と魔の名を持つ者 ~その娘、聖女か魔女か。剣を手にした令嬢は、やがて国家最強の守護者となる~

草沢一臨

文字の大きさ
372 / 439
第二部:第三十一章 騎士になる者として

(三)小さな戦場へ③

しおりを挟む
 部屋を出て二人は人気の無い廊下を歩く。
「ぷふっ、くくくくっ……」
 ラーソルバールは抑えていた笑いを堪えきれず、思わず吹き出してしまった。
「ん? 何が可笑しい?」
 エラゼルは理解できなかったのか、怪訝な表情を浮かべ首を傾げる。
「くくっ……あまりにも公爵閣下の前に居る時の態度が普段と違うから……もう、可笑しくって……ぷふ……これでも我慢してたんだよ」
「し……仕方ないではないか。父上の手前、無作法な真似をすれば後で何を言われるか分からんのだから……」
「はいはい。分かってます」
 いつもの二人に戻り、二人は顔を見合わせて笑い出す。
 ひとしきり笑ったところで、ラーソルバールはエラゼルの左腕を取ると、意味ありげに視線を向ける。
「お嬢様、今日のエスコートはどなたが?」
「身内だけの会でそんなものある訳が無いだろう?」
「では、僭越ながら、私めがその大役を」
 ラーソルバールはわざとらしく一礼をすると、にやりと笑ってみせた。
「ふむ、ではそのようにいたせ」
 エラゼルは笑いを堪えながら、すまし顔を作って応じた。

 冗談めかしく二人がやりとりをしてる頃、陽は沈み街を夜の闇が包もうとしていた。
 この日のために庭園に掲げられたランタンに灯が入れられると、冬が近いにも関わらず美しく咲く花が光で浮かび上がる。会を彩る演出でもあり、暗殺者を視認するための警備の一環でもあった。
「綺麗。さすが公爵家のお庭っていう感じがする」
 バルコニーから見下ろす景色にシェラは感嘆の声を漏らした。
「街の灯りと相まって幻想的というか……。何か不思議な感じ。このまま、無事に会が終わるといいのにね」
 身を乗り出すようにして、ディナレスが周囲を眺める。その様子に、モルアールが苦笑いする。
「ドレスは着ててもやっぱりお嬢様じゃないって事だな」
「いいじゃない。理由はどうあれ、平民の私が公爵家の会に出られるなんて、夢みたいな事なんだから!」
「それは分かるが、もう少し周囲の視線も気にしろよ」
「……はい。面目御座いません」
 モルアールに窘められ、ディナレスは赤面してうつむいた。
 浮かれ気分も有るのだろうが、これから戦闘になる可能性が高いと分かっているので、気を紛らわせたかったのかもしれない。
「二人はまだ……」
 ガイザが口にし掛けたところで、会場がざわついた。

「おお、正に白と赤。エラゼル嬢と、あれがラーソルバール嬢か」
「ああ、エラゼル嬢のエスコートにラーソルバール嬢というのは、なかなかの演出じゃないか」
「流石にエラゼル嬢は美しいな……」
「ラーソルバール嬢も美しいとは聞いていたが、隣にあって見劣りしないとは驚きだ」

 二人の会場入りに、感嘆の声が漏れる。
 気恥ずかしさに赤面しそうになりながらも、ラーソルバールはエラゼルの横に付き添った。
「皆様、お忙しいところおいで下さり、感謝申し上げます。本日はがございますが、皆様の安全に十分配慮致しておりますので、ご安心くださいませ」
 壇上に上がったエラゼルが優雅にお辞儀をすると、会場から拍手が巻き起こった。
 そうしてエラゼルが注目を集める中、共に登場したラーソルバールは役目を終え、目立たぬようバルコニー近くへと逃げてきた。
「なかなか粋な登場だったじゃないか?」
 聞き覚えのある声に、ラーソルバールは足を止める。そこには、赤みがかった茶髪と、それに似合う金の刺繍を入れた赤いドレスを纏った女性が立っていた。
「ジャハネート様、こちらにいらっしゃたのですか」
 声を上げるラーソルバールに目配せをしつつ、口元に人差し指を当てる。
「アタシが居るって、あまり気付かれない方がいいんだろ?」
 壁を背に。羽扇で顔を隠すようにしているが、楽しそうに笑っているのが良く分かる。彼女の横に立てかけられた大振りな箱の中身は、恐らく愛用の剣なのだろう。
「そうですね、大物の悪党でさえも寄ってこないでしょうから……」
 ラーソルバールはくすりと笑った。騎士団長に冗談を言えるような立場では無いのだが、彼女の気さくな人柄がそうさせるのだろう。
「言ってくれるじゃないか。悪党はともかく、見目麗しい男性には逃げて欲しく無いんだがねぇ」
 ジャハネートも冗談で応じた。
「そのお姿なら、世の男性は放っておかないと思いますが……」
「あはは、ありがとさん。んじゃあとは、お客様がいつ登場するか、だな」
 手を振るジャハネートに頭を下げると、ラーソルバールは友たちの待つ自らの持ち場へと歩を進めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

追放された悪役令嬢、農業チートと“もふもふ”で国を救い、いつの間にか騎士団長と宰相に溺愛されていました

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢のエリナは、婚約者である第一王子から「とんでもない悪役令嬢だ!」と罵られ、婚約破棄されてしまう。しかも、見知らぬ辺境の地に追放されることに。 絶望の淵に立たされたエリナだったが、彼女には誰にも知られていない秘密のスキルがあった。それは、植物を育て、その成長を何倍にも加速させる規格外の「農業チート」! 畑を耕し、作物を育て始めたエリナの周りには、なぜか不思議な生き物たちが集まってきて……。もふもふな魔物たちに囲まれ、マイペースに農業に勤しむエリナ。 はじめは彼女を蔑んでいた辺境の人々も、彼女が作る美味しくて不思議な作物に魅了されていく。そして、彼女を追放したはずの元婚約者や、彼女の力を狙う者たちも現れて……。 これは、追放された悪役令嬢が、農業の力と少しのもふもふに助けられ、世界の常識をひっくり返していく、痛快でハートフルな成り上がりストーリー!

魔物に嫌われる「レベル0」の魔物使い。命懸けで仔犬を助けたら―実は神域クラスしかテイムできない規格外でした

たつき
ファンタジー
魔物使いでありながらスライム一匹従えられないカイルは、3年間尽くしたギルドを「無能」として追放される。 同世代のエリートたちに「魔物避けの道具」として危険な遺跡に連れ出され、最後は森の主(ヌシ)を前に囮として見捨てられた。 死を覚悟したカイルが崩落した壁の先で見つけたのは、今にも息絶えそうな一匹の白い仔犬。 「自分と同じように、理不尽に見捨てられたこの子だけは助けたい」 自分の命を顧みず、カイルが全魔力を込めて「テイム」を試みた瞬間、眠っていた真の才能が目覚める。

金喰い虫ですって!? 婚約破棄&追放された用済み聖女は、実は妖精の愛し子でした ~田舎に帰って妖精さんたちと幸せに暮らします~

アトハ
ファンタジー
「貴様はもう用済みだ。『聖女』などという迷信に踊らされて大損だった。どこへでも行くが良い」  突然の宣告で、国外追放。国のため、必死で毎日祈りを捧げたのに、その仕打ちはあんまりでではありませんか!  魔法技術が進んだ今、妖精への祈りという不確かな力を行使する聖女は国にとっての『金喰い虫』とのことですが。 「これから大災厄が来るのにね~」 「ばかな国だね~。自ら聖女様を手放そうなんて~」  妖精の声が聞こえる私は、知っています。  この国には、間もなく前代未聞の災厄が訪れるということを。  もう国のことなんて知りません。  追放したのはそっちです!  故郷に戻ってゆっくりさせてもらいますからね! ※ 他の小説サイト様にも投稿しています

白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

時岡継美
ファンタジー
 初夜に旦那様から「白い結婚」を言い渡され、お飾り妻としての生活が始まったヴィクトリアのライフワークはなんとダンジョンの攻略だった。  侯爵夫人として最低限の仕事をする傍ら、旦那様にも使用人たちにも内緒でダンジョンのラスボス戦に向けて準備を進めている。  しかし実は旦那様にも何やら秘密があるようで……?  他サイトでは「お飾り妻の趣味はダンジョン攻略です」のタイトルで公開している作品を加筆修正しております。  誤字脱字報告ありがとうございます!

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

まず、後宮に入れませんっ! ~悪役令嬢として他の国に嫁がされましたが、何故か荷物から勇者の剣が出てきたので、魔王を倒しに行くことになりました

菱沼あゆ
ファンタジー
 妹の婚約者を狙う悪女だと罵られ、国を追い出された王女フェリシア。  残忍で好色だと評判のトレラント王のもとに嫁ぐことになるが。  何故か、輿入れの荷物の中には、勇者の剣が入っていた。  後宮にも入れず、魔王を倒しに行くことになったフェリシアは――。 (小説家になろうでも掲載しています)

幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について

いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。 実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。 ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。 誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。 「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」 彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。 現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。 それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。

処理中です...