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3章 初めての家族旅行?
第2話 確実なものにするために
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「早よ! 早よスカウトされに行きたい!」
東京駅に着いた途端、壱斗は興奮して主張する。今回の家族旅行を東京に決めたのは、壱斗の夢のひとつを叶えるという側面もあるので、もちろん行く予定である。
しかし新幹線移動のあとで、真琴は少し疲れていた。
「その前に少し休憩させて。どっかでお茶飲んで、一息吐きたいわ」
真琴が言うと、壱斗は「えー!?」と唇を尖らす。
「壱斗、真琴さんは普通の人間さまなのですから、私たちより疲れやすいのです。人間さまの世界で暮らすにあたり、そういうことも覚えていかなければなりませんね」
雅玖が優しく諭すと、壱斗は思い当たることがあった様で、はっと目を開いた。
「……そいえば、同じクラスの友だちも疲れやすかったわ」
どうやらあやかしは、人間よりも体力がある様だ。一緒に運動などをする様な機会も無かったので気付かなかったのだ。
壱斗などは休み時間に外に飛び出して遊ぶタイプだろうから、一緒のお友だちは大変なのかも知れない。
「正確に言うと、人間さまが疲れやすいというよりは、私たちが頑丈なのです。なので壱斗、弐那と三鶴と四音と景五も、人間さまの同級生と遊ぶ時は気を付けましょうね」
「はーい」
壱斗と弐那、四音と景五はそれぞれ返事をする。そして三鶴は。
「分かっとるわ、そんなん。いまさらやで、お父ちゃん」
すかした調子でそんな大人びたことを言うのだった。真琴はつい微笑ましくなってしまった。
そして真琴たちは、東京駅構内のカフェに入る。全国にあるチェーン店なのだが、東京にあるだけで内装がおしゃれに感じてしまうのだから、不思議なものだ。
総勢8人、テーブルをくっ付けて腰を降ろす。李里さんは雅玖の横に座れてご機嫌である。いろんな意味で大丈夫かこの人、と真琴は思ったりするのだが。まぁ何も言うまい。
「では、壱斗はスカウトのために、別行動になりますね。壱斗とは私が一緒に行きますね」
「あ、じゃあ僕も」
李里さんがそう言って手を挙げたが、雅玖は「いえ、李里は」と止めた。
「弐那と三鶴が都立の中央図書館に行きたがっています。そちらに付き添って欲しいのです」
「あ、はい……」
李里さんはあきらかにがっかりした様子である。弐那と三鶴に失礼では無いかと思ったのだが、李里さんの雅玖への執着は誰もが知るところなので、ふたりともまるで気にしていない様だ。
都立中央図書館は、日本最大級の蔵書を誇る公立図書館である。三鶴などは国立国会図書館に行きたがったのだが、入館条件である年齢制限に引っかかってしまうのだ。なので残念だが諦めるしか無かった。
真琴は四音と景五を連れて、東京で人気の和カフェを巡るつもりでいた。「まこ庵」のメニューや盛り付けの参考になるだろう。
「……ん?」
何か引っかかりを感じて、真琴は首を傾げた。それが何なのか、必死で手繰りよせようとする。
「真琴さん、どうしました?」
「いや、ちょっと」
旅行の前、皆でスケジュールを組んだのだが、その時にも感じた違和感だ。
壱斗はタブレットで、スカウトのされやすさについて調べていた。まず子どもの場合、親が一緒だと声が掛けられやすいとのことなのだ。契約のことなど、直接親と話せた方が早いかららしい。なので雅玖が一緒に行くということになったのだが。
真琴は雅玖を見る。基本和装の雅玖だが、今回は目立つからと言う理由で洋装、一般的な服を着てもらっていた。シンプルに濃紺のシャツにブルージーンズである。そう、「目立つから」。
「……あー!」
真琴は思わず声を上げてしまう。そしてここが外のカフェだと気付いて慌てて口を押さえた。
「どうしました? 真琴さん」
雅玖も子どもたちも面食らっている。李里さんは忌々しそうに顔をしかめていた。この人はどれだけ真琴を鬱陶しいと思っているのだか。
「あかんわ。壱斗のスカウトのためやのに、雅玖が一緒やったら雅玖が目立ってまう」
「そうでしょうか。壱斗は格好良くて可愛いですよ? 壱斗の方が目立つに決まっているでは無いですか」
雅玖はきょとんと首を傾げる。そりゃあ親の目線から見たらそうだ。だが。
「いや。確かに壱斗も目立つんやけど、雅玖、あんたはもっと自分の容姿の良さを自覚せなあかん。絶対にあんたの方が目立ってまう」
「そうでしょうか」
雅玖は納得がいっていない様だし、李里さんには「雅玖さまになんてことを!」なんて言われてしまうが、壱斗を見ると、愕然とした様子で目を丸くしていた。
「そりゃそうやわ。ちびっこいオレより、お父ちゃんの方が目立つに決まってるやん」
「身長のことですか? そればかりはどうしようも」
雅玖が慌てて言うが、壱斗はかすかに震える声で「ちゃうねん」と被せた。
「お父ちゃんは、顔そのものが目立つねん。オレなんか埋もれてまうわ。うわぁ、どうしよう」
壱斗は頭を抱えてしまい、雅玖はおろおろとしてしまう。何を言っているのだ。解決方法なんて簡単ではないか。
「私が壱斗と一緒に行くわ」
真琴が言うと「え?」と皆の声が揃う。
「私やったら顔も10人並みやし、確実に壱斗を見てもらえるやろ。身長云々はしゃあない。それは大人と子どもの違いやから」
「真琴さんが10人並みだなんて。私は真琴さんは充分お綺麗だと」
「今はそんなんいらんねん。とにかく、雅玖が一緒やと雅玖がスカウトされかねん。それか雅玖に目を付けて、でも子ども連れやから避けられるかのどっちかや。でも私やったらその心配は無いと思う」
保護者同伴という前提なら、他に方法は無い。壱斗も「そやな」と頷いた。
「オレもお母ちゃまは綺麗やと思うけど、お父ちゃんに比べたら大丈夫な気がする。ほなお母ちゃま、オレと一緒に行ってくれる?」
「うん、もちろん。四音、景五」
ふたりを見ると、残念そうな顔で項垂れている。真琴と和カフェ巡りをすることを楽しみにしてくれていたのだ。
「和カフェは雅玖と行って欲しいねん。私の代わりに写真とか、味の感想とか、あとで教えて欲しいんよ。お願いしてええ?」
真琴が優しく言うと、四音と景五はゆっくりと顔を上げる。
「僕らがママちゃまの代わりに?」
「そうや。ふたりやったらちゃんとやってくれるって信用してるから。楽しみにしてる」
「……うん!」
「うん」
ふたりは機嫌を直してくれ、力強く頷いた。
さて、カフェを出たら行動開始である。予約している新宿のホテルのチェックイン時間はまだだが、宿泊客の荷物を預かってくれるサービスがあるというので、まずはホテルに行くために在来線のホームに向かう。
荷物は大人3人が引くスーツケースがひとつづつ。そこに子どもたちの荷物もまとめて入れてあるのだ。そこそこ重さもあるので、置いていけるのならありがたいのだった。
東京駅に着いた途端、壱斗は興奮して主張する。今回の家族旅行を東京に決めたのは、壱斗の夢のひとつを叶えるという側面もあるので、もちろん行く予定である。
しかし新幹線移動のあとで、真琴は少し疲れていた。
「その前に少し休憩させて。どっかでお茶飲んで、一息吐きたいわ」
真琴が言うと、壱斗は「えー!?」と唇を尖らす。
「壱斗、真琴さんは普通の人間さまなのですから、私たちより疲れやすいのです。人間さまの世界で暮らすにあたり、そういうことも覚えていかなければなりませんね」
雅玖が優しく諭すと、壱斗は思い当たることがあった様で、はっと目を開いた。
「……そいえば、同じクラスの友だちも疲れやすかったわ」
どうやらあやかしは、人間よりも体力がある様だ。一緒に運動などをする様な機会も無かったので気付かなかったのだ。
壱斗などは休み時間に外に飛び出して遊ぶタイプだろうから、一緒のお友だちは大変なのかも知れない。
「正確に言うと、人間さまが疲れやすいというよりは、私たちが頑丈なのです。なので壱斗、弐那と三鶴と四音と景五も、人間さまの同級生と遊ぶ時は気を付けましょうね」
「はーい」
壱斗と弐那、四音と景五はそれぞれ返事をする。そして三鶴は。
「分かっとるわ、そんなん。いまさらやで、お父ちゃん」
すかした調子でそんな大人びたことを言うのだった。真琴はつい微笑ましくなってしまった。
そして真琴たちは、東京駅構内のカフェに入る。全国にあるチェーン店なのだが、東京にあるだけで内装がおしゃれに感じてしまうのだから、不思議なものだ。
総勢8人、テーブルをくっ付けて腰を降ろす。李里さんは雅玖の横に座れてご機嫌である。いろんな意味で大丈夫かこの人、と真琴は思ったりするのだが。まぁ何も言うまい。
「では、壱斗はスカウトのために、別行動になりますね。壱斗とは私が一緒に行きますね」
「あ、じゃあ僕も」
李里さんがそう言って手を挙げたが、雅玖は「いえ、李里は」と止めた。
「弐那と三鶴が都立の中央図書館に行きたがっています。そちらに付き添って欲しいのです」
「あ、はい……」
李里さんはあきらかにがっかりした様子である。弐那と三鶴に失礼では無いかと思ったのだが、李里さんの雅玖への執着は誰もが知るところなので、ふたりともまるで気にしていない様だ。
都立中央図書館は、日本最大級の蔵書を誇る公立図書館である。三鶴などは国立国会図書館に行きたがったのだが、入館条件である年齢制限に引っかかってしまうのだ。なので残念だが諦めるしか無かった。
真琴は四音と景五を連れて、東京で人気の和カフェを巡るつもりでいた。「まこ庵」のメニューや盛り付けの参考になるだろう。
「……ん?」
何か引っかかりを感じて、真琴は首を傾げた。それが何なのか、必死で手繰りよせようとする。
「真琴さん、どうしました?」
「いや、ちょっと」
旅行の前、皆でスケジュールを組んだのだが、その時にも感じた違和感だ。
壱斗はタブレットで、スカウトのされやすさについて調べていた。まず子どもの場合、親が一緒だと声が掛けられやすいとのことなのだ。契約のことなど、直接親と話せた方が早いかららしい。なので雅玖が一緒に行くということになったのだが。
真琴は雅玖を見る。基本和装の雅玖だが、今回は目立つからと言う理由で洋装、一般的な服を着てもらっていた。シンプルに濃紺のシャツにブルージーンズである。そう、「目立つから」。
「……あー!」
真琴は思わず声を上げてしまう。そしてここが外のカフェだと気付いて慌てて口を押さえた。
「どうしました? 真琴さん」
雅玖も子どもたちも面食らっている。李里さんは忌々しそうに顔をしかめていた。この人はどれだけ真琴を鬱陶しいと思っているのだか。
「あかんわ。壱斗のスカウトのためやのに、雅玖が一緒やったら雅玖が目立ってまう」
「そうでしょうか。壱斗は格好良くて可愛いですよ? 壱斗の方が目立つに決まっているでは無いですか」
雅玖はきょとんと首を傾げる。そりゃあ親の目線から見たらそうだ。だが。
「いや。確かに壱斗も目立つんやけど、雅玖、あんたはもっと自分の容姿の良さを自覚せなあかん。絶対にあんたの方が目立ってまう」
「そうでしょうか」
雅玖は納得がいっていない様だし、李里さんには「雅玖さまになんてことを!」なんて言われてしまうが、壱斗を見ると、愕然とした様子で目を丸くしていた。
「そりゃそうやわ。ちびっこいオレより、お父ちゃんの方が目立つに決まってるやん」
「身長のことですか? そればかりはどうしようも」
雅玖が慌てて言うが、壱斗はかすかに震える声で「ちゃうねん」と被せた。
「お父ちゃんは、顔そのものが目立つねん。オレなんか埋もれてまうわ。うわぁ、どうしよう」
壱斗は頭を抱えてしまい、雅玖はおろおろとしてしまう。何を言っているのだ。解決方法なんて簡単ではないか。
「私が壱斗と一緒に行くわ」
真琴が言うと「え?」と皆の声が揃う。
「私やったら顔も10人並みやし、確実に壱斗を見てもらえるやろ。身長云々はしゃあない。それは大人と子どもの違いやから」
「真琴さんが10人並みだなんて。私は真琴さんは充分お綺麗だと」
「今はそんなんいらんねん。とにかく、雅玖が一緒やと雅玖がスカウトされかねん。それか雅玖に目を付けて、でも子ども連れやから避けられるかのどっちかや。でも私やったらその心配は無いと思う」
保護者同伴という前提なら、他に方法は無い。壱斗も「そやな」と頷いた。
「オレもお母ちゃまは綺麗やと思うけど、お父ちゃんに比べたら大丈夫な気がする。ほなお母ちゃま、オレと一緒に行ってくれる?」
「うん、もちろん。四音、景五」
ふたりを見ると、残念そうな顔で項垂れている。真琴と和カフェ巡りをすることを楽しみにしてくれていたのだ。
「和カフェは雅玖と行って欲しいねん。私の代わりに写真とか、味の感想とか、あとで教えて欲しいんよ。お願いしてええ?」
真琴が優しく言うと、四音と景五はゆっくりと顔を上げる。
「僕らがママちゃまの代わりに?」
「そうや。ふたりやったらちゃんとやってくれるって信用してるから。楽しみにしてる」
「……うん!」
「うん」
ふたりは機嫌を直してくれ、力強く頷いた。
さて、カフェを出たら行動開始である。予約している新宿のホテルのチェックイン時間はまだだが、宿泊客の荷物を預かってくれるサービスがあるというので、まずはホテルに行くために在来線のホームに向かう。
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