婚約者はやさぐれ王子でした

ダイナイ

文字の大きさ
4 / 45
本編

1話 突然の婚約

しおりを挟む
 アーヴァイン公爵領にある屋敷。
 日も暮れ始めた頃、屋敷の玄関。

「ただいま帰った」

 マックス・アーヴァイン。
 アーヴァイン公爵家の当主であり、私のお父様です。
 王都での公務のため、出かけていたお父様が疲れた表情をしながら帰って来た。

「お帰りなさいお父様っ!」
「お帰りなさいお父様」

 私と妹のセレナは、そんなお父様を出迎えるために屋敷の玄関へと来ていた。
 セレナは、アーヴァイン公爵家の令嬢で、私の妹です。

「おおセレナよ、わざわざ出迎えてくれるとは嬉しいよ」

「セレナは、お父様の無事を祈っていましたのよ」

 お父様は、先ほどまでの疲れた表情とは一転して、顔を崩しながら声を高らかにした。
 妹のセレナも、お父様の帰還を心から喜んでいます。

「それはとても嬉しいよ。そうだセレナにお土産を買って来たんだ」

「ありがとうございますお父様!」

 わーい、とクルクルと回っている妹を温かい目で見守るお父様。
 そして、妹の隣に立つ私に気が付いた様子で、表情を戻す。

「あぁ、シルヴィアもいたのか。ただいま帰った」

「おかえりなさい、お父様」

 シルヴィア・アーヴァイン。
 アーヴァイン公爵家の令嬢で、私の名前です。

 お父様の言葉は淡々としていて、妹に向けていたような温かい視線もそこにはありません。

「私は部屋に戻る」

「はい......」

 それだけ言うと、お父様は廊下を歩いて進んで行ってしまいました。
 冷たいように思いますが、これがアーヴァイン公爵家での日常です。
 いつもの光景であり、妹と私への態度もいつもの変わりがありません。

「お姉様、邪魔ですわよ」
「ああごめんなさい、セレナ」

 お父様の背中を見ていると、妹に声をかけられた。
 そして妹の邪魔にならないように、進路をゆずりました。



 ◇



 食堂のテーブルには、四つの椅子がある。
 そこには、私とお父様とセレナの三人が座っています。
 三人で座って食事をとりながら、お父様の話を聞くのが、アーヴァイン公爵家での習慣です。

「お父様、お土産ありがとうございます」

「なに、セレナが喜んでくれるのならどんなものだって持ってこようじゃないか」

 机の上には、お父様が妹に用意したお土産が積まれていた。
 宝石から王都で流行はやりの品まで、数多くのものがある。

「わぁ、こんなにたくさんの宝石......」

「全部セレナのものだ、自由に持って行きなさい」

 もちろん、数多く積まれているお土産の中に、私の分はありません。
 全て妹のセレナのために、お父様が用意したものです。

 最初は悲しくて泣くこともありましたけど、今ではこれが当たり前になったので、何も思うことはありません。

「いらないのはお姉様にあげるわ。捨てるともったいないから、有効活用しなくてわ」

「セレナはなんて優しい子なんだ」

「ありがとうセレナ」

 これが当たり前なのです。
 妹のおこぼれを。妹からしたら、ゴミ同然のものを渡してくれます。
 決して、悲しくなんてありません......。

「ああ、そう言えばシルヴィアにも話があったね」

「私に話ですか?」

 お父様は、思い出したかのように言いました。
 普段は妹と話しをして、私と話すことはありません。
 一体、どのようなことを話すつもりなのでしょうか。

 まさか、私にもお土産を買って来たのですか。

「シルヴィア、お前の婚約者が決まったよ」

「え......?」

 お父様の口から聞かされた内容は、私の想像しているものは、大きくかけ離れたものでした。
 婚約者......一体誰のでしょうか......私には理解出来ず、聞き返してしまいました。

「今、なんと言いましたのお父様」

「だからシルヴィア、お前の婚約者が決まったんだよ」

「私の、ですか?」

「そうだと言っているだろう」

 今まで、お父様から婚約者の話なんて聞いたことはありません。
 それなのに、こんなにもどうして急に。

「あ、相手は誰ですか?」

「聞いたら驚くぞ。なんと、王国の第2王子のレオン・クライトン王子殿下だ」

レオン・クライトン王子殿下ですか?」

 私は、お父様が言ったことをようやく理解し始めて、これが現実なのだと分かりました。
 それと同時に、ひどいめまいに襲われました。

 相手があのレオン・クライトン王子殿下だなんて。
 私はただこの生活を耐えていれば、いつかまた前のような幸せな家庭に戻ると信じていたのに。
 どうやら、それがかなうことはなくなってしまったみたいです——。

「あら、お姉様にのお相手じゃありませんか」

 妹は、私の顔をニヤニヤとした表情をしながら見て言った。
 どうやら、レオン王子殿下のことを知った上での発言のようです。

 レオン・クライトン王子殿下。
 王国の第2王子であり、王国の女性たちからの評判はとても悪く、やさぐれ王子と悪名高《あくみょうたか》い人です。

「セレナも知っていたのか」

「ええお父様。シルヴィアお姉様は羨ましいですわね、あのレオン王子殿下と婚約出来るなんて」

 お父様と妹が何かを話しているけれど、その内容は頭には入って来ませんでした。
 これから先のことを考えると、目の前が真っ暗になったかのような錯覚さっかくおそわれました。

 私は、これからどうなってしまうのでしょうか——。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

ヤンキー、悪役令嬢になる

山口三
恋愛
岸田和華(きしだわか)は異世界に飛ばされた。自分が読んでいた小説の悪役令嬢ジュリエットに憑依してしまったのだ。だが和華は短気でガサツで、中学高校と番を張ってたヤンキーだ。高貴な身分の貴族令嬢なんてガラじゃない。「舞踏会でダンス? 踊りなんて盆踊りしか知らないからっ」 一方、リアル世界に残された和華の中にはジュリエットが入っていて・・。

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」 公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。 死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」 目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。 「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」 隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。 そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……? 「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」 資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。

役立たずと捨てられた万能建築士、隣国で「聖域」を造って無双する。今さら復興のために戻れ? ご自分たちで瓦礫でも積んでいればよろしいのでは?

しょくぱん
恋愛
「お前の魔法は石を積むだけの土木作業だ」と婚約破棄されたので、城を支えていた『構造維持結界』をすべて解除して出て行きますね。今さら「城が崩れる!」と泣きつかれても、私は隣国で氷結の皇帝陛下と「世界最高の聖域」を造っていますので、一切知りません。 王国唯一の建築魔導師アニエスは、その地味な見た目と能力を理由に、王太子シグムンドから婚約破棄と国外追放を言い渡される。 彼の隣には、派手な光魔法を使う自称聖女の姿があった。 「お前の代わりなどいくらでもいる。さっさと出て行け!」 「……分かりました。では、城にかけていた『自動修復』『耐震』『空調』の全術式を解約しますね」 アニエスが去った直後、王城は音を立てて傾き、噴水は泥水に変わり、王都のインフラは崩壊した。 一方、アニエスは隣国の荒野で、呪われた皇帝レオンハルトと出会う。彼女が何気なく造った一夜の宿は、呪いを浄化するほどの「聖域」だった。 「君は女神か? どうか私の国を救ってほしい」 「喜んで。ついでに世界一快適な住居も造っていいですか?」 隣国がアニエスの力で黄金の国へと発展する一方、瓦礫の山となった母国からは「戻ってきてくれ」と悲痛な手紙が届く。 だが、アニエスは冷ややかに言い放つ。 「お断りします。契約外ですので、ご自分で支えていればよろしいのでは?」 これは、捨てられた万能建築士が隣国で溺愛され、幸せを掴む物語。 そして、彼女を捨てた者たちが、物理的にも社会的にも「崩壊」し、最後には彼女が架ける橋の『礎石』として永遠に踏まれ続けるまでの、壮絶な因果応報の記録。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...