異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈

文字の大きさ
183 / 190

#183 すき焼き丼の朝ご飯

しおりを挟む
 朝になり、いつもの時間に起きる。昨夜のプチうたげの洗い物は昨日のうちに済ませておいた。

 サユリは眠る為に飲んでいたので、やや杯を重ねてふんわりとほろ酔い状態になったが、壱はそう量を飲んでいないので、ほぼ素面しらふだったのだ。

 さて、今朝は何を作ろうか。壱は朝の支度をして、キッチンに向かう。

 味噌を使うというこだわりは譲らない。うん、では。

 まずは鍋に水を張り、昆布を入れておく。

 次に厨房に降り、冷蔵庫から牛肉と卵、棚から玉ねぎときゃべつを取り出す。そして裏庭から玉ねぎの苗を。

 さて、上に戻って調理開始だ。まずは米を炊こう。強火に掛けて。

 次に鍋に湯を沸かす。

 その間に玉ねぎの苗を小口切りにしておく。続けて玉ねぎを厚めのくし切りに。きゃべつは太めの千切りにし、牛肉は薄切りに。

 湯が沸いたので火を止め、卵を殻ごと入れて、ふたをして置いておく。

 米の鍋も沸いて来たので、弱火に落として。

 昆布を入れた鍋を火に掛ける。沸騰するまでの間に鰹節かつおぶしを削る。

 沸騰したら火を消して昆布を取り出し、鰹節を入れる。沈むまでの間に昆布を千切りにしておく。

 鰹節が沈んだら出来た出汁を別の鍋に移す。それを火に掛け、沸騰したらきゃべつを入れる。

 出汁殻の鰹節は包丁で叩いて細かくしておく。

 フライパンを出し、火に掛けてオリーブオイルを敷く。そこに牛肉を入れて炒め、玉ねぎを加える。

 玉ねぎがしんなりして来たら、ひたひたに水を入れる。沸いて来たら灰汁あくが出て来るので丁寧ていねいに取り、出汁殼だしがらを入れて赤味噌を溶かし、砂糖も加え、煮詰めて行く。

 米が炊き上がったので火を止め、解して蓋をして蒸らす。

 さて、後は仕上げである。そろそろ茂造たちも起きて来る頃だろうか。

 その間にもう使わない器具などを手早く洗う。そうしていると茂造たちがキッチンに顔を覗かせた。

「おはようの。今朝も良い匂いじゃ。ありがとうのう」

「おはようカピ」

「おはよう。もう直ぐに出来るよ」

 そうして茂造が支度に向かうと、壱は仕上げに入る。

 きゃべつの鍋を塩と砂糖で味を整え、スープボウルとサラダボウルに注ぎ、玉ねぎの苗の小口切りを浮かして、きゃべつのお吸い物の出来上がり。

 ボウル状の器とやや深みのある皿に白米を平らに盛り、牛肉と玉ねぎを煮込んだものを乗せる。そして中心に放置で仕上がった温泉卵を割り、彩りに玉ねぎの苗の小口切りをぱらり。

 すき焼き丼の完成である。

 テーブルにそれらが揃う頃には、茂造も既に戻って来ていた。サユリもとうにスタンバイ完了。

「今朝はすき焼き丼とお吸い物だよ。どうぞ」

「美味そうじゃのう。この甘辛い匂いが何とも良いのう。いただきます」

「いただくカピ」

「はい。いただきます」

 まずはお吸い物をひとすすり。優しい味が染み渡る。そして甘いきゃべつでほっこりと。

 さて、すき焼き丼だが。すき焼きの割り下、その作り方は地域によって違う。

 今回は牛肉の香ばしさが欲しかったので、先に焼いてから、そのまま割り下を作る形にしてみた。醤油の代わりに赤味噌だ。

 さて、仕上がりはどうか。

 温泉卵を割り、具と絡め、米と合わせてすくう。卵の黄色い輝きと具の照りが、何とも食欲を唆る。

 ではいただきます。

 ……甘辛い具に卵が合い、良い旨味を生み出している。ちゃんとすき焼きっぽく出来上がっていた。

 壱は嬉しくなって、もぐもぐと口を動かしながらまなじりを下げた。

「うむうむ、久々のすき焼きじゃ。嬉しいのう。旨いのう」

「ふむ、これがすき焼きと言うやつカピか。なかなか良いカピな。卵が良い仕事をしているカピ。生に近い味なのだカピが、生では無いのだカピな。面白いカピ」

 茂造とサユリも満足そうに口に運んでいる。なかなかの高評価である。

「しかし壱よ、味噌は本当にいろいろな物が作れるのじゃなぁ。凄いのう」

「スマホでレシピ調べたり出来るしね。赤味噌を醤油に例えたら、結構出来るもんだよ」

 ここで壱は、あ、と気付く。スマートフォンを使う度に気になっていた事だ。

「ねぇ、じいちゃん、サユリ、お昼の休憩の時に相談があるんだけど」

 あまり重要な事だと思わせない為に、はしを止めずに何気無さを装う。

「ん、何じゃ? 込み入った事かのう?」

「んー、どうだろう」

 壱は首をひねる。ん、わざとらしかっただろうか。

「……今言えないのだカピか?」

「時間掛かっちゃうかも知れないから」

「儂は構わんぞい」

「我も構わないカピ」

「ありがとう。助かるよ」

 壱は笑みを浮かべて礼を言うと、残りのすき焼き丼を掻っ込んだ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

処理中です...