11 / 22
11
しおりを挟む
「……ファネル伯爵に離縁なんて言えば、冗談ではすまなくなるよ?」
肩に担がれたままの格好で、それを気にする余裕がないように、ハワードがリネットに問いかける。
「冗談ではないとあなたに信じてもらうために行くの──わたしもすぐに行くから、馬車で待機していて」
ハワードから視線を移したリネットに、護衛の男が、はいと頷いた。
流石に。これはまずいのではと感じはじめたハワードは、従者の名を大声で呼んだ。
「……バリー!」
この屋敷で唯一、ファネル伯爵ではなく、ベイル子爵に雇われている、ハワードの従者だ。
「……なんでしょう」
低く問うバリーに、ハワードが声を荒げる。
「なにじゃない! そもそも、お前が守るべき主人がこんな目に合っているのに、どうして隅で突っ立ったままなんだ!」
「…………」
「おい! 早く助けろ!」
バリーはじっとハワードを見詰めてから、ゆっくりと足を動かした。遅いと文句を垂れるハワードを素通りし、リネットの前に跪いた。
「……おい、なんのまねだ」
愕然とするハワードを無視し、バリーは頭を垂れたまま、口を開いた。
「リネット様、お願いがあります。私を、この屋敷の者たちと同じく、ファネル伯爵に雇ってもらえるよう、お願いしてもらえませんか。代わりと言ってはなんですが、ハワードお坊ちゃまがこれまで不倫した相手の名前、居場所をすべてお教えいたします」
声をなくしたのは、もちろんハワードで。
「お、お前! 長年仕えてきたぼくを裏切るつもりか!」
怒りか絶望か。声を震わすハワードに、バリーが振り向く。
「もう何年も前から、あなたには愛想が尽きていたんです。リネット様がハワードお坊ちゃまと別れると決断されたときはこうしようと、ずっと決めておりました」
縄に縛られ、肩に担がれたままの体勢で、ハワードはぷるぷると震え出した。
「……お前のように簡単に主を裏切るようなやつ、誰が雇ったりするものか! なあ、リネット。そうだろ? 最低だな、あいつ!」
諸悪の根源が誰なのか忘れたように、ハワードはよりにもよって、リネットに縋った。
肩に担がれたままの格好で、それを気にする余裕がないように、ハワードがリネットに問いかける。
「冗談ではないとあなたに信じてもらうために行くの──わたしもすぐに行くから、馬車で待機していて」
ハワードから視線を移したリネットに、護衛の男が、はいと頷いた。
流石に。これはまずいのではと感じはじめたハワードは、従者の名を大声で呼んだ。
「……バリー!」
この屋敷で唯一、ファネル伯爵ではなく、ベイル子爵に雇われている、ハワードの従者だ。
「……なんでしょう」
低く問うバリーに、ハワードが声を荒げる。
「なにじゃない! そもそも、お前が守るべき主人がこんな目に合っているのに、どうして隅で突っ立ったままなんだ!」
「…………」
「おい! 早く助けろ!」
バリーはじっとハワードを見詰めてから、ゆっくりと足を動かした。遅いと文句を垂れるハワードを素通りし、リネットの前に跪いた。
「……おい、なんのまねだ」
愕然とするハワードを無視し、バリーは頭を垂れたまま、口を開いた。
「リネット様、お願いがあります。私を、この屋敷の者たちと同じく、ファネル伯爵に雇ってもらえるよう、お願いしてもらえませんか。代わりと言ってはなんですが、ハワードお坊ちゃまがこれまで不倫した相手の名前、居場所をすべてお教えいたします」
声をなくしたのは、もちろんハワードで。
「お、お前! 長年仕えてきたぼくを裏切るつもりか!」
怒りか絶望か。声を震わすハワードに、バリーが振り向く。
「もう何年も前から、あなたには愛想が尽きていたんです。リネット様がハワードお坊ちゃまと別れると決断されたときはこうしようと、ずっと決めておりました」
縄に縛られ、肩に担がれたままの体勢で、ハワードはぷるぷると震え出した。
「……お前のように簡単に主を裏切るようなやつ、誰が雇ったりするものか! なあ、リネット。そうだろ? 最低だな、あいつ!」
諸悪の根源が誰なのか忘れたように、ハワードはよりにもよって、リネットに縋った。
1,144
あなたにおすすめの小説
私の療養中に、婚約者と幼馴染が駆け落ちしました──。
Nao*
恋愛
素適な婚約者と近く結婚する私を病魔が襲った。
彼の為にも早く元気になろうと療養する私だったが、一通の手紙を残し彼と私の幼馴染が揃って姿を消してしまう。
どうやら私、彼と幼馴染に裏切られて居たようです──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。最終回の一部、改正してあります。)
言い訳は結構ですよ? 全て見ていましたから。
紗綺
恋愛
私の婚約者は別の女性を好いている。
学園内のこととはいえ、複数の男性を侍らす女性の取り巻きになるなんて名が泣いているわよ?
婚約は破棄します。これは両家でもう決まったことですから。
邪魔な婚約者をサクッと婚約破棄して、かねてから用意していた相手と婚約を結びます。
新しい婚約者は私にとって理想の相手。
私の邪魔をしないという点が素晴らしい。
でもべた惚れしてたとか聞いてないわ。
都合の良い相手でいいなんて……、おかしな人ね。
◆本編 5話
◆番外編 2話
番外編1話はちょっと暗めのお話です。
入学初日の婚約破棄~の原型はこんな感じでした。
もったいないのでこちらも投稿してしまいます。
また少し違う男装(?)令嬢を楽しんでもらえたら嬉しいです。
【完結】私が貴方の元を去ったわけ
なか
恋愛
「貴方を……愛しておりました」
国の英雄であるレイクス。
彼の妻––リディアは、そんな言葉を残して去っていく。
離婚届けと、別れを告げる書置きを残された中。
妻であった彼女が突然去っていった理由を……
レイクスは、大きな後悔と、恥ずべき自らの行為を知っていく事となる。
◇◇◇
プロローグ、エピローグを入れて全13話
完結まで執筆済みです。
久しぶりのショートショート。
懺悔をテーマに書いた作品です。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
【完結】潔く私を忘れてください旦那様
なか
恋愛
「子を産めないなんて思っていなかった
君を選んだ事が間違いだ」
子を産めない
お医者様に診断され、嘆き泣いていた私に彼がかけた最初の言葉を今でも忘れない
私を「愛している」と言った口で
別れを告げた
私を抱きしめた両手で
突き放した彼を忘れるはずがない……
1年の月日が経ち
ローズベル子爵家の屋敷で過ごしていた私の元へとやって来た来客
私と離縁したベンジャミン公爵が訪れ、開口一番に言ったのは
謝罪の言葉でも、後悔の言葉でもなかった。
「君ともう一度、復縁をしたいと思っている…引き受けてくれるよね?」
そんな事を言われて……私は思う
貴方に返す返事はただ一つだと。
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
【完結】貴方の傍に幸せがないのなら
なか
恋愛
「みすぼらしいな……」
戦地に向かった騎士でもある夫––ルーベル。
彼の帰りを待ち続けた私––ナディアだが、帰還した彼が発した言葉はその一言だった。
彼を支えるために、寝る間も惜しんで働き続けた三年。
望むままに支援金を送って、自らの生活さえ切り崩してでも支えてきたのは……また彼に会うためだったのに。
なのに、なのに貴方は……私を遠ざけるだけではなく。
妻帯者でありながら、この王国の姫と逢瀬を交わし、彼女を愛していた。
そこにはもう、私の居場所はない。
なら、それならば。
貴方の傍に幸せがないのなら、私の選択はただ一つだ。
◇◇◇◇◇◇
設定ゆるめです。
よろしければ、読んでくださると嬉しいです。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
白い結婚を終えて自由に生きてまいります
なか
恋愛
––アロルド、私は貴方が結婚初日に告げた言葉を今でも覚えている。
忘れもしない、あの時貴方は確かにこう言った。
「初めに言っておく、俺達の婚姻関係は白い結婚として……この関係は三年間のみとする」
「白い結婚ですか?」
「実は俺には……他に愛する女性がいる」
それは「公爵家の令嬢との問題」を理由に、三年間だけの白い結婚を強いるもの。
私の意思を無視して三家が取り決めたものであったが、私は冷静に合意を決めた
――それは自由を得るため、そして『私自身の秘密を隠すため』の計算でもあった。
ところが、三年の終わりが近づいたとき、アロルドは突然告白する。「この三年間で君しか見えなくなった。白い結婚の約束をなかったことにしてくれ」と。
「セシーリア、頼む……どうか、どうか白い結婚の合意を無かった事にしてくれ」
アロルド、貴方は何を言い出すの?
なにを言っているか、分かっているの?
「俺には君しかいないと、この三年間で分かったんだ」
私の答えは決まっていた。
受け入れられるはずがない。
自由のため、私の秘密を守るため、貴方の戯言に付き合う気はなかった。
◇◇◇
設定はゆるめです。
とても強い主人公が自由に暮らすお話となります。
もしよろしければ、読んでくださると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる