溺愛されていると信じておりました──が。もう、どうでもいいです。

ふまさ

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 翌朝。

 フィオナはいつもより一時間早く屋敷を出て、学園に向かっていた。むろん、馬車内にいるのはフィオナ一人だ。万が一にもミックが迎えに来る可能性を考えてのことだったが、目的はもう一つあった。

 人もまばらな学園内の廊下を歩き、図書室へと向かう。必要な本を身繕い、カバンから教科書とノートを取り出すと、黙々と勉強をはじめた。

 いつも成績は下位に位置していたフローラを真似、フィオナはここ三ヶ月、まともに勉強をしてこなかった。本当に馬鹿なことをしたと、今なら思える。

 次の試験まで、あとひと月。これまでの遅れを取り戻す覚悟で、フィオナは集中した。わからないところはあとで教師に聞こうとチェックし、先に進む。

 立ち止まっている時間など、ないから。


 そろそろ授業がはじまる時刻となり、フィオナは教室へと足を向けた。教室が見えてきたとき、フィオナはおもいっきり眉をひそめた。扉の前に、ミックがいたからだ。逃げようかとも思ったが、どうせいつかは鉢合わせしてしまうだろうと諦め、重い足取りでそこに足を進めた。

「──フィオナ!」

 気付いたミックが駆け寄ってくる。思わず足を止めたフィオナの肩を、強引に掴んできた。

「……いたっ」

 小さな声に、むろん反応することもなく。

「一晩経って、頭は冷えたかい?」

 第一声が、これだった。本当にどうしようもない男だと、心から呆れる。よくこんな男に好かれたいと思えたものだと、自身が恐ろしくなった。

「もとからわたしは冷静よ。それより、あなたはどうなの? 価値のないわたしは愛せないのだから、婚約解消してくれるわよね?」

 教室内にも、外にも、生徒は大勢いるが、フィオナは小声で話すこともなく、おかまいなしに訊ねた。どうせ、あとひと月後にはここからいなくなるのだ。世間体など、気にする方が馬鹿らしい。

「……っ! どうして。どうしてわかってくれないんだ。きみがフローラになれば、みんなが喜ぶ。侯爵はああ言っていたが、本心ではフローラになってほしいと願っているはずだ。ぼくにはわかる!」

 しん。
 まわりにいる者が一瞬、静まり返った。それからすぐに、ざわざわとし出した。

「え、あの人……何、言ってるの?」

「わからないけど……何か怖いね」

 フィオナたちを知らない生徒は、ただ怯えていた。だが、フィオナたちを知る者の反応は違っていた。

「……まさか。フィオナ様の様子がおかしかったのって」

「うん……何だかフローラ様に似てきたなって思っていたけど、ミック様にそう強要されていたなんて……」

 ぼそぼそ話してはいるが、ところどころ聞こえてくる生徒たちの会話。ちらっとミックを見れば、それどころではないのか、目を血走らせていた。

 フィオナの背筋がぞっとする。ミックの手を肩からどけようとするが、それに気付いているのかいないのか。ミックがますます力を込める。

「……っ!!」

 苦痛に顔を歪めるフィオナ。いい加減にして。そう叫ぼうとしたとき。


「──邪魔だ。どけ」

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