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学内にある食堂で、二人席のテーブルに向かい合わせに座るフィオナとミック。フィオナの目の前には、ハムとたまごとレタスが挟まれたサンドイッチが置かれていた。
フィオナがサンドイッチを手に取り、口に運ぼうとしたそのとき、
「違うよ」
と、フィオナに向かってミックが言った。フィオナの手がぴたりと止まる。
「ほら、よく見て。ハムが入ってるよ。ぼくが食べてあげるから、それをよこして」
「あ、そうね。気付かなかったわ」
フィオナの反応に、ミックが、しょうがないなあ、と笑う。
「きみはベーコンは好きだけど、ハムはなぜか苦手だったからね」
ミックは慣れた手つきでサンドイッチからハムだけ抜き取ると、フィオナに「さあ、どうぞ」と、それを返した。ありがとう。お礼を述べるフィオナを、少し離れた場所からじっと見ている者がいたが、二人はまるで気付いていなかった。
フィオナは、学内にある図書室にいた。ミックのクラスより早く授業が終了したときはいつも、ここでミックを待つのが日課になっていた。
ぱたん。
読み終わってしまった本を閉じる。今日はいつもより遅いな。思いながら、次の本を見繕うため、フィオナは席を立った。しばらくうろうろしていると、気になるタイトルの本を見つけた。それは本棚の一番上にあり、手を伸ばすが、あと手のひら一つぶん足りない。
「──これか?」
後ろから伸ばされた手が、目当ての本を取った。ミックよりいくぶんか低い声音に、フィオナは目を見張った。
「……あ、りがとうございます。ニール様」
礼を述べるフィオナに、ニールと呼ばれた男子生徒は素っ気なく、その本をフィオナに手渡した。
「別に。たまたま視界に入っただけだ」
切れ長の目がふいっとそらされ、銀の髪がふわっと揺れた。端正な顔立ちの彼は、どんな仕草でも絵になってしまうため、遠くから彼を見ていた令嬢たちは、思わずほうっとため息をついていた。
彼はフィオナのクラスメイトで、貴族の子どもたちが大勢通うこの学園でも数人しかいない、公爵令息だった。そのままくるりと踵を返し、立ち去るものと思っていたニールだったが、ふいにフィオナに向き直り、視線を止めた。
フィオナが居心地悪そうに「あの、何か……?」とそわそわしていると、ニールはからかうような口調で口角をあげた。
「いや? ただ、ずいぶんとつまらない女性になってしまったなと思っていただけだ」
「……それは、どういう意味でしょうか」
「それを理解しているにしろ、していないにしろ。不愉快な問いだな」
ニールが吐き捨てる。フィオナは──ただ黙って、うつ向いた。ふっ。鼻で笑ったニールが、ふいに「そうだ」と声をあげた。
「お前の友が、お前の婚約者と共に、音楽室の方へ向かうのを見たぞ」
急な話題転換に、フィオナはキョトンとした。
「? ジェマとミックが、ですか?」
「ああ。確か、そんな名だったな」
興味なさげにそれだけ言うと、ニールは今度こそ、その場を去って行った。
フィオナがサンドイッチを手に取り、口に運ぼうとしたそのとき、
「違うよ」
と、フィオナに向かってミックが言った。フィオナの手がぴたりと止まる。
「ほら、よく見て。ハムが入ってるよ。ぼくが食べてあげるから、それをよこして」
「あ、そうね。気付かなかったわ」
フィオナの反応に、ミックが、しょうがないなあ、と笑う。
「きみはベーコンは好きだけど、ハムはなぜか苦手だったからね」
ミックは慣れた手つきでサンドイッチからハムだけ抜き取ると、フィオナに「さあ、どうぞ」と、それを返した。ありがとう。お礼を述べるフィオナを、少し離れた場所からじっと見ている者がいたが、二人はまるで気付いていなかった。
フィオナは、学内にある図書室にいた。ミックのクラスより早く授業が終了したときはいつも、ここでミックを待つのが日課になっていた。
ぱたん。
読み終わってしまった本を閉じる。今日はいつもより遅いな。思いながら、次の本を見繕うため、フィオナは席を立った。しばらくうろうろしていると、気になるタイトルの本を見つけた。それは本棚の一番上にあり、手を伸ばすが、あと手のひら一つぶん足りない。
「──これか?」
後ろから伸ばされた手が、目当ての本を取った。ミックよりいくぶんか低い声音に、フィオナは目を見張った。
「……あ、りがとうございます。ニール様」
礼を述べるフィオナに、ニールと呼ばれた男子生徒は素っ気なく、その本をフィオナに手渡した。
「別に。たまたま視界に入っただけだ」
切れ長の目がふいっとそらされ、銀の髪がふわっと揺れた。端正な顔立ちの彼は、どんな仕草でも絵になってしまうため、遠くから彼を見ていた令嬢たちは、思わずほうっとため息をついていた。
彼はフィオナのクラスメイトで、貴族の子どもたちが大勢通うこの学園でも数人しかいない、公爵令息だった。そのままくるりと踵を返し、立ち去るものと思っていたニールだったが、ふいにフィオナに向き直り、視線を止めた。
フィオナが居心地悪そうに「あの、何か……?」とそわそわしていると、ニールはからかうような口調で口角をあげた。
「いや? ただ、ずいぶんとつまらない女性になってしまったなと思っていただけだ」
「……それは、どういう意味でしょうか」
「それを理解しているにしろ、していないにしろ。不愉快な問いだな」
ニールが吐き捨てる。フィオナは──ただ黙って、うつ向いた。ふっ。鼻で笑ったニールが、ふいに「そうだ」と声をあげた。
「お前の友が、お前の婚約者と共に、音楽室の方へ向かうのを見たぞ」
急な話題転換に、フィオナはキョトンとした。
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