異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈

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#130 ノルドの境遇、そしてこれから。その2

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 昨日の悶着もんちゃくの場面に新聞記者がいて、女性の「ノルドを知らない」と言う台詞を聞く前に、会社に持ち帰ったのでは無いだろうかと予想される。

 眼を潰されてはいたし、白黒でロングショットだったが、昨日の現場の写真も掲載されていた。

 ノルドと同僚はヘアスタイルも似ていた。眼を隠された状態で遠目から見れば、区別など殆ど付かない。

 新聞社が裏付け無しに記事にした事に付いては、その余りの杜撰ずさんさに呆れるしか無い。

 しかし、問題はそこでは無い。

 病院側は、誰が医療ミスをしようがどうでも良い。病院そのものがそういう事態を起こしたかどうかだ。

 そして実際に出したかどうかもどうでも良い。病院に悪評が付く、それが重要なのだ。

 なので病院は、その騒ぎを沈静化させる事に尽力じんりょくした。ノルドへの濡れ衣は放ったらかしにして。

 病院が「医療ミスは無かった」と声を大きくしたところで、実際に患者がひとり亡くなっている。

 患者の妻と言う女性も、新聞のインタビューに熱く応えていた。夫を失った未亡人と言う立場は、読む者の同情を大いに誘う。

 当然記者も面白おもしろ可笑おかしく記事にする。

 そして誤報の謝罪も訂正もしない。

 こうしたモラルの低さも、この街の魔法使いの魔力の弱さに比例していた。

 そうなると、病院は責任を取らざるを得無くなる。

 まず、病院は表立ってしまったノルドを解雇かいこした。責任を取らせると言う形だ。そうして少しでも落ち着かせようとした。

 解雇は表向きで、実際は会社都合退職。退職金は通常の金額にかなりの色を付けて支払われた。

 納得出来る事では無かったが、このままこの病院に勤めても、誰のえきにもならない事はノルドにも解っていたので、受け入れるしか無かった。

 だが、加熱した街人は鎮静ちんせいの気配を見せなかった。あおり続けているのは新聞だった。

 しかし何のミスも無く退職に追い込まれたノルドにとって、そんな事はどうでも良かった。

 食べるものを買いに外に出ると、罵声ばせいを浴びせられる。そんな数日を過ごしたノルドは、親の代から暮らしていた街そのものにも失望した。

 その両親は既に他界していたし、ひとりっ子で天涯孤独の身だったので、誰にも迷惑を掛ける事が無かったのだけが救いだった。

 その時、思い出したのだ。どこかに、前科者が身を寄せ合い暮らす村があると聞いた事を。

 自分は無実だ。医療ミスなど犯してはいない。だが今の自分の気持ちを解ってくれるのは、そういう人たちなのでは無いか。信じてくれるのでは無いか。

 無職になり、街の人々にうとまれるだけの存在になってしまったノルドは、ありったけのお金と必要最小限のものだけを手に、旅に出た。

 その噂の村が東西南北どの方向にあるのか判らぬまま、出会った人に話を聞きながら、しかし大した手掛かりも得られないまま。

 だが求めたノルドは、無事にコンシャリド村に辿り着いたのである。



「……そうカピか」

 サユリはノルドの話を聞き終え、溜め息を吐きながら言う。

「ノルド、お前の境遇は解ったカピ。大変だったのだカピな。で、お前はどうしたいのだカピ? この村に来たいと思った目的は何カピ?」

「目的、ですか。ああ……」

 ノルドはうめく様に言うと、困った様に顔を伏せた。

「とにかく村に行きたいと、着けばどうにかなると、そればかりを考えていました。私はこの村で何が出来るでしょうか」

「この村で暮らすのじゃったら、医者として働いたら良いぞい。この村はの、老若男女全員が働いておる。学校に行っておる子どもも、親の手伝いをしておるんじゃ。家族や夫婦、全員が力を合わせて助け合いながら生活をしておる。家事だけの女性、仕事だけの男性、勉強と遊びだけの子どもはおらんのじゃ。まずは村のこの決まりに従えないのであれば、受け入れる事は出来んのじゃ」

「それは大丈夫です。独身のひとり暮らしでしたから、一通りの事は自分で出来ます」

「将来結婚する事になっても、変わらんぞい。家事は嫁さんと協力するんじゃぞ」

「はい、大丈夫です」

 ノルドは真剣な顔で、大きく頷いた。その表情からは強い意志を感じた。

「ならノルドよ、我たちはお前を歓迎するカピ。人間の医者が来るのは実際に助かるカピ。この村には獣医しかいなかったカピからな」

「ノルドさん、これからよろしくお願いします」

 壱が笑顔で言うと、ノルドも笑みを浮かべた。

「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします。この村での生活、楽しみです」

「村の人はみんな良い人ですから。前科をお持ちの方がいますけど、本当に良い人ばっかりで」

「そうなんですか。お会い出来るのが楽しみです」

 壱とノルドが話に花を咲かせていると、茂造が頃合で「まぁまぁ」と口を挟む。

「では、ノルドが暮らす家を決めんとのう。その1部を病院と言うか診療所に改装出来たら良いの。壱、済まんがわしは昼営業分の仕込みを抜けるから、よろしくの。サユリさんはどうするかの?」

「我は残るカピ」

 サユリは考える風も無く即答する。

「うんうん。では儂らは行って来るでの。壱よ、済まんついでに洗い物も頼んで良いかのう」

「うん、良いよ」

 壱が朝食を作る様になってから、洗い物は茂造がしてくれていた。

「出来るなら今日中に家を決めて、ノルドが暮らせる様にしたいからのう。では行って来るからの。後はよろしくの」

「うん、行ってらっしゃい」

「行って来るカピ」

「行って来ます。あの、朝食ごちそうさまでした。とても美味しかったです」

 ノルドの皿は綺麗に空になっていた。

「いえいえ」

 そうして壱とサユリは、茂造とノルドを見送った。
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