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「…………っ!!」
エルシーの頬に、一筋の涙がこぼれた。何てひどいことを。吐き出すように呟きながらも、エルシーはとても信じられなかった。
信じてあげられなかった。
誰より、信じてあげなくてはならない存在だったのに。
「まあ、何てお似合いの二人なのかしら」
「本当に。美男美女で、絵になるわ」
「うらやましいですわね」
ノヴァック侯爵主催のパーティーに招かれた客たちが、ノヴァック侯爵家の広間で、音楽に合わせて踊る二人に注目する。
一人は、ノヴァック侯爵の娘であるエルシー。ダンスの相手は、エルシーの婚約者。ハサノフ伯爵の息子、スペンサーである。
「令嬢たちが、あなたを見ているわ」
エルシーが囁くと、スペンサーは小さく笑った。
「妬いているの? 嬉しいな」
「嬉しい?」
「嬉しいよ。だって、それだけぼくのことを愛してくれているってことだからね」
「あなたも嫉妬することはあるの?」
「あるよ。きみは魅力的過ぎて、いつも嫉妬ばかりさ」
ふふ。
エルシーが笑うと、スペンサーも笑った。
二人ともに、とても幸せそうな顔で踊っている。心が満たされている。そんな雰囲気が漂ってくる。そんな二人を、まわりが微笑ましく見守っている。
──だが、ただ一人。
ひっそりと。けれど確かに、刺すような双眸を向ける女性が、いた。
「ふふ。今日のパーティー、とても楽しかったわ。あなたも少しは楽しめた?」
自室の鏡台の前に座り、髪を櫛でといてくれている侍女のカミラに、鏡越しに話かけるエルシー。カミラは「……そう、ですね」と、目を伏せた。エルシーは申し訳なさそうに、すぐに謝罪した。
「ごめんなさい……カミラはきっとそれどころじゃなかったわよね。パーティーの準備だけじゃなくて、最中も、後片付けだって」
「い、いえ! そんなことは……」
どんどん声が小さくなり、カミラが沈黙する。エルシーは振り返り、カミラの手を取った。
「何か悩み事でもあるの? もしそうなら、遠慮なく言ってね? といっても、わたしじゃ、頼りにならないかもしれないけど……」
「そ、そんなことはありません!」
カミラは声をあげると、小さく「……では。あの、一つだけ」とぼそぼそと呟いた。エルシーが嬉しそうに「なに?」と返す。
「……お嬢様は、いま、幸せですか?」
エルシーは、ああ、と笑った。
「ええ、とても。ずっと心配してくれてたのね。ありがとう、カミラ」
カミラは小さく笑うと、そうですか、と呟き、再びエルシーの髪を櫛でときはじめた。
エルシーの頬に、一筋の涙がこぼれた。何てひどいことを。吐き出すように呟きながらも、エルシーはとても信じられなかった。
信じてあげられなかった。
誰より、信じてあげなくてはならない存在だったのに。
「まあ、何てお似合いの二人なのかしら」
「本当に。美男美女で、絵になるわ」
「うらやましいですわね」
ノヴァック侯爵主催のパーティーに招かれた客たちが、ノヴァック侯爵家の広間で、音楽に合わせて踊る二人に注目する。
一人は、ノヴァック侯爵の娘であるエルシー。ダンスの相手は、エルシーの婚約者。ハサノフ伯爵の息子、スペンサーである。
「令嬢たちが、あなたを見ているわ」
エルシーが囁くと、スペンサーは小さく笑った。
「妬いているの? 嬉しいな」
「嬉しい?」
「嬉しいよ。だって、それだけぼくのことを愛してくれているってことだからね」
「あなたも嫉妬することはあるの?」
「あるよ。きみは魅力的過ぎて、いつも嫉妬ばかりさ」
ふふ。
エルシーが笑うと、スペンサーも笑った。
二人ともに、とても幸せそうな顔で踊っている。心が満たされている。そんな雰囲気が漂ってくる。そんな二人を、まわりが微笑ましく見守っている。
──だが、ただ一人。
ひっそりと。けれど確かに、刺すような双眸を向ける女性が、いた。
「ふふ。今日のパーティー、とても楽しかったわ。あなたも少しは楽しめた?」
自室の鏡台の前に座り、髪を櫛でといてくれている侍女のカミラに、鏡越しに話かけるエルシー。カミラは「……そう、ですね」と、目を伏せた。エルシーは申し訳なさそうに、すぐに謝罪した。
「ごめんなさい……カミラはきっとそれどころじゃなかったわよね。パーティーの準備だけじゃなくて、最中も、後片付けだって」
「い、いえ! そんなことは……」
どんどん声が小さくなり、カミラが沈黙する。エルシーは振り返り、カミラの手を取った。
「何か悩み事でもあるの? もしそうなら、遠慮なく言ってね? といっても、わたしじゃ、頼りにならないかもしれないけど……」
「そ、そんなことはありません!」
カミラは声をあげると、小さく「……では。あの、一つだけ」とぼそぼそと呟いた。エルシーが嬉しそうに「なに?」と返す。
「……お嬢様は、いま、幸せですか?」
エルシーは、ああ、と笑った。
「ええ、とても。ずっと心配してくれてたのね。ありがとう、カミラ」
カミラは小さく笑うと、そうですか、と呟き、再びエルシーの髪を櫛でときはじめた。
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