129 / 190
#129 ノルドの境遇、そしてこれから。その1
しおりを挟む
「私はとある街から参りました。そこにいる時は、医者として病院に勤めておりました」
この世界の人たちは、街や村にいる限り、魔法の加護のお陰で、滅多に怪我や病気をしない。
しかしその程度は、魔法使いの力量に寄って異なる。
このコンシャリド村は、サユリの加護で怪我人や病人はほぼ出ない。
村人には「しがない魔法使い」を装っているので、加護の大半をそこに割いている、と言う事にしている。この村には人相手の医者がいないからだ。
実際にはサユリの魔力だと余裕なのだが。
しかし、魔力の強くない魔法使いもいる。そういう街では医者が多く必要になるのだ。
ノルドがいたのもそんな街だった。そういう街は医療が発達する。なので、悪いばかりでは無いと言える。
さて、ノルドは患者を診る日々を送っていた。
その病院では、同じ内科の同僚がいた。男性で、年齢もほぼ変わらない。なのでふたりは友人の様な付き合いをしていた。
休憩時間に話をしたり、昼食をともにしたり、就業後には酒を酌み交わしたり。
そうして友好的な関わりを保っていた。
ある日、ノルドたちが勤める病院で騒ぎが起きた。患者の妻と名乗る女性が乗り込んで来たのだ。
「風邪だって診断されたから、処方された薬を飲んで寝ていたのに、急におかしくなって死んでしまったわ! どういう事なのよ!」
受付で喚き散らす女性を相手に、事務員が根気強く宥めながら話を聞くと、担当医はノルドの同僚だった。
丁度そのタイミングで、外の食堂で昼食を終え、病院に戻って来たばかりのノルドと同僚がその場を差し掛かった。
女性は同僚を見るや否や、胸ぐらを掴まんばかりに詰め寄った。同僚は仰け反り、表情を強張らせる。
「あんたのせいよ! あんたの出した薬を飲んで寝ていたのに、夫は死んだ! どういう事よ! 診断を間違えたんじゃ無いの!? 風邪じゃ無かったんじゃ無いの!?」
「い、いや……」
同僚はすっかりと狼狽してしまっている。
この街の魔法使いの魔力は確かに強く無く、だからこうして医者が必要になっている。だが、それで留まっている筈だった。
具合が悪くなると病院に行くのだが、その大概がどれも軽いもので、内科の場合は風邪、外科の場合は肩凝りや腰痛、捻挫や打ち身などの症状だった。
その全ては魔法使いや薬剤師が調合した薬で快方に向かう。
少なくともノルドが医者になってからは、重篤患者を見た事は無かった。軽症、軽傷の人数は多かったものの、治らなかった患者、ましてや亡くなった患者はひとりもいなかったのだ。
ノルドはまだ若く、医者になってから10年にも満たない。それでもひとりも亡くなっていないと言うのは、壱たちの世界では奇跡だ。
この世界では、魔法のお陰でその感覚が麻痺しているのだろう。何があっても死ぬ訳が無い。もしそう至る事があっても、万が一の確率なのだから、自分は大丈夫だ、と。
患者が何故亡くなったのかは判らない。同僚が「また風邪だろう」と大して診察しなかったのか、それとも処方した薬と患者との相性が悪かったのか。
薬は薬草から作られるから、アレルギーの可能性だってある。調べる術は魔法以外無いのだが。
間近に迫る憤怒の形相の女性を前に、同僚は唇をわななかせ、眼を泳がせる。釣り上がる女性の眼を正面から見る事も出来ず、痙攣の様に震える頭、そして眸がノルドと交差した。
その途端、同僚は叫んだのだ。
「俺じゃ無い! 診断をしたのはノルドだ! 俺は悪く無い! 悪いのはノルドだ!」
そんな嘘は、診察時に患者に付き添っていただろう女性は勿論信じないし、カルテを見たらノルドが欠片も関わっていない事も解る筈だ。
だがノルドは、友人だと信じていた同僚が自分に押し付けた事に、大いに失望した。
有事の際には守ってくれる、そこまでの期待はしていなかった。だが、擦り付けられるとは。
女性は一瞬呆けるが、やがて表情を歪め、叫んだ。
「何言ってるのよ! あの先生とは会った事も話した事も無いわよ! なのに何であの先生が関係あるのよ!」
その時は事務員や看護師が駆け付け、どうにかその場を収めた。事実関係を明らかにし、報告するからと。
女性は興奮しながらもその場は辞してくれた。
しかしその翌朝。
新聞の一面を飾ったのは、「ノルドが医療ミスを犯した」と言う記事だった。
この世界の人たちは、街や村にいる限り、魔法の加護のお陰で、滅多に怪我や病気をしない。
しかしその程度は、魔法使いの力量に寄って異なる。
このコンシャリド村は、サユリの加護で怪我人や病人はほぼ出ない。
村人には「しがない魔法使い」を装っているので、加護の大半をそこに割いている、と言う事にしている。この村には人相手の医者がいないからだ。
実際にはサユリの魔力だと余裕なのだが。
しかし、魔力の強くない魔法使いもいる。そういう街では医者が多く必要になるのだ。
ノルドがいたのもそんな街だった。そういう街は医療が発達する。なので、悪いばかりでは無いと言える。
さて、ノルドは患者を診る日々を送っていた。
その病院では、同じ内科の同僚がいた。男性で、年齢もほぼ変わらない。なのでふたりは友人の様な付き合いをしていた。
休憩時間に話をしたり、昼食をともにしたり、就業後には酒を酌み交わしたり。
そうして友好的な関わりを保っていた。
ある日、ノルドたちが勤める病院で騒ぎが起きた。患者の妻と名乗る女性が乗り込んで来たのだ。
「風邪だって診断されたから、処方された薬を飲んで寝ていたのに、急におかしくなって死んでしまったわ! どういう事なのよ!」
受付で喚き散らす女性を相手に、事務員が根気強く宥めながら話を聞くと、担当医はノルドの同僚だった。
丁度そのタイミングで、外の食堂で昼食を終え、病院に戻って来たばかりのノルドと同僚がその場を差し掛かった。
女性は同僚を見るや否や、胸ぐらを掴まんばかりに詰め寄った。同僚は仰け反り、表情を強張らせる。
「あんたのせいよ! あんたの出した薬を飲んで寝ていたのに、夫は死んだ! どういう事よ! 診断を間違えたんじゃ無いの!? 風邪じゃ無かったんじゃ無いの!?」
「い、いや……」
同僚はすっかりと狼狽してしまっている。
この街の魔法使いの魔力は確かに強く無く、だからこうして医者が必要になっている。だが、それで留まっている筈だった。
具合が悪くなると病院に行くのだが、その大概がどれも軽いもので、内科の場合は風邪、外科の場合は肩凝りや腰痛、捻挫や打ち身などの症状だった。
その全ては魔法使いや薬剤師が調合した薬で快方に向かう。
少なくともノルドが医者になってからは、重篤患者を見た事は無かった。軽症、軽傷の人数は多かったものの、治らなかった患者、ましてや亡くなった患者はひとりもいなかったのだ。
ノルドはまだ若く、医者になってから10年にも満たない。それでもひとりも亡くなっていないと言うのは、壱たちの世界では奇跡だ。
この世界では、魔法のお陰でその感覚が麻痺しているのだろう。何があっても死ぬ訳が無い。もしそう至る事があっても、万が一の確率なのだから、自分は大丈夫だ、と。
患者が何故亡くなったのかは判らない。同僚が「また風邪だろう」と大して診察しなかったのか、それとも処方した薬と患者との相性が悪かったのか。
薬は薬草から作られるから、アレルギーの可能性だってある。調べる術は魔法以外無いのだが。
間近に迫る憤怒の形相の女性を前に、同僚は唇をわななかせ、眼を泳がせる。釣り上がる女性の眼を正面から見る事も出来ず、痙攣の様に震える頭、そして眸がノルドと交差した。
その途端、同僚は叫んだのだ。
「俺じゃ無い! 診断をしたのはノルドだ! 俺は悪く無い! 悪いのはノルドだ!」
そんな嘘は、診察時に患者に付き添っていただろう女性は勿論信じないし、カルテを見たらノルドが欠片も関わっていない事も解る筈だ。
だがノルドは、友人だと信じていた同僚が自分に押し付けた事に、大いに失望した。
有事の際には守ってくれる、そこまでの期待はしていなかった。だが、擦り付けられるとは。
女性は一瞬呆けるが、やがて表情を歪め、叫んだ。
「何言ってるのよ! あの先生とは会った事も話した事も無いわよ! なのに何であの先生が関係あるのよ!」
その時は事務員や看護師が駆け付け、どうにかその場を収めた。事実関係を明らかにし、報告するからと。
女性は興奮しながらもその場は辞してくれた。
しかしその翌朝。
新聞の一面を飾ったのは、「ノルドが医療ミスを犯した」と言う記事だった。
11
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる