婚約者はやさぐれ王子でした

ダイナイ

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本編

2話 ささやかな抵抗

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 食事の途中で、自室へと戻って来ました。
 お父様から告げられた婚約者のレオン王子殿下のことを考えると、食事がのどを通りませんでした。

「私に婚約者......」

 アーヴァイン公爵家の令嬢ということもあって、いつかはこの日が来ると思っていました。
 だけど、いくらなんでも急すぎです。

 お父様からは事前の相談や連絡は一切なく、突然の婚約の報告。
 それも既に決まったことであり、お父様は取り消してくれる雰囲気ふんいきすらありません。

「しかも、よりにもよって相手がレオン王子殿下だなんて......」

 クライトン王国の王子といえば、相手としてはものすごく良いでしょう。
 だけど王子は王子でも、第二王子のレオン王子殿下なら話は別です。

「やさぐれ王子......」

 やさぐれ王子。
 これは、レオン王子殿下に付けられているあだ名です。
 なんでも、近隣諸国の貴族から「このやさぐれ王子!」とののしられたことから、付けられたみたいです。

 その名の通りレオン王子殿下は、どこかあきらめたような雰囲気でやさぐれていて、人との関係を積極的には持たないと言われています。
 クライトン王国に住む令嬢であれば、皆知っているのは間違いありません。

「はぁ......」

 レオン王子殿下の年齢を考えれば、そろそろ婚約者が決まるはずだとうわさされていました。
 だれが貧乏びんぼうくじを引くことになるのか、と王国の令嬢たちの間では注目の的になっていました。

 それがまさか、私になってしまうとは......。

 いくら公爵家の娘で、いつかはどこかにとつがなければならないとしても、レオン王子殿下だけは嫌です。
 お父様だって、レオン王子殿下のことを知ってさえいれば、婚約を決めることはなかったはずです。



 ◇


 翌日。
 お父様の部屋。
 私は、レオン王子殿下がやさぐれ王子としてうわさされていることをお父様に伝えました。
 そして婚約はしたくないから、婚約破棄をしてほしいことも言いました。

「ならん」

「なんでですのお父様」

 お父様は、一言だけ言いました。

「婚約破棄などあってはならん」

「でもレオン王子殿下は......」

「そんなものはうわさに過ぎないだろう?」

 最近の冷たいお父様でも、もう少し話しを聞いてもらえるはずだと信じていました。
 それなのに、私の言うことは一切聞いてくれる様子はありません。

「シルヴィアよ、この婚約はお前のためなのだ。第二王子ではあるが、王族に嫁げる機会など滅多めったにあるものではない」

 私のため......?
 それは本当にそうなのでしょうか。

「それに、シルヴィアとレオン王子殿下の婚約を決めるのにどれだけ苦労としたと思っているのだ」

 お父様はため息をつきながら、そう言いました。
 先程の言葉よりも、今の言葉の方が感情がこもっていて、本音のように思えます。

「とにかく、シルヴィアとレオン王子殿下の婚約を破棄することは許さない」

「そんな、お父様! 私の話を聞いて下さい!」

「これは決定事項であり、くつがえることはありえない」

 くつがえることはありえない。
 その言葉を聞いて下半身の力が抜けてしまい、床へと倒れ込む。

「レオン王子殿下だって、実際に会ってみなければどんな人かは分からないだろう。婚約を結ぶに当たって、数日後に王都へと向かうことになっている」

「もう決まっていたことなのですね......」

 床へと倒れ込んだ私に、言葉をかけることもなく、お父様は冷たくそう言いました。
 この婚約は、お父様の中ではすでに決まっていることであり、私の話しなど聞くつもりは最初からなかったみたいです。

 お父様のことを信じていた気持ちが裏切られ、胸の中から何かが込み上がってくるような気がして来ました。

「泣いたからと言って、変えるつもりはない」

「えっ......あれ、私......」

 私は、目に手を当てて初めて泣いていることに気が付きました。
 この涙は、お父様に裏切られたから? それとも、婚約が嫌だから? 私には分かりません。

「その様子だと、婚約が嫌で何をするか分からないな」

 お父様は、それだけ言うと執事を呼びました。

「お前、シルヴィアを地下牢ちかろうへと入れておけ」

「で、ですが......」

 執事は、私のことを見ながらお父様から言われた命令に困惑こんわくしている様子でした。

「お前は、言われたことをただやればいいんだ」

「は、はい。分かりました」

 私は執事に腕をつかまれて、引っ張られるように誘導されました。

「ま、待って下さい、お父様! お父様っー!」

 お父様の方を見ても、目を合わせてくれることも、言葉をかけてくれることはありませんでした。



 ◇



「シルヴィアお嬢様、申し訳ございません......」

 ガチャリ、と地下牢の扉のかぎが閉められた。
 これで、内側からは決して出ることは出来なくなりました。

「......」

 目の前の執事が、悪くないことは分かっています。
 だけど口を開くだけの気力も無くなり、返事をすることは出来ませんでした。
 執事は申し訳なさそうにしながら、地下牢のある部屋から出て行きました。

 日が当たらず、松明たいまつの火だけで照らされた暗闇の中。
 ベット以外には何も置かれてはいない、地下牢に入れられてしまいました。

 私は、ベットへと横たわりながら涙を流した。

「お母様......」

 私の発した言葉は、誰にも聞かれることはありませんでした——。
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