婚約者はやさぐれ王子でした

ダイナイ

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本編

38話 リスター侯爵領 ケヴィンとセレナ

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 リスター侯爵家。
 クライトン王国でも有数の貴族であり、他国と隣接する領地を持っている。
 このことから、軍隊にも力を入れていて王国内でも頼れる存在となっている。

 王妃となったシルヴィアの母の実家でもあり、現領主のアルバート・リスターはシルヴィアの伯父に当たる人物だ。

 そんな王都から離れた土地には、二人の人物が勉強のため訪れていた。

「くそ、なんでこんな田舎で生活をしなくてはいけないんだ」

 ケヴィン・クライトン。
 元王太子であったが、今は王位継承権は剥奪はつだつされている。
 身元保証人のリスター侯爵の存在がなければ、貴族としての身分すらないと言える。

「ケヴィン様、私疲れてしまいましたわ」

 セレナ・アーヴァイン。
 元王太子のケヴィンの婚約者。
 次代の王妃となる予定だったが、ケヴィンと同じく身分を剥奪された。
 婚約自体は、まだ継続されているので同じ場所で勉強をすることになった。


 二人は、馬車から降りた。
 そこへ一人の男性が近付いて来る。

「やぁよく来たね。セレナにケヴィン」

 リスター侯爵本人である。
 二人に敬称けいしょうを付けることもせず、気安く名前を言う。

「きさま! たかが侯爵のくせに、この俺を呼び捨てにするとはどう言うことだ」

「ケヴィン。まだ立場が分からないのか」

 リスター侯爵は、鋭い眼光をケヴィンへと向けた。
 ケヴィンは、それを見て「ひぃ」と小さく悲鳴をあげて腰を抜かして地面へと倒れ込んだ。

「伯父様! 私、アーヴァイン領に戻りたいですわ」

「セレナ、久しぶりだね。今は戻ることは許さないよ」

「ひどいですわ、私は今すぐに戻りたいんですわ!」

 リスター侯爵は、「はぁ」とため息をついた。

「瓜二つだというのに、こうも違うとは......」

 目の前の二人には聞こえないくらいの、小さな声でつぶやいた。

「さぁ、二人とも早く屋敷に入るんだ。これからはここが君たちが住む場所だからね」

「ふ、ふざけるな!」
「帰りたいですわ!」

 抵抗するケヴィンとセレナを前に、兵士たちが無理やり屋敷へと連れて行った。

「全く。初日からこうとは、これからが思いやられるよ......」

 最後に残ったリスター侯爵は、そう言いながら自らも屋敷へと入って行った。


 ◇


 ケヴィンとセレナが、リスター侯爵領に来た翌日。
 セレナは、お世話係のメイドとマナーについて勉強をしているところだった。

「もー我慢出来ませんわ。こんな服で、しかも勉強なんてやってられませんわ」

「セレナお嬢様、服でしたら自由に好きな物を着ても良いのですよ。アルバート様も、そうおっしゃっていました」

 彼女が着ているのは、アーヴァイン公爵領にいた頃のような豪華なドレスではない。
 質素なつくりのもので、どう見ても量産品だ。

「でしたら、今すぐ買い物に行きますわよ!」

「お嬢様、お金はあるのですか?」

「え、伯父様がお小遣いをくれると言ってたじゃないですか」

 メイドは、財布を取り出して中身を見せた。

「お嬢様のお小遣いは、1000Cだけです」

 C、クライトン王国で発行されている金銭の略称である。

「それで買えばいいじゃないの」

「セレナお嬢様。量産品の安いドレスでも一つ10万Cは必要になります。オーダーするとなると、どれくらい必要になるかは分かりません」

「そんなもの、伯父様からまたお小遣いをもらえばいいじゃないの。何を言っているのですか?」

「お嬢様のお小遣いは、一月1000Cですよ」

 セレナは、メイドの言葉に驚いた。

「それじゃあ何にも買えないじゃないの!」

「ええ、買えません」

「ドレスだけじゃないわ。化粧品だって、黄金だって買えないわ」

「ええ、買えませんね」

「もう嫌だわ、私何もしないわよ!」

 セレナは、お小遣いの価値に気がつくダダをこねはじめた。

「お嬢様、足りない分は自分で稼げば良いのですよ」

「自分で?」

「ええ、そのためには——」

 メイドは、こうしてマナーだけではなく金銭感覚についても教えて行くのだった——。


 ◇


「おうお疲れ様さん。今日の報酬だ」

「こんなもので何が買えると言うんだ!」

 ケヴィンは、渡された500Cを手に激怒していた。

 リスター侯爵領に着いた翌日には、肉体労働をさせられて、その報酬がたったの500Cしかもらえなかったのだ。
 王太子であった頃には、湯水のようにあったお金を好き勝手に使っていた。

 そんなケヴィンからすれば、今渡されたのはゴミにも等しい価値しかない。

「そんな貴族みたいな話し方して、変な奴だな」

「だから俺は貴族だと言っているだろう!」

「はいはい、分かった分かった」

 ケヴィンの言葉に、信じていない親方は軽くあしらった。

「500Cもあれば、屋台で飯が食えるじゃないか」

「屋台だと?」

 親方は、「ああ」と言って目の前にある屋台を指差す。

「あそこに行けば飯が食べられるのか?」

「おうよ、今日は俺がおごってやるよ」

 そう言うと親方は、屋台の方へと走って行った。

「おばちゃん、いつものやつを二つ頼むよ」

「はいよ、少しだけ待ってな」

 そして料理手渡されると、ケヴィンの元へと戻って来た。

「ほらよ、食ってみろ」

「まずい。肉は硬いし味付けも雑過ぎる」

 ケヴィンは、渡された料理を口にしながら文句を言う。

「だが、なんとも言えない満足感も感じるな」

「それは、体使って金を稼いだからだろ」

「そうなのか?」

「おうよ」

 こうして、ケヴィンは人生で初めて自分で稼いだお金を稼いだ。
 おごってもらったとはいえ、500Cの価値を少しだけ理解することが出来たのだった——。
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