異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈

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#12 営業準備をしましょう。その2

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「こんちわーっす」

「こんにちは、お疲れさまです」

 ふたりの男が入って来た。……今度は男だよな? メリアンの例もあって、壱はつい眉をひそめてしまう。

「はい、お疲れだのう。早速頼むぞい、ふたりとも」

「おいっす!」

「はい」

 ひとりは軽く、ひとりは丁寧ていねいに返事する。

「おお、ふたりとも。こやつが孫の壱じゃ」

 ふたりの事を聞く前に紹介され、壱は若干慌てた。だがすぐに持ち直す。

「ま、孫の相葉壱です。よろしくお願いします」

 そう言い、軽く頭を下げた。

「おーよろしくな! 俺はカリル。調理担当だ」

 言いながら両手を取られる。激しい拍手に見舞われ、腕と肩が少し痛くなる。

 緑色はともかく、長髪がポニーテイルにされている事が余計に軽さを思わせる。

「よろしく、サントです。洗い場と調理補助担当です」

 こちらはやたらと礼儀正しい。壱がした様に頭を下げた。黒い短髪が真面目さを感じさせる。

 どちらも見た目のイメージではあるが、壱への接し方などを見ると、あながち間違いでは無さそうだ。

「では、夜の仕込みを始めようかの。壱よ、包丁は使えるかの?」

「皮を剥いたり切ったりぐらいは」

「なら大丈夫じゃの。手伝って、ここに慣れてくれの」

「ん。解った」

 そして4人は厨房へ入る。調理台の上には白米を炊いた鉄鍋とサラダボウルがそのままになっていた。サラダボウルは洗えば良いとして。

「じいちゃん、これ冷蔵庫に入れておいたらいいかな。腐らせたら勿体もったい無い」

 何せ魚沼産コシヒカリである。そうで無くとも、実家が食品を扱う味噌蔵で、これからは食堂で働く壱にとって、食べ物を粗末にする事は考えられなかった。

「いや、塩にぎりにしてくれんかのう。営業中に腹が減ったらつまむんじゃ。じゃからサントよ、今夜のパンは客に出す分だけ焼いとくれ」

 カリルが黙って小さくうなずく。

「え、なになに? なにこれ」

 カリルが鉄鍋を覗き込む。

「これはの、儂と壱の世界の国の主食で、米と言うものじゃ。サユリさんもお気に召した様じゃから、お前さんらの口にも合うと思うがの。間食がてら試食してくれ」

「オッケー 楽しみ!」

 カリルが言いながらスキップでもしそうな調子で奥の棚に向かうと、白の布製のものを取り出し、壱に差し出した。

「これ着てな。こっちは頭に巻くんだ。服が汚れんのと髪の毛が落ちる防止の意味もあるってよ」

 受け取って広げてみると、それは割烹着かっぽうぎ三角巾さんかくきんだった。

 現代日本では家事を担当する事が多い女性ですら、あまり着けない割烹着に三角巾。壱は思わず顔を上げるが、カリルもサントも茂造までも、何の抵抗も無く着けて行く。

 先代か先々代かその前なのか判らないが、当時の表向き店長が準備したものなのだろう。壱は何も言わず、おとなしくそれを身に着けた。

 次にカリルは、じゃがいもが入った箱を調理台に持って来る。

「そのコメ? ニギリ? それが終わったらこいつの皮をくぜ。イチ、行けるか?」

「う、うん」

「じゃあ任せていいな! 包丁はこれな。いもはたわしで良く洗ってから剥いてな。皮も使うから、このボウルに入れてな」

「ああ」

 カリルの勢いと軽い調子に慣れて来た。

 サントも棚から紙製の袋をふたつと大きなボウル、冷蔵庫から銅製の筒の様なものと、銅製の箱を持って来る。

 袋の中身をボウルに開けると、両方とも白い粉だった。壱がつい手を止めてそれをながめると、サントはぽつりと言う。

「中力粉と薄力粉だ。パンを作る。後でパスタも作る」

 言葉少なく言うと、銅製の筒から白い液体、ミルクと思われるものと、銅製の箱からはクリーム色の塊、おそらくバターを加え、手際良く捏ね始める。

 棚にはかりがあるのを見たし、軽量カップもあるのに、それらは使わず、目分量と感覚で作っている様だ。職人技と言うやつなのだろうか。

「じゃあ、儂はこっちを」

 そう言いながら茂造が棚から取り出したのは人参。水でしっかり洗い、剥いた皮はじゃがいもと同様にボウルへ。

 茂造はカウンタチェアの様な背の高い木製の椅子に掛けて、作業をしている。さすがに茂造ぐらいのとしになると、立ちっぱなしは辛いのだろう。

「この人参は料理のえ物やポトフするんじゃ。じゃがいももそうするが、マッシュにもするからの、人参より数がいるんじゃ」

 なるほど。何となくこの食堂のメニューが見えて来た。壱とて料理をあまりしていた方では無いが、根菜が多いらしいこの村では、確かにメニューは限られるだろう。

「さ、俺は肉をさばくぜ」

 カリルは言うと、木製のまな板と包丁を調理台に出し、冷蔵庫から出した、まだ姿を保っている鶏肉を慣れた手付きで捌いて行く。

 そうして4人は、黙々と真面目に仕込みを進めて行った。
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