わたしの愛しい人を傷付けた、愛する婚約者様へ。わたしはあなたを絶対に許しません。

ふまさ

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 ──二時間後。

 ノヴァック侯爵の屋敷に着いたスペンサーが、玄関扉のノッカーを叩いた。ゆっくりと開かれたそこには、使用人ではなく、エルシーの姿があった。

「どうしたんだい? ぼくに会うのが、待ちきれなかったのかな?」

 冗談めかして笑うスペンサーに、エルシーは、ええ、と答え、スペンサーの後ろにいる従者に目線を移した。

「ごめんなさい。スペンサーと二人きりでお話ししたいことがあるの。少し外で待っていてもらえるかしら」

 従者は「もちろんですとも」と笑み、腰を折った。ありがとう、とエルシーは玄関扉を閉め、かちゃりと鍵をかけた。スペンサーが首を傾げる。

「鍵までかけるなんて、念入りだね。よほど大事な話なのかな」

「ええ、そうよ。だからお父様たちはもちろん、使用人たちも全て、出掛けてもらったわ」

 スペンサーは目を丸くした。

「それは、また……いったい、何の話だい?」

 エルシーはくるりと振り返り「何だと思う?」と問いかけた。スペンサーが顎に手をあて、考える素振りを見せる。

「何だろう……きみの誕生日ともぼくの誕生日とも違うだろうし……他の記念日でもないよね」

「そうね。そんな楽しい話なら、どんなに良かったかしら」

「……何か、良くない話かい?」

 エルシーとスペンサーの視線が交差する。エルシーの双眸は、怖いぐらいに、真剣だった。

「心当たりは?」

「……ない、かな」

「本当に?」

 問い詰めるような声色に、スペンサーがごくりと生唾を呑んだ。

 そして。

 しばらくの沈黙のあと、エルシーは、淡々とこう告げた。


「──記憶が戻った、と言えば、話の内容は理解してもらえるかしら」


 スペンサーの目が、はち切れんばかりに見開かれた。
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