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#89 カルとミルの決断
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やがて客足がほぼ無くなり、店内の客数も少なくなった頃、静かにドアが開いた。
姿を現したのは、カルとミルだった。ふたりともやや緊張した面持ちで店内に入って来る。
「こ、こんばんは。食事の後、店長さんたちに話を聞いていただきたくて」
「あ、は、はい、つ、伝えて、来ます」
カルの言葉を聞いたマユリが厨房に向かう。その間にカルたちはテーブルに付き、メニューを取った。
カルが近くにいたマーガレットを呼び、注文をする。
その流れを、壱はガイたちと話をしながら時折横目で見ていた。
ちらりとサユリを見ると、我関せずと言った調子で澄ました様子。とは言え、その時になれば呼ばれるのだろう。多分壱も。
結婚を機に専業主婦になりたいと言ったミル。しかしそれは村の掟が許さないと撥ね付けたサユリと茂造。
納得出来ないのなら、村を出て貰うとまで言われたふたりが、どういう結論を出したのか。
ガイたちとの会話に興じながら、つい気になってしまい、目線を動かした。その間に頼んだ料理が運ばれ、ふたりは黙々と食べ進めていた。
やがて仕事がひと段落したであろう茂造が、フロアに姿を現した。
まずは壱たちのテーブルに寄り。
「みんなお疲れさまじゃのう。済まんが壱とサユリさんを少し借りて良いかのう」
笑顔で言う。
「あ、いえ、そもそもお借りしているのは寧ろこちらで。サユリさんとイチくんが大丈夫でしたら」
ガイが言い、壱は頷いた。
「うん。大丈夫」
「我もカピ」
言いながら壱は残り少なくなっていたエールを飲み干しながら椅子を立ち、サユリは身軽に床に降りた。
「すいません、少し行って来ます」
壱が言うと、ジェンとナイルは手を振り、リオンは頭を下げた。
既に食事を終え、空いた食器も下げられていたカルとミルのテーブルに近付き、声を掛ける。
「良いかの?」
「はい! お願いします!」
カルとミルは同時に立ち上がり、頭を下げる。茂造は大らかに笑いながらふたりに座る様に促した。
しかしふたりは壱と茂造が掛けるまで立ったままだった。サユリはいつもの様にテーブルの上へ。
カルとミルは微かに強張った顔を見合わせ小さく頷くと、茂造に向き直る。そして、やや俯きながら口を開いたのはミルだった。
「私、専業主婦になりたい夢は諦めます。失念していました。私、サユリさんの加護があるからこそ、カルと良いお付き合いが出来ているんだって言う事を。私の我儘を通して村を出たとしたら、多分カルは私の元から逃げてしまうと思います。カルを失うのと天秤に掛ける事もありません。村のルールに従います」
ミルは唇を噛み締め、微かに伏せられた目尻が微かに潤む。ミルにとって、この決断は辛いものなのだろう。
想い描いていた筈だ。結婚したら旦那さまに尽くしたいと。旦那さまの為に完璧に家事をして、甲斐甲斐しく身の回りの世話もして、立派に子育てもして、と。
その重さがミルをこの村に移住させた原因な訳だが。
しかしサユリの加護のお陰で、その悪癖はやや形を潜め、カルと良い付き合いが出来ていた。
だから彼女は忘れてしまっていたのだ。今のミルの状態は、この村、そしてサユリあってのものなのだと言う事を。
茂造はゆっくりと頷いた。
「うむ。そうじゃの。厳しい事を言うがの、確かにこの村を離れたら、お前さんたちは駄目になってしまうと思うんじゃ。それを努努忘れん様にの」
「それともうひとつ言っておくカピ」
サユリが口を開く。
「我の加護はあまり強いものでは無いカピ。だから、客観的に見たら今のミルでも充分重いのだカピ。カルの想いがあってこそ続いているのだと、きちんと自覚するカピよ」
「はい……」
ミルは項垂れる。自覚はしていても、やはり悔しい思いもあるのだろう。
だが、殆ど関わりの無い壱の眼から見ても、確かにミルは重い様に思える。先日の話を聞いてもそう感じた。
そうして隅々まで構われる事を心地良いと思う男性もいるのだろう。だが壱は御免だった。普段から身の回りの事は勿論家事の手伝いもしていたのだ。自分の事は自分で。それが壱の当たり前だった。
そう思うと、この村の性質は壱には合っている様だ。
「カルもそれで良いんじゃな?」
茂造が聞くとカルは大きく頷いた。
「はい。俺はミルが良いならそれで。正直この村を出たらどうなるか判らないですが、でも、今はこの村で結婚した方が良い様な気はしています。なので、そうします」
「そうじゃの。儂もそれが良いと思うぞい」
どうやらこの問題は解決を見そうだった。
ミル本人は納得出来ない部分があるかも知れない。今も浮かない表情だ。しかし目出度い事なのだと思う。
「結婚式はするのかの?」
「はい、そのつもりです。これからドレスを注文しようと思います。家はミルがひとり暮らしなので、そこで」
「そうかそうか。なら式の日取りが決まったら早めに教えてくれの。準備もあるからの」
「はい」
「……はい」
ふたりはそう言い頷いた。ここでやっと、ミルは少し笑顔を見せた。
姿を現したのは、カルとミルだった。ふたりともやや緊張した面持ちで店内に入って来る。
「こ、こんばんは。食事の後、店長さんたちに話を聞いていただきたくて」
「あ、は、はい、つ、伝えて、来ます」
カルの言葉を聞いたマユリが厨房に向かう。その間にカルたちはテーブルに付き、メニューを取った。
カルが近くにいたマーガレットを呼び、注文をする。
その流れを、壱はガイたちと話をしながら時折横目で見ていた。
ちらりとサユリを見ると、我関せずと言った調子で澄ました様子。とは言え、その時になれば呼ばれるのだろう。多分壱も。
結婚を機に専業主婦になりたいと言ったミル。しかしそれは村の掟が許さないと撥ね付けたサユリと茂造。
納得出来ないのなら、村を出て貰うとまで言われたふたりが、どういう結論を出したのか。
ガイたちとの会話に興じながら、つい気になってしまい、目線を動かした。その間に頼んだ料理が運ばれ、ふたりは黙々と食べ進めていた。
やがて仕事がひと段落したであろう茂造が、フロアに姿を現した。
まずは壱たちのテーブルに寄り。
「みんなお疲れさまじゃのう。済まんが壱とサユリさんを少し借りて良いかのう」
笑顔で言う。
「あ、いえ、そもそもお借りしているのは寧ろこちらで。サユリさんとイチくんが大丈夫でしたら」
ガイが言い、壱は頷いた。
「うん。大丈夫」
「我もカピ」
言いながら壱は残り少なくなっていたエールを飲み干しながら椅子を立ち、サユリは身軽に床に降りた。
「すいません、少し行って来ます」
壱が言うと、ジェンとナイルは手を振り、リオンは頭を下げた。
既に食事を終え、空いた食器も下げられていたカルとミルのテーブルに近付き、声を掛ける。
「良いかの?」
「はい! お願いします!」
カルとミルは同時に立ち上がり、頭を下げる。茂造は大らかに笑いながらふたりに座る様に促した。
しかしふたりは壱と茂造が掛けるまで立ったままだった。サユリはいつもの様にテーブルの上へ。
カルとミルは微かに強張った顔を見合わせ小さく頷くと、茂造に向き直る。そして、やや俯きながら口を開いたのはミルだった。
「私、専業主婦になりたい夢は諦めます。失念していました。私、サユリさんの加護があるからこそ、カルと良いお付き合いが出来ているんだって言う事を。私の我儘を通して村を出たとしたら、多分カルは私の元から逃げてしまうと思います。カルを失うのと天秤に掛ける事もありません。村のルールに従います」
ミルは唇を噛み締め、微かに伏せられた目尻が微かに潤む。ミルにとって、この決断は辛いものなのだろう。
想い描いていた筈だ。結婚したら旦那さまに尽くしたいと。旦那さまの為に完璧に家事をして、甲斐甲斐しく身の回りの世話もして、立派に子育てもして、と。
その重さがミルをこの村に移住させた原因な訳だが。
しかしサユリの加護のお陰で、その悪癖はやや形を潜め、カルと良い付き合いが出来ていた。
だから彼女は忘れてしまっていたのだ。今のミルの状態は、この村、そしてサユリあってのものなのだと言う事を。
茂造はゆっくりと頷いた。
「うむ。そうじゃの。厳しい事を言うがの、確かにこの村を離れたら、お前さんたちは駄目になってしまうと思うんじゃ。それを努努忘れん様にの」
「それともうひとつ言っておくカピ」
サユリが口を開く。
「我の加護はあまり強いものでは無いカピ。だから、客観的に見たら今のミルでも充分重いのだカピ。カルの想いがあってこそ続いているのだと、きちんと自覚するカピよ」
「はい……」
ミルは項垂れる。自覚はしていても、やはり悔しい思いもあるのだろう。
だが、殆ど関わりの無い壱の眼から見ても、確かにミルは重い様に思える。先日の話を聞いてもそう感じた。
そうして隅々まで構われる事を心地良いと思う男性もいるのだろう。だが壱は御免だった。普段から身の回りの事は勿論家事の手伝いもしていたのだ。自分の事は自分で。それが壱の当たり前だった。
そう思うと、この村の性質は壱には合っている様だ。
「カルもそれで良いんじゃな?」
茂造が聞くとカルは大きく頷いた。
「はい。俺はミルが良いならそれで。正直この村を出たらどうなるか判らないですが、でも、今はこの村で結婚した方が良い様な気はしています。なので、そうします」
「そうじゃの。儂もそれが良いと思うぞい」
どうやらこの問題は解決を見そうだった。
ミル本人は納得出来ない部分があるかも知れない。今も浮かない表情だ。しかし目出度い事なのだと思う。
「結婚式はするのかの?」
「はい、そのつもりです。これからドレスを注文しようと思います。家はミルがひとり暮らしなので、そこで」
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「はい」
「……はい」
ふたりはそう言い頷いた。ここでやっと、ミルは少し笑顔を見せた。
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