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文武両道、容姿端麗の二人は、王立学園ではちょっとした有名人だった。そんな二人が出会ったのは、王立学園で。付き合うようになったのは、共に王立学園に入学してから、三ヶ月が経ってからのことだった。
親の爵位の差こそあれ、口々に、みながお似合いだと祝福した。二人は幸せそうだったし、誰もがそれを信じて疑わなかった。
「あと三ヶ月で、二年生になるね」
学園の廊下を歩きながら、スペンサーが笑いかける。エルシーが、そうね、と微笑む。
「次こそ、同じクラスになれたらいいわね」
「ああ、本当に」
こんな穏やかな日が続くと、互いに思っていたことだろう。
──けれど。
それは、休日の朝のことだった。
「あ」
寝台からおりたエルシーが、眠るまで読んでいた本を、寝台から落とした。それを拾うため、腰を屈める。
(……あれ?)
ふと、視界の端に入った何かの違和感に気付いた。本を手に、そこに目を向ける。それは、本棚だった。
「?」
ゆっくりと足を動かして本棚の前にくると、エルシーはしゃがんだ。一番下に並べられている本をじっと見る。
「やっぱり……でも、どうして?」
端にある分厚い三冊の本が、僅かに手前に出ている。手で押し込むが、引っ込まない。まるで奥に何かあるような。
エルシーは三冊の本を取り出した。そこには予想通り、何かがあった。それは、一冊のノートだった。
「どうしてこんな、隠すような真似を……」
不思議に思いながら、エルシーはノートをめくった。そこには文章がびっしりと書かれており、読み進めていくうちに、エルシーの顔からは、血の気が引いていった。
コンコン。コンコン。
扉がノックされる。おはようございます。カミラです。名乗る声も聞こえていないのか、エルシーは答えず、ノートに書かれた文章を読み進める。
「……お嬢様? そろそろ起きて支度をしないと、スペンサー様が迎えに来られる時間に間に合いませんよ?」
返事がない。カミラは悩んだが「失礼します」と、扉を開けた。
とたんに目に入ったのは、床に座る、顔面蒼白で小刻みに震えるエルシーの姿だった。
親の爵位の差こそあれ、口々に、みながお似合いだと祝福した。二人は幸せそうだったし、誰もがそれを信じて疑わなかった。
「あと三ヶ月で、二年生になるね」
学園の廊下を歩きながら、スペンサーが笑いかける。エルシーが、そうね、と微笑む。
「次こそ、同じクラスになれたらいいわね」
「ああ、本当に」
こんな穏やかな日が続くと、互いに思っていたことだろう。
──けれど。
それは、休日の朝のことだった。
「あ」
寝台からおりたエルシーが、眠るまで読んでいた本を、寝台から落とした。それを拾うため、腰を屈める。
(……あれ?)
ふと、視界の端に入った何かの違和感に気付いた。本を手に、そこに目を向ける。それは、本棚だった。
「?」
ゆっくりと足を動かして本棚の前にくると、エルシーはしゃがんだ。一番下に並べられている本をじっと見る。
「やっぱり……でも、どうして?」
端にある分厚い三冊の本が、僅かに手前に出ている。手で押し込むが、引っ込まない。まるで奥に何かあるような。
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「どうしてこんな、隠すような真似を……」
不思議に思いながら、エルシーはノートをめくった。そこには文章がびっしりと書かれており、読み進めていくうちに、エルシーの顔からは、血の気が引いていった。
コンコン。コンコン。
扉がノックされる。おはようございます。カミラです。名乗る声も聞こえていないのか、エルシーは答えず、ノートに書かれた文章を読み進める。
「……お嬢様? そろそろ起きて支度をしないと、スペンサー様が迎えに来られる時間に間に合いませんよ?」
返事がない。カミラは悩んだが「失礼します」と、扉を開けた。
とたんに目に入ったのは、床に座る、顔面蒼白で小刻みに震えるエルシーの姿だった。
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