異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈

文字の大きさ
184 / 190

#184 スマートフォンの解決

しおりを挟む
 昼営業が終わり、休憩時間に入る。

 サユリにはミルク、茂造には紅茶、壱は珈琲コーヒーを準備し、テーブルを囲う。

 そのテーブルの中心には、壱のスマートフォンが鎮座ちんざしていた。

 サユリのお陰で電池の消耗は無く、電源はいつでも入れられていて、ディスプレイにはアプリのアイコンが整然と並べられている。

 それらの中で目立つのは幾つかのSNSのアイコン。右上に赤い丸が付き、それぞれに3桁にも近い数字が表示されていた。

 壱がこの世界に転移してすぐの頃は、かなりの勢いで数字は増えて行っていたが、数日も過ぎる頃にはゆるやかになっていた。

 あれからもう1ヶ月程度も経つのだ。友人はともかく家族が壱を諦めたとは思いたく無いが、既読も付かないメッセージを送り続けても仕方が無いと言う事は思い知らされているだろう。

 それでもぽつりぽつりと増える数字は賭けの様な、願掛けの様なものなのかも知れない。

 壱はこの世界で、平和で楽しい生活を送って来た。だが元の世界では行方不明扱いになっていて、生死すら不明だ。

 家族がどんな思いでいるのか、想像すると身がえぐられる思いがする。

 スマートフォンのディスプレイを見る度に、心が痛んだ。

 アイコンをタップして、メッセージを読みたくなる。そして家族に送りたい。俺は無事だと。茂造と再開出来て、一緒に平和に暮らしていると。

 壱はそれを茂造とサユリに正直に打ち明けた。

「既読が付けられるんだったら家に帰らないはおかしい。だから既読もそうだけど、返信も出来ない。異世界がどうのこうのなんて言えないでしょ。だから」

「いや、別に構わんのじゃ無いかの?」

 壱の言葉尻に被せる様に、茂造の呑気のんきな声が乗る。

「どうかの? サユリさん」

「異世界云々を壱の家族が信じるかどうかはともかく、手段があるなら連絡を取っても全然構わないカピ。どちらにしても現状行き来は出来ないカピがな」

「そ、そうなの?」

 壱は呆然と間抜けな声を上げる。

「ついでに三枝子(茂造の娘、壱の母)に儂の無事も知らせてくれると嬉しいのう。儂は携帯電話など持っておらんかったからのう」

 にこにこしながら言う茂造。壱はすっかりと力が抜けてしまった。

 こんな簡単に解決してしまうとは思わなかった。

 拍子抜けした壱は椅子の背凭せもたれにだらりと身体を預け、溜め息とともに「はぁ~」と声を上げた。

「なぁんだ~悩んだのに~」

「もっと早くに言ってくれれば良かったカピ」

 サユリが呆れた様に言う。

「ま、あまり口外はしない方が良いとは思うカピが、我も茂造と壱の家族には申し訳無い事をしたとは思っているカピよ」

「ほっほっほ、まぁ何せの、異世界がどうだのと言われたらの、判らん事も多いじゃろう」

 茂造が壱を慰める様に言ってくれる。

「……よしっ!」

 壱は気分を切り替える為に声を上げ、上半身を起こす。

「まずはメッセージ見てみよう!」

 壱はスマートフォンを取ると、自らを落ち着かせる為に深呼吸をし、SNSのアイコンをタップした。

 それは他者とのコミニュケーションツールとして主に使用されているインスタントメッセンジャーで、スマートフォンのキャリアに依存するメールとは別に、母親や妹、友人らとの通信手段として使用していた。

 父親は「良く判らん!」と言って未登録である。ちなみにフィーチャーフォンを使用し続けている。

 届けられたメッセージを見てみたら、やはり「どこにいるの?」「返事ください」と言う様なものばかりだった。

 スクロールしながら眼を通す。ヤバい、目頭が熱くなる。最後のメッセージは「どうか無事でありますように」だった。

「やっぱり母さんにも妹にも心配掛けてたなぁ。早速家族グループにメッセージ入れてみよう。えーっと」


  父さん、母さん、柚絵、心配掛けてごめん。
  俺は無事です。
  信じられないかも知れないけど、異世界の村で元気で暮らしてます。
  当分帰れないけど、心配しなくても大丈夫だから。

  母さん、その異世界で茂造じいちゃんと再会したよ。
  じいちゃんも無事です。元気です。一緒に暮らしてます。

  だから安心してください。
  またメッセ送ります。

  あ、異世界の事は一応口外しないでね。
  誰も信じないと思うけど。


 送信マークをタップした。

「よしっと」

 母親も妹も仕事中だろうから、気付くのは後になるだろう。

 異世界云々はやはり信じて貰えない可能性が高いが、まずは壱と茂造が無事だと言う事が伝われば良い。

「おや、そろそろ夜の仕込みの時間かの?」

「あ、じゃあ俺スマホ部屋に仕舞しまって来る」

「では儂は洗い物を済ませてしまおうかの」

 壱と茂造はそれぞれ腰を上げ、サユリも伸びをしながら立ち上がった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...