あやかしが家族になりました

山いい奈

文字の大きさ
11 / 45
1章 電撃結婚の真実

第11話 予想範囲内ではあるものの

しおりを挟む
 あやかしには人間世界で仕事をしている人も多く、その中には大工さんもたくさんいて、真琴まこと雅玖がくと子どもたちのお店兼住居を、急ピッチで建ててくれると言う。

 着工から完成まで早くとも半年ほどが掛かるものらしいのだが、3ヶ月で建てると気合いを入れてくれていた。

 人間が家を建てるとなると、当然夕方から朝方まで建築工事が止まる。だがあやかしたちは妖力を使い、近隣の迷惑にならない様に、3交代で24時間稼働すると言うのだ。

 妖力。これまで雅玖や子どもたちを始め、まるで人間を相手にしている様なやりとりばかりだったから、うっかり忘れがちになってしまうが、彼らはあやかしなのだ。人間の想像の及ばない力をようしていても、おかしく無いのである。

 雅玖が用意した土地は、あびこ駅からほど近い空き地だった。飲食店を開くには充分な立地である。

 あびこは下町とはいえ大阪市内だし、利便性が高く人気のある大阪メトロ御堂筋線が通っている。地価はそれなりにしたはずだ。あらためて雅玖の財力には度肝を抜かされる。

 それに加えて上物うわものは3階建てである。地震大国日本なのだから、耐震構造をこれでもかと取り入れた頑丈な建て方だ。予定しているインテリアも新たに入れる家具なども、真琴の価値観よりもぐっと贅沢なものである。雅玖の頭の中に節約という文字は無いのだろうか。

 エクステリアが完成すると、真琴もヘルメットを被って1階の店舗部分に立ち入り、真琴のラフを元に描かれた設計図を確認しながら、理想のお店を作って行く。

 使う壁紙や置く家具、食器に厨房設備など、上を見ればきりが無い。なので真琴は真琴の納得できる価格と天秤に掛け、慎重に選んで行った。

「お金のことは気にせず、真琴さんの思った通りのお店を作ってくださいね」

 雅玖はそう言ってくれるが、いくらなんでもそこまで厚かましくはなれない。これでも真琴はれっきとした庶民なのである。遠慮の心だって持ち合わせている。いくら旦那さまである雅玖が裕福だと言っても、真琴には真琴の身の丈に合ったものがあるのだ。

 それでもこだわりながら作って行くお店は、真琴の大事な空間になろうとしていた。



 母親への結婚の報告は、それはもう修羅場になった。

 雅玖の年齢を30歳とし、5人の子どもたちは雅玖の連れ子だという設定にすることになっていた。

 そして苗字が偶然同じ浮田だったことにした。あやかしには苗字が無いので、雅玖にも無い。人間世界で働くあやかしたちは好きな苗字を付けているそうである。好きなキャラクターから付けたりするそうだ。

 結婚そのものは、母親は大歓迎だった。一緒に実家に行った雅玖を見た母親は、ほとんどの女性がそうなるのと同様に、その美貌に呆然し、次にはご機嫌になった。

 しかし5人の連れ子がいること、自分たちの子どもは望んでいないこと、結婚式はせずにウェディングフォトだけを撮ること、割烹は辞めるが飲食店経営を始めることを言うと、それはもうヒステリックに大反対されたのだ。

 父親は口うるさい母親の陰に隠れてまるで空気の様な存在だが、真琴がまともに話せるのはこの父親の方である。

「真琴がええ様にしたらええよ。真琴が納得して、幸せになってくれたらええ」

 父親は優しく、嬉しそうにそう言ってくれたのだが。

 母親は、子連れの男性と結婚なんてありえない、自分の子を産まないなんてありえない、結婚式をしないなんてありえない、結婚するのに仕事を続けるなんてありえない、と、ありえない尽くしになってしまったのである。

 もう半ば錯乱である。自分の娘が自分の理想、価値観と真逆を行こうとしているのだから。

 分かってもらえたら嬉しいとは思ってはいた。だが同時に期待はしていなかった。視野が狭く考えが凝り固まっている母親を懐柔するのは、並大抵のことでは無理だと、娘だからこそ分かっていた。

 だから真琴は理解してもらおうとは思わなかった。それでも報告をする義務はある。娘なのだから。

 同時に母親にとっては親不孝なのだろうとも思っていた。血が繋がった孫を抱かせてあげられないことも。それは確かに胸が痛む。

 だが、これは真琴の人生なのである。母親の言いなりになって後悔したく無い。自分が選択したことで失敗するのなら、まだ諦めも付く。だが母親の言う通りにして納得できない人生になったら、真琴はきっと母親を恨んでしまう。

 母親の言う通りにすることだって、それは自身が決めたことではあるのだが、そうした他力本願な人間が、自分の責任を取れることは無いだろうから。

「じゃ、そういうことやから。雅玖、行きましょか」

「でも」

 雅玖はこのままで良いのか迷っているのか、真琴を見る目に戸惑いが見える。だが今は仕方が無いのだ。

「ええんです。お父さん、ごめん、あと頼むな」

「うん。真琴、幸せになるんやで。雅玖さん、真琴をよろしくお願いします」

「は、はい」

 父親に穏やかに言われた雅玖は気を引き締める様に返事をする。その斜め前で母親は父親にその肩を抑え付けられていた。

「真琴、待ちぃ! 話はまだ終わってへんで!」

 母親は金切り声をあげるが、真琴は構わず雅玖を引っ張って実家を出た。

「良いのですか? 真琴さん」

「ええんです。ああなったらほとぼりが冷めるまで放置です」

 しかし雅玖は母親に反対されたことがショックだったらしく、大いに沈んでしまった。

「大丈夫ですよ、雅玖。うちのおかんに関しては、私を心配してるんでしょうけど、結局自分の思い通りにしようとしてるだけですから」

 我が親ながら、扱いの難しい人である。あまり雅玖を巻き込みたくは無かったので、状況によってはこれからもできるだけ会わさない様にしようと思う。真琴が窓口に、サンドバックになれば良いだけである。

「人間さまには、様々な親子の形があるのですね」

 雅玖は自分をそう納得させた様だ。真琴としては、父親に分かってもらえたらそれで良かった。母親の反応は結局なところ、予想範囲内なのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

秋月の鬼

凪子
キャラ文芸
時は昔。吉野の国の寒村に生まれ育った少女・常盤(ときわ)は、主都・白鴎(はくおう)を目指して旅立つ。領主秋月家では、当主である京次郎が正室を娶るため、国中の娘から身分を問わず花嫁候補を募っていた。 安曇城へたどりついた常盤は、美貌の花魁・夕霧や、高貴な姫君・容花、おきゃんな町娘・春日、おしとやかな令嬢・清子らと出会う。 境遇も立場もさまざまな彼女らは候補者として大部屋に集められ、その日から当主の嫁選びと称する試練が始まった。 ところが、その試練は死者が出るほど苛酷なものだった……。 常盤は試練を乗り越え、領主の正妻の座を掴みとれるのか?

とくら食堂、朝とお昼のおもてなし

山いい奈
キャラ文芸
25歳の都倉碧は、両親と一緒に朝昼ごはんのお店「とくら食堂」を営んでいる。 やがては跡を継ぐつもりで励んでいた。 そんな碧は将来、一緒に「とくら食堂」を動かしてくれるパートナーを探していた。 結婚相談所に登録したり、紹介してもらったりしながら、様々な男性と会うのだが? 前職でのトラブルや、おかしなお見合い相手も乗り越えて。 25歳がターニングポイントになるのか。碧の奮闘記です。

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」  クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。  だが、みんなは彼と楽しそうに話している。  いや、この人、誰なんですか――っ!?  スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。 「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」 「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」 「同窓会なのに……?」

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

異世界転移した私と極光竜(オーロラドラゴン)の秘宝

饕餮
恋愛
その日、体調を崩して会社を早退した私は、病院から帰ってくると自宅マンションで父と兄に遭遇した。 話があるというので中へと通し、彼らの話を聞いていた時だった。建物が揺れ、室内が突然光ったのだ。 混乱しているうちに身体が浮かびあがり、気づいたときには森の中にいて……。 そこで出会った人たちに保護されたけれど、彼が大事にしていた髪飾りが飛んできて私の髪にくっつくとなぜかそれが溶けて髪の色が変わっちゃったからさあ大変! どうなっちゃうの?! 異世界トリップしたヒロインと彼女を拾ったヒーローの恋愛と、彼女の父と兄との家族再生のお話。 ★掲載しているファンアートは黒杉くろん様からいただいたもので、くろんさんの許可を得て掲載しています。 ★サブタイトルの後ろに★がついているものは、いただいたファンアートをページの最後に載せています。 ★カクヨム、ツギクルにも掲載しています。

視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―

島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。

隠された第四皇女

山田ランチ
恋愛
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

処理中です...