22 / 190
#22 途中経過として
しおりを挟む
穏やかな目覚めだった。壱がゆっくりと上半身を起こすと、額に乗せられていた濡れタオルが布団の上に落ちた。手にすると温かった。
ああ、そうか。熱を出して寝込んでいたのだったか。自分の掌を額に当ててみる。熱の有無は良く判らなかったが、気分は悪く無い。それどころかすっきりしている。
今は何時なのだろうか。ベッド脇の小さな台の上に置いてある目覚まし時計を見ると、アナログ盤の針は8時過ぎを示していた。
ベッドから降り、窓のカーテンを開けると、外はどっぷりと暗かった。夜だ。寝込んだ当日なのか、翌日になったのか、それとも更に日が過ぎているのか。
スマートフォンはWi-Fi接続こそ生き返ったが、時計は死んでいるので当てにならない。
それでも気になってしまって、机の引き出しからスマートフォンを取り出す。やはり時計は進んでおらず、壱がこの世界に来た時間で止まっていた。
すると、画面に並ぶアプリのうち、いくつかのSNSのアイコンに受信を知らせるマークが付いていた。
そうか。Wi-Fiが生きていると言う事は、電話やメールは出来なくても、SNSなどは使用出来ると言う事だ。
ああ、これでは家族に、父に、母に、柚絵に、連絡が出来てしまう。
受信件数はかなりの数になっていた。アイコンをタップしてしまえば、寄越された内容を読んでしまえば、里心が付いてしまうかも知れない。
既読を付ければ、向こうに壱の生存の可能性が知らされる。
しかし、壱自身は少なくとも後数年は家族の元に帰れないのである。
どうしたら良い。壱の頭は軽く混乱する。タップしてしまいたい気持ちもある。だがそうする事が今のベストなのか、それとも逆なのか、判断出来ない。
呆然とスマートフォンの画面を見つめていたその時。
部屋のドアがノックされた。
壱は我に返ると、慌ててスマートフォンをスリープさせ、引き出しに放り込んで閉じた。
「は、はい」
「あ、イチさん、起きられ、たんですね」
ドアが開かれると、そこに立っていたのは、濡れタオルを持ったマユリだった。壱を見て安堵した様な笑顔を浮かべる。
「おでこの、タオルを、取り替えに、き、来たんですが、あ、あの、体調は、どうですか?」
「うん、もうすっきり。多分熱も下がったと思う。マユリさんがタオルを取り替えてくれていたのか? ありがとう」
「い、いえ、あの、その時に、手が空いた人が、交代交代で、やりました」
「そっか。後でみんなにお礼言わなきゃな」
「は、はい。治って、良かった、です」
またマユリが笑みを浮かべ、壱も思わず笑顔を返す。ほのぼのとした雰囲気が漂った。
「あ、あの、お腹、空いてませんか? 何か、食べられます、か?」
「あ、あー、腹減ったかな」
言われたからか、空腹を意識する。
「俺、何時間寝てた? と言うか、熱出たの今朝だよな?」
「そ、そうです」
じゃあ昨日の晩の賄いから何も食べていないと言う事か。ちなみにポトフを頂いた。そこそこに遅い時間だったからか、あまり濃いものを食べる気がしなかったからである。
思えば、その時から身体は不調を訴えていた事になる。味噌蔵の仕事の後に、夕方から飲食店でアルバイトをしていた壱は、その後に夜食を摂るのが常だったのだ。ラーメンやカレーなどの濃いものもペロッと食べていた。
あらためて食の重要さをじみじみと噛み締めたところで。
「じゃ、じゃあ、何か、作ってもらって、来ますね」
「いや、俺が自分で作るよ。まだ食堂忙しい時間帯だろ?」
「そ、それは、そうですけども、けどあの」
「もう元気だから大丈夫。マユリさん先に降りてて。俺も着替えたら行くから」
「は、はい、じゃ、じゃあ、後で」
マユリが出て行こうとした時、壱は咄嗟に呼び止めた。
「あ、マユリさん」
「は、はい?」
「持って来てくれた濡れタオル、置いて行ってくれて良いかな。身体拭きたくて」
「あ、はい。どうぞ」
マユリが濡れタオルを手渡してくれる。代わりにベッドに落ちてしまっていた、温くなった濡れタオルをさり気なく回収して、部屋から出て行った。
「さて、と」
壱は気合を入れる様に小さく息を吐くと、まずは身体を拭こうと、パジャマを脱いだ。
ああ、そうか。熱を出して寝込んでいたのだったか。自分の掌を額に当ててみる。熱の有無は良く判らなかったが、気分は悪く無い。それどころかすっきりしている。
今は何時なのだろうか。ベッド脇の小さな台の上に置いてある目覚まし時計を見ると、アナログ盤の針は8時過ぎを示していた。
ベッドから降り、窓のカーテンを開けると、外はどっぷりと暗かった。夜だ。寝込んだ当日なのか、翌日になったのか、それとも更に日が過ぎているのか。
スマートフォンはWi-Fi接続こそ生き返ったが、時計は死んでいるので当てにならない。
それでも気になってしまって、机の引き出しからスマートフォンを取り出す。やはり時計は進んでおらず、壱がこの世界に来た時間で止まっていた。
すると、画面に並ぶアプリのうち、いくつかのSNSのアイコンに受信を知らせるマークが付いていた。
そうか。Wi-Fiが生きていると言う事は、電話やメールは出来なくても、SNSなどは使用出来ると言う事だ。
ああ、これでは家族に、父に、母に、柚絵に、連絡が出来てしまう。
受信件数はかなりの数になっていた。アイコンをタップしてしまえば、寄越された内容を読んでしまえば、里心が付いてしまうかも知れない。
既読を付ければ、向こうに壱の生存の可能性が知らされる。
しかし、壱自身は少なくとも後数年は家族の元に帰れないのである。
どうしたら良い。壱の頭は軽く混乱する。タップしてしまいたい気持ちもある。だがそうする事が今のベストなのか、それとも逆なのか、判断出来ない。
呆然とスマートフォンの画面を見つめていたその時。
部屋のドアがノックされた。
壱は我に返ると、慌ててスマートフォンをスリープさせ、引き出しに放り込んで閉じた。
「は、はい」
「あ、イチさん、起きられ、たんですね」
ドアが開かれると、そこに立っていたのは、濡れタオルを持ったマユリだった。壱を見て安堵した様な笑顔を浮かべる。
「おでこの、タオルを、取り替えに、き、来たんですが、あ、あの、体調は、どうですか?」
「うん、もうすっきり。多分熱も下がったと思う。マユリさんがタオルを取り替えてくれていたのか? ありがとう」
「い、いえ、あの、その時に、手が空いた人が、交代交代で、やりました」
「そっか。後でみんなにお礼言わなきゃな」
「は、はい。治って、良かった、です」
またマユリが笑みを浮かべ、壱も思わず笑顔を返す。ほのぼのとした雰囲気が漂った。
「あ、あの、お腹、空いてませんか? 何か、食べられます、か?」
「あ、あー、腹減ったかな」
言われたからか、空腹を意識する。
「俺、何時間寝てた? と言うか、熱出たの今朝だよな?」
「そ、そうです」
じゃあ昨日の晩の賄いから何も食べていないと言う事か。ちなみにポトフを頂いた。そこそこに遅い時間だったからか、あまり濃いものを食べる気がしなかったからである。
思えば、その時から身体は不調を訴えていた事になる。味噌蔵の仕事の後に、夕方から飲食店でアルバイトをしていた壱は、その後に夜食を摂るのが常だったのだ。ラーメンやカレーなどの濃いものもペロッと食べていた。
あらためて食の重要さをじみじみと噛み締めたところで。
「じゃ、じゃあ、何か、作ってもらって、来ますね」
「いや、俺が自分で作るよ。まだ食堂忙しい時間帯だろ?」
「そ、それは、そうですけども、けどあの」
「もう元気だから大丈夫。マユリさん先に降りてて。俺も着替えたら行くから」
「は、はい、じゃ、じゃあ、後で」
マユリが出て行こうとした時、壱は咄嗟に呼び止めた。
「あ、マユリさん」
「は、はい?」
「持って来てくれた濡れタオル、置いて行ってくれて良いかな。身体拭きたくて」
「あ、はい。どうぞ」
マユリが濡れタオルを手渡してくれる。代わりにベッドに落ちてしまっていた、温くなった濡れタオルをさり気なく回収して、部屋から出て行った。
「さて、と」
壱は気合を入れる様に小さく息を吐くと、まずは身体を拭こうと、パジャマを脱いだ。
20
あなたにおすすめの小説
「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~
あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。
彼は気づいたら異世界にいた。
その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。
科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。
かの
ファンタジー
孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。
ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる