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スカイシー始動
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その静かなざわめきが拡がるのに被せるように西川先生が言葉を繋いだ。
「今までみんな、スカイシーに入るのを目指して練習してきたと思うけど、今年からそれを少し変えようと思います」
そこまで言ってから少し間を置いて続ける。
「早瀬先生からのアドバイスなんだけど、スカイシーに今回一年生の高橋さんを入れたのは、時間がないことが一番大きな理由です」と言いながら、西川先生は生徒たちの顔を一人ずつ見ていった。生徒の一人が手を挙げた。
「時間がないってどういうことですか」
「ええとね、これまでスカイシーは3年生を中心にメンバーを構成してたでしょ? スカイシーに入ることを目標とするという意味を持つことも、部活としては良かったのかもしれないけど、それって音楽としてはどうなのかな」
生徒たちが意味を掴みかねて黙り込んでいた。
「音楽って一生もんじゃん? 違う?」
——ああ、確かに。
そんな顔をして生徒たちの何人かが頷いた。西川先生が続ける。
「これまで3年生になってから改めてスカイシーというバンドを組んでさ、最後の学園祭までの数ヶ月で発表曲を作ってたよね。でもさ、ほんと何曲か仕上げるだけで精一杯だったじゃない? 選抜して部で上手い人たちを集めてるはずなのになんでだろうってずっと思ってて。ね、早瀬先生」西川先生が圭太に目くばせをした。
「結論を先に言わせてもらうと、バンドを組んでから作品発表までこれまで時間がなさすぎたんだと思うんだよ」圭太が西川先生の後を継いで話し始めた。「僕らプロでさえこんな短い期間で何曲もの音楽を仕上げられないって。もともと演奏してた曲ならいざ知らずな。西川先生からスカイシーのレベルアップを相談された時真っ先にそう思った」
「それと今回圭ちゃんを抜擢したことって関係あるってことですか」さっきの生徒がまた手を上げて言った。2年生のボーカルの子——高田瑞希——だった。西川先生の話では、次の学年の中心メンバーになると思われる生徒だ。この子は多分、自分だけでなく周りからもスカイシーの次のボーカルではと言われていたと圭太は聞いていた。
「それで瑞希には大事な頼みがある」瑞希の質問には正面からは答えず、圭太はあえてフランクに名前で彼女を呼んだ。——高田瑞希としては、実力云々は関係なしに、今年学園に入ったばかりの1年生にボーカルの座を奪われた形となっている。少しモヤモヤとした気分にもなるのは圭太も理解できた。
「頼み、ですか?」
「うん。君には2年生のうちに、瑞希を中心にした新しいバンドを組んでもらいたい。人選は2年生以下から瑞希が選んでもらっていいんだ。バンドの名前はメンバーで決めてもらって結構だよ」
「私を中心にした、バンドですか」
「そうだよ。The Sky And Seaのライバルとなれるバンドを作って欲しいんだ。瑞希にならできると思ってさ」ごくりと瑞希が唾を飲み込んだのがわかった。
「みんな聞いて欲しい。これまでスカイシーは3年になってから選抜したバンドだったんだけど、これからは1年で基礎練習をして、スカイシーと今から作るバンドを2年に上る時点で毎年交互に選抜する。つまり、バンドの完成までの時間を作りたいんだ」そう言って一回圭太は生徒たちを見回した。「最終的な仕上げはもちろん3年の学園祭のライブなんだけど、今まで通りだとバンドの音楽を仕上げる時間が少なすぎるんだ」
「じゃあ、今年のスカイシーは……」瑞希が恐る恐る口にした。
「プロとして言わせてもらうと、圭のボーカルはほとんど完成しているんだよ、マジで。今の3年生中心のスカイシーはバンドとして時間が足りなくて今から実力を発揮するのはなかなか難しいけど、圭のボーカルがあればもう一段上のレベルに引き上げてくれると思う。それに——」ちょっと鼻を擦る。「来年は圭は部活どころじゃないから」
ざわついた。「どういうこと」という話し声が聞こえる。
「大っぴらにはまだ言わないで欲しいんだけど、圭は来年からはプロデビューに向けて本格的に活動しなきゃいけないから、部活でみんなと音楽ができるのは今年だけなんだ」
今度は一斉に生徒たちの嬌声が上がった。「プロデビュー」という言葉に反応しているらしい。ざわめきが止まらなくなった。
——パンパン!
西川先生が手を打った。途端に静かになる。
「大事なのはスカイシーに入ることじゃなく、まず音楽を楽しむことでしょ。そのためにどうしたらいいか早瀬先生にアドバイスをもらって、キャプテンたち3年生と話した結果、これが一番ベストと思ったんだよね。高田さん、どうかな。やってくれる? 次世代のバンド」
「は、はい。やります。やらせてもらいます」
「ありがとう。来年の学園祭を楽しみにしてるよ」西川先生にそう言われて高田瑞希が頬を真っ赤にしていう。「じゃあ、今年のスカイシーはどんな音楽をやるか決めてるんですか」
「時間がないけど1曲でもたくさんやりたいから今年は音楽への原点回帰。シンプルなコード進行でできる60年代から70年代のストレートなR&Bとロックを中心とする予定だ。高橋圭のボーカルで観客を驚かせて見せるよ」
そう言って圭太がニヤリと笑ったのだった。
「今までみんな、スカイシーに入るのを目指して練習してきたと思うけど、今年からそれを少し変えようと思います」
そこまで言ってから少し間を置いて続ける。
「早瀬先生からのアドバイスなんだけど、スカイシーに今回一年生の高橋さんを入れたのは、時間がないことが一番大きな理由です」と言いながら、西川先生は生徒たちの顔を一人ずつ見ていった。生徒の一人が手を挙げた。
「時間がないってどういうことですか」
「ええとね、これまでスカイシーは3年生を中心にメンバーを構成してたでしょ? スカイシーに入ることを目標とするという意味を持つことも、部活としては良かったのかもしれないけど、それって音楽としてはどうなのかな」
生徒たちが意味を掴みかねて黙り込んでいた。
「音楽って一生もんじゃん? 違う?」
——ああ、確かに。
そんな顔をして生徒たちの何人かが頷いた。西川先生が続ける。
「これまで3年生になってから改めてスカイシーというバンドを組んでさ、最後の学園祭までの数ヶ月で発表曲を作ってたよね。でもさ、ほんと何曲か仕上げるだけで精一杯だったじゃない? 選抜して部で上手い人たちを集めてるはずなのになんでだろうってずっと思ってて。ね、早瀬先生」西川先生が圭太に目くばせをした。
「結論を先に言わせてもらうと、バンドを組んでから作品発表までこれまで時間がなさすぎたんだと思うんだよ」圭太が西川先生の後を継いで話し始めた。「僕らプロでさえこんな短い期間で何曲もの音楽を仕上げられないって。もともと演奏してた曲ならいざ知らずな。西川先生からスカイシーのレベルアップを相談された時真っ先にそう思った」
「それと今回圭ちゃんを抜擢したことって関係あるってことですか」さっきの生徒がまた手を上げて言った。2年生のボーカルの子——高田瑞希——だった。西川先生の話では、次の学年の中心メンバーになると思われる生徒だ。この子は多分、自分だけでなく周りからもスカイシーの次のボーカルではと言われていたと圭太は聞いていた。
「それで瑞希には大事な頼みがある」瑞希の質問には正面からは答えず、圭太はあえてフランクに名前で彼女を呼んだ。——高田瑞希としては、実力云々は関係なしに、今年学園に入ったばかりの1年生にボーカルの座を奪われた形となっている。少しモヤモヤとした気分にもなるのは圭太も理解できた。
「頼み、ですか?」
「うん。君には2年生のうちに、瑞希を中心にした新しいバンドを組んでもらいたい。人選は2年生以下から瑞希が選んでもらっていいんだ。バンドの名前はメンバーで決めてもらって結構だよ」
「私を中心にした、バンドですか」
「そうだよ。The Sky And Seaのライバルとなれるバンドを作って欲しいんだ。瑞希にならできると思ってさ」ごくりと瑞希が唾を飲み込んだのがわかった。
「みんな聞いて欲しい。これまでスカイシーは3年になってから選抜したバンドだったんだけど、これからは1年で基礎練習をして、スカイシーと今から作るバンドを2年に上る時点で毎年交互に選抜する。つまり、バンドの完成までの時間を作りたいんだ」そう言って一回圭太は生徒たちを見回した。「最終的な仕上げはもちろん3年の学園祭のライブなんだけど、今まで通りだとバンドの音楽を仕上げる時間が少なすぎるんだ」
「じゃあ、今年のスカイシーは……」瑞希が恐る恐る口にした。
「プロとして言わせてもらうと、圭のボーカルはほとんど完成しているんだよ、マジで。今の3年生中心のスカイシーはバンドとして時間が足りなくて今から実力を発揮するのはなかなか難しいけど、圭のボーカルがあればもう一段上のレベルに引き上げてくれると思う。それに——」ちょっと鼻を擦る。「来年は圭は部活どころじゃないから」
ざわついた。「どういうこと」という話し声が聞こえる。
「大っぴらにはまだ言わないで欲しいんだけど、圭は来年からはプロデビューに向けて本格的に活動しなきゃいけないから、部活でみんなと音楽ができるのは今年だけなんだ」
今度は一斉に生徒たちの嬌声が上がった。「プロデビュー」という言葉に反応しているらしい。ざわめきが止まらなくなった。
——パンパン!
西川先生が手を打った。途端に静かになる。
「大事なのはスカイシーに入ることじゃなく、まず音楽を楽しむことでしょ。そのためにどうしたらいいか早瀬先生にアドバイスをもらって、キャプテンたち3年生と話した結果、これが一番ベストと思ったんだよね。高田さん、どうかな。やってくれる? 次世代のバンド」
「は、はい。やります。やらせてもらいます」
「ありがとう。来年の学園祭を楽しみにしてるよ」西川先生にそう言われて高田瑞希が頬を真っ赤にしていう。「じゃあ、今年のスカイシーはどんな音楽をやるか決めてるんですか」
「時間がないけど1曲でもたくさんやりたいから今年は音楽への原点回帰。シンプルなコード進行でできる60年代から70年代のストレートなR&Bとロックを中心とする予定だ。高橋圭のボーカルで観客を驚かせて見せるよ」
そう言って圭太がニヤリと笑ったのだった。
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