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#03 とりあえずの決断
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この食堂を継いで欲しい。
そう言われ、間抜けな声を上げてしまった壱だが、すぐに家業を思い出す。
「あの、じいちゃん、俺実家の味噌蔵継がなきゃなんだけど」
「あ」
茂造は今思い出したと言う様に声を上げた。
壱の実家は味噌蔵なのである。相葉味噌という蔵で、そこそこ歴史がある。親などは気にせず好きな事をやれと言ってくれたが、壱は跡を継ぐ事を決めた。
これが親から「跡を継げ」と抑え付けられていたら多少は反発もしたか知れないが、それが無かったからか、壱はすんなりと継ぐ事を受け入れられた。
両親がそれを狙っていたのなら、壱はまんまと嵌められた訳だが、壱にとってはどうでも良い事だった。
幼い頃から飲んでいた味噌汁に使われていた相葉味噌の味が、壱は大好きだったのだ。
普段に使われる麦味噌米味噌合わせ味噌、たまに使われる赤味噌、雑煮などに使われる白味噌、どれも美味しかった。
現在は社会勉強の為に飲食店などでアルバイトをしつつ、味噌作りの修行中なのである。
「はっはっは、悪い悪い、すっかり忘れとったわい」
相葉味噌は父方の家業なので、母方の祖父である茂造が忘れていても無理は無いが、あまりにも悪びれなく笑う茂造に、壱は溜め息を吐くしかなかった。
帰らなければ。茂造には悪いが、壱はこの食堂では無く、相葉味噌を継がなければならないのだ。
「そんな訳で、俺はこの食堂を継げないよ。じいちゃんに会えたのは嬉しいけど、早く帰してくれないかな。つか、一緒に帰ろう?」
壱がそう言うと、茂造とサユリが眼を見合わせた。
そしてふたりがきっぱりと言う。
「無理カピ」
「無理じゃな」
「は?」
壱はまた間抜けな声を上げる。
「帰れるなら、連れて来られた時点で儂だってとっくに帰っとる。出来んからここを先代から継ぐしか無かったんじゃ」
「ちょ、何してくれてんだ!」
壱は慌てる。勝手に連れて来られて、しかも帰る事が出来ないなんて。
「跡継ぎならこの村の中から選んだらいいだろ。何でわざわざ俺らの世界から連れて来るんだよ」
「それはあれカピ。別の世界の風を入れたいからカピ。要は我の趣味カピ」
「あんたの趣味に付き合わせるな!」
つい怒鳴ってしまう。しかし帰れないとなると、壱も茂造の様にこの食堂を継ぐしか無いのか。
「サユリは俺らの世界に来てたよな。俺を一緒に連れては行けないのか?」
「無理カピ。あの魔法はものすごく魔力を使うカピ。次あの魔法が使えるのは何年先になるか判らないカピ。今回は10年掛かったカピ。茂造のリタイアに間に合って良かったカピ」
「縁起でも無い事言うな。あーでもそれじゃ数年はここで待たなきゃならないって事か」
「いやいや壱よ、その頃にはすっかりこの世界に染まって、帰りたいとは思わなくなっとるから」
「そうカピ。今回我が向こうに赴く時、茂造に一緒に行くか聞いてみたら、いらないと言われたカピ。茂造の前の男もそうだったカピ。ここは良い村だカピ」
壱がそうなるかどうかは、その時になってみないと判らないが、ともあれ次の代替わりまで壱はここで暮らさなければならないと言う事なのだ。ここは覚悟を決めるしか無いのだろう。
相葉味噌は、壱と負けず劣らず味噌が好きな妹が何とかしてくれるだろう。そう願おう。
「解った。とりあえず継ぐよ」
「おお、そうかそうか!」
「良かったカピ」
壱の台詞に、茂造とサユリから歓声が上がった。
「でも俺料理とかほとんど出来ないからな。家でも簡単な炒め物とかカレーとか、それぐらいしか作った事が無いから」
「それは大丈夫じゃよ。レストランじゃ無く食堂じゃからな。そんな凝った料理なんてものは出しとらんよ」
「この世界は調味料も限られているカピ。だから出来る料理も多く無いんだカピ。我、おぬしらの世界に行って、調味料の多さに驚いたカピ」
「何があるんだ?」
「まぁとりあえず座ったらどうじゃ」
茂造に言われて、ようやく壱は立ちっぱなしだという事に気付いた。手近な椅子に腰掛ける。肩に掛けたままのボディバッグも外し、テーブルに置いた。
そう言われ、間抜けな声を上げてしまった壱だが、すぐに家業を思い出す。
「あの、じいちゃん、俺実家の味噌蔵継がなきゃなんだけど」
「あ」
茂造は今思い出したと言う様に声を上げた。
壱の実家は味噌蔵なのである。相葉味噌という蔵で、そこそこ歴史がある。親などは気にせず好きな事をやれと言ってくれたが、壱は跡を継ぐ事を決めた。
これが親から「跡を継げ」と抑え付けられていたら多少は反発もしたか知れないが、それが無かったからか、壱はすんなりと継ぐ事を受け入れられた。
両親がそれを狙っていたのなら、壱はまんまと嵌められた訳だが、壱にとってはどうでも良い事だった。
幼い頃から飲んでいた味噌汁に使われていた相葉味噌の味が、壱は大好きだったのだ。
普段に使われる麦味噌米味噌合わせ味噌、たまに使われる赤味噌、雑煮などに使われる白味噌、どれも美味しかった。
現在は社会勉強の為に飲食店などでアルバイトをしつつ、味噌作りの修行中なのである。
「はっはっは、悪い悪い、すっかり忘れとったわい」
相葉味噌は父方の家業なので、母方の祖父である茂造が忘れていても無理は無いが、あまりにも悪びれなく笑う茂造に、壱は溜め息を吐くしかなかった。
帰らなければ。茂造には悪いが、壱はこの食堂では無く、相葉味噌を継がなければならないのだ。
「そんな訳で、俺はこの食堂を継げないよ。じいちゃんに会えたのは嬉しいけど、早く帰してくれないかな。つか、一緒に帰ろう?」
壱がそう言うと、茂造とサユリが眼を見合わせた。
そしてふたりがきっぱりと言う。
「無理カピ」
「無理じゃな」
「は?」
壱はまた間抜けな声を上げる。
「帰れるなら、連れて来られた時点で儂だってとっくに帰っとる。出来んからここを先代から継ぐしか無かったんじゃ」
「ちょ、何してくれてんだ!」
壱は慌てる。勝手に連れて来られて、しかも帰る事が出来ないなんて。
「跡継ぎならこの村の中から選んだらいいだろ。何でわざわざ俺らの世界から連れて来るんだよ」
「それはあれカピ。別の世界の風を入れたいからカピ。要は我の趣味カピ」
「あんたの趣味に付き合わせるな!」
つい怒鳴ってしまう。しかし帰れないとなると、壱も茂造の様にこの食堂を継ぐしか無いのか。
「サユリは俺らの世界に来てたよな。俺を一緒に連れては行けないのか?」
「無理カピ。あの魔法はものすごく魔力を使うカピ。次あの魔法が使えるのは何年先になるか判らないカピ。今回は10年掛かったカピ。茂造のリタイアに間に合って良かったカピ」
「縁起でも無い事言うな。あーでもそれじゃ数年はここで待たなきゃならないって事か」
「いやいや壱よ、その頃にはすっかりこの世界に染まって、帰りたいとは思わなくなっとるから」
「そうカピ。今回我が向こうに赴く時、茂造に一緒に行くか聞いてみたら、いらないと言われたカピ。茂造の前の男もそうだったカピ。ここは良い村だカピ」
壱がそうなるかどうかは、その時になってみないと判らないが、ともあれ次の代替わりまで壱はここで暮らさなければならないと言う事なのだ。ここは覚悟を決めるしか無いのだろう。
相葉味噌は、壱と負けず劣らず味噌が好きな妹が何とかしてくれるだろう。そう願おう。
「解った。とりあえず継ぐよ」
「おお、そうかそうか!」
「良かったカピ」
壱の台詞に、茂造とサユリから歓声が上がった。
「でも俺料理とかほとんど出来ないからな。家でも簡単な炒め物とかカレーとか、それぐらいしか作った事が無いから」
「それは大丈夫じゃよ。レストランじゃ無く食堂じゃからな。そんな凝った料理なんてものは出しとらんよ」
「この世界は調味料も限られているカピ。だから出来る料理も多く無いんだカピ。我、おぬしらの世界に行って、調味料の多さに驚いたカピ」
「何があるんだ?」
「まぁとりあえず座ったらどうじゃ」
茂造に言われて、ようやく壱は立ちっぱなしだという事に気付いた。手近な椅子に腰掛ける。肩に掛けたままのボディバッグも外し、テーブルに置いた。
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