425 / 439
第三部:第三十五章 出陣
(四)初陣③
しおりを挟む
剣と剣がぶつかり、激しい金属音が響く。
「相手を押し潰せ! 守りに入るな!」
ランドルフが檄を飛ばす。
彼が斧を振るうたびに、レンドバールの兵が血飛沫を散らし、断末魔の声を上げて崩れ落ちる。最早、レンドバールの兵もランドルフを避けるようになっていた。
だが、ランドルフには気掛かりな事がひとつあった。第八騎士団との継ぎ目付近で、敵将ディガーノンが荒れ狂う嵐の如く暴れ回っており、自軍がなかり押し込まれているのが見えたからだ。
敵将の強さは自らと同等と見たが、相手をしに行こうにもこの場を離れては士気に関わる。迷いが生じた瞬間、右手で敵軍を圧倒する場所が見えた。
「右手の連中に負けるなよ! 圧倒しろ! 押し返せ!」
ラーソルバール達を出しに使って、自軍を鼓舞する。
「俺はあいつを止めてくる。ここは任せた!」
副官にそう告げると、馬首を返してランドルフは敵兵を薙倒しながら、戦場の横断を始めた。
「そこの暴れ牛! 将と見た! このランドルフが相手をしよう!」
戦場の喧騒をも飲み込むような咆哮を上げると、敵将目指して駆け寄り、手綱を離して斧をかざすと一気に振りぬいた。刹那、ガキッという激しい金属音が響き、強烈な斧の一撃はディガーノンの大剣によって受け止められていた。
「おう、牙竜将ランドルフか! 豪腕と名高き将と相見えるのは、まさに武人の喜び!」
ギチギチという金属の擦れ合う音が耳に響く。ディガーノンが両手で支える大剣からは、戦斧の重い一撃で歪んだのではないかと思う程に、違和感ともいえるような嫌な感触が伝わってきている。
このままではまずいと判断したディガーノンは力任せに斧を横に弾くと、その勢いのままに大剣でを振るって薙ぎ払う。空気をねじ切るような音を立ててランドルフを襲った一撃は、戦斧の太い柄で受け止められ、腹に響くような低い金属音を奏でた。
「いい一撃だ!」
好敵手に会った高揚感に己の血が沸き立つのを感じ、ランドルフは不敵に笑う。そのまま両者の強烈な応酬が十合以上続き、決着がつかないのではと思われたその時、砦の鐘が大きく三度響いた。
「全軍一気に押せ!」
魔法で拡声されたジャハネートの檄が戦場に響く。
ヴァストール軍後方から、レンドバール軍の後方へと弓矢の雨が降り注ぎ、攻撃魔法がレンドバール軍の頭上で弾ける。レンドバールに動揺が走った隙に、ヴァストールの騎士達は付与魔法を駆使して、最前列の味方を一気に強化し、瞬間的に相手を圧倒した。
しかしその攻勢は長く続かなかった。いや、続けなかったのだ。
再び砦の鐘が大きく四度鳴り、狼煙《のろし》が上がった。撤退の合図である。
最大限に魔法を駆使し、全力での攻勢が可能だったのは撤退を前提にした僅かな時間だけであったからで、持続してそれが出来る訳ではない。魔法部隊と、弓兵部隊は既に撤退を開始して砦に戻りつつあり、あとは歩兵、騎兵の順に撤退する事になっていた。
ヴァストール軍があっという間に砦へと撤収を始めたが、レンドバールはそれを追撃するための体制が整っていない。瞬間の圧倒的な攻撃に押し負けたレンドバールは建て直しを図っており、ヴァストールの一瞬の転換についていけなかったのだ。
作り上げた僅かな間に、最大限に魔法付与を施されたヴァストール殿《しんがり》部隊が、レンドバールの前に立ちふさがった。ランドルフが指揮する精鋭部隊である。それは撤退を図るヴァストールの兵達を安全に逃がすための盾。
だが、予想外の事態があった。ランドルフがディガーノンを相手に、激しい一騎打ち状態となっていたからだ。その指揮系統の遅れが、撤退時の僅かな遅れに繋がった。
「第五中隊、撤退だ!」
ヴェイスが叫んだ。上官の声に反応したギリューネクが呼応する。
「第十七小隊、退ける奴から退け!」
歩兵だった一星官以下の者達は既に撤退しており、残っているのはギリューネクと、ドゥー、ビスカーラ、ラーソルバールの四人であった。
四人は馬首を返し、砦へと向かって撤退を図る。だが、殿部隊が介入が僅かに遅れ、体勢を立て直したレンドバールに追撃を許す事になってしまった。
「きゃあ!」
突如、ビスカーラが馬上から放り出された。
馬首を返した隙を突かれ、彼女の乗っていた馬が切り付けられたのだった。地面に叩き付けられる瞬間に受身は取れたものの、ビスカーラは剣を手放し何度も回転するように地を滑った。
「ビスカーラ!」
ドゥーの悲鳴にも似た声が、戦場に響いた。
「相手を押し潰せ! 守りに入るな!」
ランドルフが檄を飛ばす。
彼が斧を振るうたびに、レンドバールの兵が血飛沫を散らし、断末魔の声を上げて崩れ落ちる。最早、レンドバールの兵もランドルフを避けるようになっていた。
だが、ランドルフには気掛かりな事がひとつあった。第八騎士団との継ぎ目付近で、敵将ディガーノンが荒れ狂う嵐の如く暴れ回っており、自軍がなかり押し込まれているのが見えたからだ。
敵将の強さは自らと同等と見たが、相手をしに行こうにもこの場を離れては士気に関わる。迷いが生じた瞬間、右手で敵軍を圧倒する場所が見えた。
「右手の連中に負けるなよ! 圧倒しろ! 押し返せ!」
ラーソルバール達を出しに使って、自軍を鼓舞する。
「俺はあいつを止めてくる。ここは任せた!」
副官にそう告げると、馬首を返してランドルフは敵兵を薙倒しながら、戦場の横断を始めた。
「そこの暴れ牛! 将と見た! このランドルフが相手をしよう!」
戦場の喧騒をも飲み込むような咆哮を上げると、敵将目指して駆け寄り、手綱を離して斧をかざすと一気に振りぬいた。刹那、ガキッという激しい金属音が響き、強烈な斧の一撃はディガーノンの大剣によって受け止められていた。
「おう、牙竜将ランドルフか! 豪腕と名高き将と相見えるのは、まさに武人の喜び!」
ギチギチという金属の擦れ合う音が耳に響く。ディガーノンが両手で支える大剣からは、戦斧の重い一撃で歪んだのではないかと思う程に、違和感ともいえるような嫌な感触が伝わってきている。
このままではまずいと判断したディガーノンは力任せに斧を横に弾くと、その勢いのままに大剣でを振るって薙ぎ払う。空気をねじ切るような音を立ててランドルフを襲った一撃は、戦斧の太い柄で受け止められ、腹に響くような低い金属音を奏でた。
「いい一撃だ!」
好敵手に会った高揚感に己の血が沸き立つのを感じ、ランドルフは不敵に笑う。そのまま両者の強烈な応酬が十合以上続き、決着がつかないのではと思われたその時、砦の鐘が大きく三度響いた。
「全軍一気に押せ!」
魔法で拡声されたジャハネートの檄が戦場に響く。
ヴァストール軍後方から、レンドバール軍の後方へと弓矢の雨が降り注ぎ、攻撃魔法がレンドバール軍の頭上で弾ける。レンドバールに動揺が走った隙に、ヴァストールの騎士達は付与魔法を駆使して、最前列の味方を一気に強化し、瞬間的に相手を圧倒した。
しかしその攻勢は長く続かなかった。いや、続けなかったのだ。
再び砦の鐘が大きく四度鳴り、狼煙《のろし》が上がった。撤退の合図である。
最大限に魔法を駆使し、全力での攻勢が可能だったのは撤退を前提にした僅かな時間だけであったからで、持続してそれが出来る訳ではない。魔法部隊と、弓兵部隊は既に撤退を開始して砦に戻りつつあり、あとは歩兵、騎兵の順に撤退する事になっていた。
ヴァストール軍があっという間に砦へと撤収を始めたが、レンドバールはそれを追撃するための体制が整っていない。瞬間の圧倒的な攻撃に押し負けたレンドバールは建て直しを図っており、ヴァストールの一瞬の転換についていけなかったのだ。
作り上げた僅かな間に、最大限に魔法付与を施されたヴァストール殿《しんがり》部隊が、レンドバールの前に立ちふさがった。ランドルフが指揮する精鋭部隊である。それは撤退を図るヴァストールの兵達を安全に逃がすための盾。
だが、予想外の事態があった。ランドルフがディガーノンを相手に、激しい一騎打ち状態となっていたからだ。その指揮系統の遅れが、撤退時の僅かな遅れに繋がった。
「第五中隊、撤退だ!」
ヴェイスが叫んだ。上官の声に反応したギリューネクが呼応する。
「第十七小隊、退ける奴から退け!」
歩兵だった一星官以下の者達は既に撤退しており、残っているのはギリューネクと、ドゥー、ビスカーラ、ラーソルバールの四人であった。
四人は馬首を返し、砦へと向かって撤退を図る。だが、殿部隊が介入が僅かに遅れ、体勢を立て直したレンドバールに追撃を許す事になってしまった。
「きゃあ!」
突如、ビスカーラが馬上から放り出された。
馬首を返した隙を突かれ、彼女の乗っていた馬が切り付けられたのだった。地面に叩き付けられる瞬間に受身は取れたものの、ビスカーラは剣を手放し何度も回転するように地を滑った。
「ビスカーラ!」
ドゥーの悲鳴にも似た声が、戦場に響いた。
0
あなたにおすすめの小説
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
異世界召喚されたけどスキルが地味だったので、現代知識とアイテムボックスで絶品料理を作ったら大商会になっちゃいました
黒崎隼人
ファンタジー
手違いで剣も魔法もない異世界に召喚された、しがない日本のサラリーマン、湊カイリ。
彼に与えられたのは、無限に物が入る【アイテムボックス】と、物の名前が分かる【鑑定】という、あまりにも地味な二つのスキルだけだった。
戦闘能力は皆無。途方に暮れるカイリだったが、異世界の食事が絶望的に不味いことを知り、大きなチャンスに気づく。
現代日本の「当たり前」の知識は、この世界ではとんでもない「宝」なのだと!
「醤油?味噌?そんなものがあれば、この世界の食文化はひっくり返るぞ!」
ひょんなことから出会った没落貴族の美少女・リリアナと共に、カイリは現代知識と地味スキルを駆使して屋台から商売をスタート。
絶品料理で人々の胃袋を掴み、さらには便利な生活用品を次々と発明していく。
伝説の神獣の幼体「フェン」やドワーフの鍛冶師など、頼れる仲間たちも加わり、彼らが立ち上げた「サンライズ商会」は瞬く間に大躍進!
迫り来る悪徳商会や腐敗した貴族の妨害も、現代のマーケティング術と知恵で痛快に打ち破る!
これは、平凡なサラリーマンが異世界の常識を覆し、食と生活に革命を起こして一代で大商会を築き上げる、痛快成り上がりファンタジー!
美味しい料理と、もふもふな相棒、そして仲間との絆。
人生、逆転できないことなんて何もない!
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
王子よ、貴方が責任取りなさい
天冨 七緒
恋愛
「聖女の補佐をしてくれないか?」
王子自ら辺境まで訪れ、頭を下げる。
それほど国は、切羽詰まった状況なのだろう。
だけど、私の答えは……
皆さんに知ってほしい。
今代の聖女がどんな人物なのか。
それを知った上で、私の決断は間違いだったのか判断してほしい。
余命僅かな大富豪を看取って、円満に未亡人になるはずでした
ぜんだ 夕里
恋愛
傾きかけた家を救うため、私が結んだのはあまりにも不謹慎な契約――余命いくばくもない大富豪の辺境伯様と結婚し、彼の最期を穏やかに看取ることで莫大な遺産を相続する、というものだった。
しかし、人の死を利用して富を得るなど不正義!
そう考えた私が立てたのは、前代未聞の計画。
「そうだ、遺産が残らないくらい贅沢の限りを尽くしてもらえば、すべて丸く収まるじゃない!」
ボンクラ王子の側近を任されました
里見知美
ファンタジー
「任されてくれるな?」
王宮にある宰相の執務室で、俺は頭を下げたまま脂汗を流していた。
人の良い弟である現国王を煽てあげ国の頂点へと導き出し、王国騎士団も魔術師団も視線一つで操ると噂の恐ろしい影の実力者。
そんな人に呼び出され開口一番、シンファエル殿下の側近になれと言われた。
義妹が婚約破棄を叩きつけた相手である。
王子16歳、俺26歳。側近てのは、年の近い家格のしっかりしたヤツがなるんじゃねえの?
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる