あやかしが家族になりました

山いい奈

文字の大きさ
10 / 45
1章 電撃結婚の真実

第10話 子どもたちの名前

しおりを挟む
 呆然と子どもたちを見てしまう真琴まことに、雅玖がくが心配げに問い掛ける。

「真琴さんは、子どもは苦手でしょうか?」

 いや、苦手も何も、そういう問題では無いのだが。

「あまり触れ合う機会が無くて。特に好きでも嫌いでも無いです。意識したこと無いというか」

 真琴はひとりっ子で兄弟姉妹はいないし、数少ない親戚にもまだ小さな子はいない。勤めている割烹でも子どものお客はいないので、関わることがほとんど無いのだ。

 なので苦手かどうかと問われれば、正直分からないのである。

「それよりも、このお子さんたちを私らの子どもにって、どういうことなんですか?」

「はい。実はこの子たちは、それぞれ種族の違うあやかしの子たちでして。私は先日もお伝えした通り白狐びゃっこなのですが、この子たちはそれぞれ狼、妖狐ようこ、鬼、天狗、猫又なのです。これから人間世界に溶け込むために、できることなら私たちに預けたいということなのです」

 真琴は子どもたちを見る。不安げな様子の子、期待に満ちている子、冷静な子、様々だ。

 雅玖と生活をすることには不思議とあまり不安は無かったが、子どもたちとなるとどうだろうか。真琴に子育てなんてそんな重大責任、果たせるのだろうか。しかも5人である。

「この子たちは、これまでもきちんと育てられていて、とても聞き分けの良い子たちです。あ、いえ、あまり良い言い方では無いですね。とても、本当にとても良い子たちなのですよ。私もこれまでたくさん関わって来ました」

 確かに今もおとなしくじっとしている。表情こそ移り変わって感情の起伏が見えるが、幼いながらに自制心が働く様である。これは凄いことでは無いだろうか。お利口なのは間違いが無さそうだ。

「例えば、私が嫌だと行ったらどうなりますか?」

「この子たちはこれまでの生活が続くことになります。ですが私もこの子たちの親の様な側面がありますので、時折会いに行くか、家に来てもらうことになるのですが」

「あ、結局私がこの子らと関わるんは、避けられんところもあるんですね」

「はい。申し訳無いのですが」

 そう言いながら、まるで悪びれる様子は無い。物腰低く穏やかにぐいぐい来る。ああ、こうして結局は雅玖の良い様になるのだな、と感じた。

 思えば先週だってそうだった。最終的には自分で選んだこととは言え、言いくるめられた感が今更になって沸いて来る。だが真琴に反故ほごにする選択肢は無い。それは筋が通らないからだ。

「子育ては基本私がします。できる限り真琴さんのご負担にはならない様にしたいと思っています。ですので、どうかご検討ください」

 雅玖は言うと、深く深く頭を下げた。そして、子どもたちもそれにならう。まるで畳に額を擦り付けるかの様に。

「頭を上げてください」

 真琴が慌てて言うが、雅玖も子どもたちも微動だにしない。

 真琴は人非人にんぴにんでは無い。少なくともその自覚はある。ここまでされてしまって、嫌です、なんて言えるわけも無い。

 いきなり5人の子どもと暮らすなんて、不安が無いわけでは無い。だが子どもたちは雅玖の言う通り良い子たちの様だし、ここで断ってしまうと、後々の生活に響く様な気がした。

 良いところを見れば、乳幼児や幼児期の大変そうな時期を過ぎているのだから、楽ができる、というのもおかしいが、意思の疎通ができそうなだけ、関わりやすいかも知れない。

「分かりました。お子さんたちも一緒に暮らしましょう」

 真琴の言葉に、雅玖と子どもたちが同時にがばっと頭を上げた。その表情は揃って喜びに溢れている。

「ありがとうございます、真琴さん!」

 雅玖の声から安堵が伝わって来た。ことがことなので、雅玖も不安だったのだろう。それもそうだ。いきなり5人の子持ちになれと言われて、簡単に首を縦に振る人はきっとそういない。

 雅玖たちあやかしにはあやかしなりの事情があるのだろう。その全てをむことは難しいが、真琴はお店を持たせてもらうこともあるので、できる限り希望には沿って行けたらと思っている。

「ありがとうございます!」

 お子さんたち、子どもたちもこぞって声を上げた。その表情から大きな喜びが伝わる。ちょっと可愛いな、そんなことを思うこともできた。ふわりと頬が緩んでしまう。

「私に親らしいことがどれだけできるか分からへんけど、できることはしようと思ってるから、どうぞよろしくね」

 真琴ができるだけ優しい声色で言うと、子どもたちも「よろしくお願いします!」と元気に返してくれた。

「真琴さん、実はこの子たちにはまだ正式な名前が無いのです。なので、真琴さんと私で考えてあげませんか?」

「名前ですか」

 子どもたちを見ると、皆期待に満ちた表情になっている。楽しみにしてくれているのだろうか。それに名前が無いのでは呼ぶことすら大変だ。

「ええですよ。どんな名前がええでしょうねぇ」

「この子たちは見た目の年齢が同じぐらいなので、5つ子として育てようと思っているのです。それにちなんだものにできたらと思っているのですが」

「順番は決まってるんですか?」

「はい。生まれが早い順で、向かって右から1番上、左の子がいちばん下です」

 いちばん上から男の子、女の子、次も女の子、そして男の子がふたり続く。真琴は傍らに置いたショルダーバッグからメモ帳とボールペンを取り出した。

 縦方向に漢数字を書き、それに合いそうな感じをいくつか組み合わせて行って。

「雅玖、こんな感じでどうですか?」

 雅玖は真琴が清書したページを見て、ほっと表情を和らげた。

「あ、良いですね。さすが真琴さんです」

「子どもたちに気に入ってもらえるとええんですけど」

「大丈夫です。人間さま、真琴さんが付けてくれた名前は、この子たちの宝物になります」

 雅玖は微笑んで、メモ帳を手に子どもたちに向き直った。

「子どもたち、真琴さんが素敵な名前を考えてくれましたよ」

 すると子どもたちは「わぁっ」と盛り上がる。

「いちばん上から、壱斗いちと弐那にな三鶴みつる四音しおん景五けいご。どうですか?」

 雅玖が問うと、壱斗と名付けた男の子が頬を紅潮させる。

「雅玖さま、オレの名前、壱斗……?」

「そうですよ、壱斗」

 雅玖がにっこりと笑うと、壱斗は「やったー!」とはしゃいで拳を上げた。

 弐那は「弐那、弐那、弐那、」と小さく呟きながら、その名を噛み締めている様である。表情が綻んでいる。三鶴も静かながらも口角がやんわりと上がっていた。

 四音は「僕、四音かぁ~、嬉しいなぁ~」と柔らかく目尻を下げ、景五は不機嫌な様に見えるが、その目がかすかに赤くなって潤んでいた。

 どうやら喜んでもらえた様だ。名付けなんて初めてだったから緊張したが、良かった。真琴は胸を撫で下ろした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」  クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。  だが、みんなは彼と楽しそうに話している。  いや、この人、誰なんですか――っ!?  スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。 「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」 「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」 「同窓会なのに……?」

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

壊れていく音を聞きながら

夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。 妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪 何気ない日常のひと幕が、 思いもよらない“ひび”を生んでいく。 母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。 誰も気づきがないまま、 家族のかたちが静かに崩れていく――。 壊れていく音を聞きながら、 それでも誰かを思うことはできるのか。

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

異世界に行った、そのあとで。

神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。 ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。 当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。 おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。 いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。 『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』 そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。 そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

助けた騎士団になつかれました。

藤 実花
恋愛
冥府を支配する国、アルハガウンの王女シルベーヌは、地上の大国ラシュカとの約束で王の妃になるためにやって来た。 しかし、シルベーヌを見た王は、彼女を『醜女』と呼び、結婚を保留して古い離宮へ行けと言う。 一方ある事情を抱えたシルベーヌは、鮮やかで美しい地上に残りたいと思う願いのため、異議を唱えず離宮へと旅立つが……。 ☆本編完結しました。ありがとうございました!☆ 番外編①~2020.03.11 終了

処理中です...