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告白をしてきたのは、スペンサーだった。けれどそれは、エルシーがスペンサーに好意を抱いていたことを確信していたからだった。つまりは、先に好きになったのは、エルシーの方だった。
お付き合いをはじめてからも、スペンサーは優しかった。紳士的で、エスコートも完璧。エルシーはますます、スペンサーに惹かれていった。
そんなスペンサーの、いわゆる裏の顔を知ってしまったのは、正式に婚約をしたあとのこと。
人気のない空き教室で、スペンサーが知らない女子生徒と口付けをしていた。それを目撃したエルシーは、スペンサーを問い詰めた。いや、問い詰めようとした。けれど、激怒したのは何故かスペンサーの方で。エルシーは髪をひっつかまれ、そのまま壁に投げつけられた。
涙を流し、恐怖に震えるエルシー。その姿に、正気を取り戻したかのように、スペンサーはエルシーを優しく抱き締めた。
「す、すまない……っ。ぼくは何てことを」
スペンサーは涙を流しながら、何度も何度も謝罪してきた。ぼくにはきみしかいない。どうか捨てないでくれ、と。エルシーはいつしか恐怖を忘れ、スペンサーを許していた。
それが悪かったのか。
スペンサーは、同じことを繰り返した。けれど謝罪は徐々になくなっていき、スペンサーは「そんなに嫌なら、別れる?」と、問いかけるようになってきた。
「他の女は遊びだよ。本当に愛しているのは、きみだけだ。それでも別れる?」
抱き締められ、耳元で囁かれる。ずきっ。殴られたお腹が痛み、エルシーが顔を歪める。
「……ああ、ごめんね。エルシー。痛むよね。だってきみが、ぼくの愛を信じてくれないから」
スペンサーがエルシーのお腹をそっと撫でる。
「愛しているよ、エルシー。こんなぼくを理解して、受け入れてくれるのは、きみだけだ。どうか、ぼくを捨てないで」
浮気をしたスペンサーに、怒るどころか逆に殴られて。でもそのあとは、とろけるぐらいに優しく、甘やかしてくれるスペンサー。人当たりはいいので、彼のまわりの評判は最高だ。きっと真実を打ち明けたところで、誰も信じてくれない。
(……そうか。本当の彼を受け止めてあげられるのは、わたししかいないんだ。わたしは、彼の特別なんだ)
いつしかエルシーは、そんな風に思うようになっていった。
お付き合いをはじめてからも、スペンサーは優しかった。紳士的で、エスコートも完璧。エルシーはますます、スペンサーに惹かれていった。
そんなスペンサーの、いわゆる裏の顔を知ってしまったのは、正式に婚約をしたあとのこと。
人気のない空き教室で、スペンサーが知らない女子生徒と口付けをしていた。それを目撃したエルシーは、スペンサーを問い詰めた。いや、問い詰めようとした。けれど、激怒したのは何故かスペンサーの方で。エルシーは髪をひっつかまれ、そのまま壁に投げつけられた。
涙を流し、恐怖に震えるエルシー。その姿に、正気を取り戻したかのように、スペンサーはエルシーを優しく抱き締めた。
「す、すまない……っ。ぼくは何てことを」
スペンサーは涙を流しながら、何度も何度も謝罪してきた。ぼくにはきみしかいない。どうか捨てないでくれ、と。エルシーはいつしか恐怖を忘れ、スペンサーを許していた。
それが悪かったのか。
スペンサーは、同じことを繰り返した。けれど謝罪は徐々になくなっていき、スペンサーは「そんなに嫌なら、別れる?」と、問いかけるようになってきた。
「他の女は遊びだよ。本当に愛しているのは、きみだけだ。それでも別れる?」
抱き締められ、耳元で囁かれる。ずきっ。殴られたお腹が痛み、エルシーが顔を歪める。
「……ああ、ごめんね。エルシー。痛むよね。だってきみが、ぼくの愛を信じてくれないから」
スペンサーがエルシーのお腹をそっと撫でる。
「愛しているよ、エルシー。こんなぼくを理解して、受け入れてくれるのは、きみだけだ。どうか、ぼくを捨てないで」
浮気をしたスペンサーに、怒るどころか逆に殴られて。でもそのあとは、とろけるぐらいに優しく、甘やかしてくれるスペンサー。人当たりはいいので、彼のまわりの評判は最高だ。きっと真実を打ち明けたところで、誰も信じてくれない。
(……そうか。本当の彼を受け止めてあげられるのは、わたししかいないんだ。わたしは、彼の特別なんだ)
いつしかエルシーは、そんな風に思うようになっていった。
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