婚約者はわたしよりも、病弱で可憐な実の妹の方が大事なようです。

ふまさ

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 アビーとはじめて会ったのは、モーガンと交際してふた月ほど経ったころのこと。

 体調がすぐれないというアビーの自室を、モーガンに手を引かれながら訪れたリアは、寝台に座るアビーを一目見たとき、そのあまりの白さ、儚さ、可愛さに目を丸くした。まるでお人形のようだわ。思わず、頬を染めながらそう口に出していた。すると。

「……それは、私の表情が乏しいということでしょうか」

 アビーが両手で顔を覆い、泣き出した。リアはパニックになりながらも「ち、違うの。あまりに可愛くて、驚いて」と必死に言い訳をしながらモーガンに助けを求めたが、逆にモーガンにたしなめられてしまった。

「リア、すまない。妹は繊細だから、もう少し言葉を選んでくれないかな」

 怒気を含んだ声音に、リアは泣きそうになりながら謝罪した。怒りをあらわにしたモーガンははじめてで、リアはもう、どうしていいかわからなかった。

 とはいえ、学園にアビーはいない。身体が弱いアビーが自室から出てくることは滅多にないので、リアがアビーに会うことも滅多にない。アビーがいなければ、モーガンは自慢の恋人だ。だからこそリアは、どんどんモーガンを好きになっていった。無意識に、アビーのことは考えないようにしていたのかもしれない。だからこそ、モーガンにプロポーズされたときは、素直に嬉しかった。


「ご婚約、おめでとうございます。リア嬢」

 学園の廊下を歩いていると、ふいに後方から声をかけられた。振り返ると、モーガンの友である、公爵家の嫡男であるレナルドがにこやかに立っていた。

「ありがとうございます。レナルド様」

「いえ。それでその──あいつの妹とはもう会いましたか?」

 リアは面をあげ、思わずまじまじとレナルドを見た。

「……どういう、意味でしょう」

「ああ、いや。余計なお世話でした。わたしはこれで失礼します」

「待ってください! とても気になります!」

 はしたなくも、レナルドの服の裾をつかんではなそうとしないリアに、レナルドは観念したようにゆっくりと口を開いた。

「あいつはとてもいい奴なんだけど……唯一、妹のことにかんしてはまわりが見えなくなるというか」

「レナルド様は、アビーに会ったことがあるのですか?」

「数えるほどですけどね。なんというか、あの被害妄想には困ったと言いますか──あ、いえ。なんでもないです。いま言ったこと、くれぐれもあいつにはご内密に」

 焦ったように口元に人差し指をあてるレナルドがおかしくて、でもなんだかほっともしていたリアは、クスクスと笑ってしまった。

「ええ、もちろんです。妹のことを悪く言おうものなら、きっとモーガンは鬼のように激怒するでしょうからね」

 なんとなく口をついて出た科白に、レナルドは目を見張った。

「……やはり、嫌な思いをされたのですね」

「あっ……えっと。いえ、違います。わたしは、妹を大事に思うモーガンも、愛していますから」

「なら、良いですが……」

 本気で心配してくれている様子のレナルドに礼を述べ、リアはその場をあとにした。なんだか少しだけ、心が軽くなっている気がした。

(……アビーのあの態度は、わたしに対してだけではなかったのね)

 てっきり、兄を取られた嫉妬からくるものかと思っていたが、どうやらそうではないらしいこと。そして、アビーのあの困った性格を知っている人がいたことが、心を軽くしてくれた理由だろう。

「よし。頑張って、アビーに対する苦手意識を克服しないとね」

 いずれアビーも、この学園に入学してくるときがくるのだから。
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