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#21 2日めの過ごし方
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さて翌朝。目覚まし時計のけたたましいベルの音で起こされ、上半身を起こそうとしたが、身体中の節々が痛みを訴え、頭が異様な怠さを現した。眼もまともに開かない。
あ、これ、俺やばいかも。
そう思いながら、そのままベッドに逆戻り。
気温は低くは無いの筈なのに、身体を疾る寒気が止まらない。これはまずいのでは無いか。
しかしここでこのままこうしていても、何も好転しない。壱は重い身体を引きずって、壱の腰のあたりで眠るサユリを起こさぬ様にベッドを降り、まずは部屋を出る。
木造りの壁に手を付きながら、ふらふらと歩く。
「おお壱、おはよう。おや、何じゃ、顔が赤いの?」
茂造が部屋から出て来た。着替えも済ませていて、朝の支度は終わった様だ。
「ああ、じいちゃんおはよう……ごめん、調子崩しちまったみたい……」
壱が息も絶え絶えに言うと、茂造は慌てて駆け寄って来てくれた。掌を壱の額に当てる。
「おお、これは熱が出ている様じゃな。部屋に戻ってまずは寝る事じゃ。医者に診せられたら良いんじゃが、この村にはまだ医者はおらんでのう。食堂を休む訳にはいかんから、儂は下に降りるが、様子は見に来るからの。まずはタオルを水に濡らして、デコに当てるんじゃったかのう」
茂造が背中に腕を回してくれたので、動くのは大分楽になった。部屋に戻り、未だサユリが寝ているベッドにそっと入る。
するとそのタイミングで、サユリがふいと頭を上げた。
「騒がしいカピな。どうしたカピ?」
眠たそうに前足で顔を擦りながら聞く。
「壱が熱を出したみたいでの。今日の仕事は休ませるからの」
「ふむ、やはりダメージを食らっていたカピか」
サユリは息を吐きながら言うと、壱の顔元に寄って来る。
「突然異世界に連れてこられたのだカピ、そうなるのも仕方が無い事カピ。今日はゆっくり寝て治すカピよ」
要は知恵熱と言う事か。もう大人だと言うのに、何とも情けない。
「じいちゃん、サユリ、ごめんな……」
壱は掠れた声で言うと、眼を閉じた。
「すぐに濡れタオルを持って来るからの。待っておれ」
意識が遠のこうとしている中、茂造の声が耳に届く。頬に微かにしっとりとした感触を感じながら、壱は眠りに落ちて行った。
風呂などを済ませて寝支度を整え、与えられた自室のベッドの上で一息ついた壱がサユリから聞かされた話は、そう難しいものでは無かった。
「まず、我は魔法が使えるカピ。それは村の誰もが知っている事カピ。だが、その細かな内容は伝えていないカピ。例えば今日使った時間魔法の事は、村人の誰も知らないカピ」
「そうなのか? 便利な魔法だと思うけど」
「だからこそカピ。便利過ぎるものは駄目なのだカピ。特にこの村では駄目なのだカピ。なので、我がお前と茂造にしか見せていない魔法を、他の村人に、勿論食堂の従業員にも話したりするのはご法度カピ」
「そうか。解った」
事情があるのだろう。それを細かく聞くのは、更に時間が要りそうだ。壱は出来るだけ早く寝たいと思っていたので、そこは突っ込まない事にする。
「話と言っても、要はそれが大事カピ。我は数年に1度異世界に渡る事が出来るが、基本はしがない魔法使い。それがスタンスカピ。頼むカピ、壱」
「解った」
要は、自分から何も言わなければ良いのだ。聞かれても知らないと言えば良い。それを徹する事が出来れば良い筈だ。
「スマホの事はさっき言ったカピね」
「うん、机の引き出しに入れてる。念のために上に本も置いてある」
壱が与えられた部屋には、大きなベッドにチェストとクローゼットと本棚、それと勉強机に椅子があった。全て木製だ。壱はスマートフォンを勉強机の引き出しに入れて、その上に本棚から抜いた薄い本を置いていた。
「それなら良いカピ。使える様にはしたカピが、この部屋からは持ち出さない様にして欲しいカピ」
「解ってる。この部屋だけで使って、必要な時は紙か何かにでも写す事にするよ。スイーツも味噌作りも、調べなきゃならない事がたくさんあるから」
「良いカピよ。巧くやって欲しいカピ。話はこれくらいカピ。村のルールなどもあるカピが、それは追々解って行けば良いカピ。何、そうややこしいものは無いカピ」
「うん。村の人と話したりしながら、覚えて行く事にするよ」
「それが良いカピ。そう広い村では無いカピ。自然と顔見知りになって行くカピよ。では、そろそろ寝るカピ。眠いだろうカピ」
「うん、さすがに疲れた」
壱は大きな欠伸をすると、ベッドに潜り込んだ。今着ているパジャマは街に出たマーガレットが選んで来たものだと言う事で、やや派手な赤だった。
他にもチェストには、村の若者から分けて貰ったりしたと言う下着や服が幾つか入れられていた。茂造は「壱の好みもあるだろうし、また街に仕入れに行こうかの」と笑って言った。
「じゃあサユリさん、お休み」
「お休みカピ」
そして眼を瞑ると、壱の意識はあっと言う間に沈んで言った。
なので、サユリの「あ、言い忘れてしまったカピ。まぁ明日で良いカピか」と言う台詞は聞こえなかった。
あ、これ、俺やばいかも。
そう思いながら、そのままベッドに逆戻り。
気温は低くは無いの筈なのに、身体を疾る寒気が止まらない。これはまずいのでは無いか。
しかしここでこのままこうしていても、何も好転しない。壱は重い身体を引きずって、壱の腰のあたりで眠るサユリを起こさぬ様にベッドを降り、まずは部屋を出る。
木造りの壁に手を付きながら、ふらふらと歩く。
「おお壱、おはよう。おや、何じゃ、顔が赤いの?」
茂造が部屋から出て来た。着替えも済ませていて、朝の支度は終わった様だ。
「ああ、じいちゃんおはよう……ごめん、調子崩しちまったみたい……」
壱が息も絶え絶えに言うと、茂造は慌てて駆け寄って来てくれた。掌を壱の額に当てる。
「おお、これは熱が出ている様じゃな。部屋に戻ってまずは寝る事じゃ。医者に診せられたら良いんじゃが、この村にはまだ医者はおらんでのう。食堂を休む訳にはいかんから、儂は下に降りるが、様子は見に来るからの。まずはタオルを水に濡らして、デコに当てるんじゃったかのう」
茂造が背中に腕を回してくれたので、動くのは大分楽になった。部屋に戻り、未だサユリが寝ているベッドにそっと入る。
するとそのタイミングで、サユリがふいと頭を上げた。
「騒がしいカピな。どうしたカピ?」
眠たそうに前足で顔を擦りながら聞く。
「壱が熱を出したみたいでの。今日の仕事は休ませるからの」
「ふむ、やはりダメージを食らっていたカピか」
サユリは息を吐きながら言うと、壱の顔元に寄って来る。
「突然異世界に連れてこられたのだカピ、そうなるのも仕方が無い事カピ。今日はゆっくり寝て治すカピよ」
要は知恵熱と言う事か。もう大人だと言うのに、何とも情けない。
「じいちゃん、サユリ、ごめんな……」
壱は掠れた声で言うと、眼を閉じた。
「すぐに濡れタオルを持って来るからの。待っておれ」
意識が遠のこうとしている中、茂造の声が耳に届く。頬に微かにしっとりとした感触を感じながら、壱は眠りに落ちて行った。
風呂などを済ませて寝支度を整え、与えられた自室のベッドの上で一息ついた壱がサユリから聞かされた話は、そう難しいものでは無かった。
「まず、我は魔法が使えるカピ。それは村の誰もが知っている事カピ。だが、その細かな内容は伝えていないカピ。例えば今日使った時間魔法の事は、村人の誰も知らないカピ」
「そうなのか? 便利な魔法だと思うけど」
「だからこそカピ。便利過ぎるものは駄目なのだカピ。特にこの村では駄目なのだカピ。なので、我がお前と茂造にしか見せていない魔法を、他の村人に、勿論食堂の従業員にも話したりするのはご法度カピ」
「そうか。解った」
事情があるのだろう。それを細かく聞くのは、更に時間が要りそうだ。壱は出来るだけ早く寝たいと思っていたので、そこは突っ込まない事にする。
「話と言っても、要はそれが大事カピ。我は数年に1度異世界に渡る事が出来るが、基本はしがない魔法使い。それがスタンスカピ。頼むカピ、壱」
「解った」
要は、自分から何も言わなければ良いのだ。聞かれても知らないと言えば良い。それを徹する事が出来れば良い筈だ。
「スマホの事はさっき言ったカピね」
「うん、机の引き出しに入れてる。念のために上に本も置いてある」
壱が与えられた部屋には、大きなベッドにチェストとクローゼットと本棚、それと勉強机に椅子があった。全て木製だ。壱はスマートフォンを勉強机の引き出しに入れて、その上に本棚から抜いた薄い本を置いていた。
「それなら良いカピ。使える様にはしたカピが、この部屋からは持ち出さない様にして欲しいカピ」
「解ってる。この部屋だけで使って、必要な時は紙か何かにでも写す事にするよ。スイーツも味噌作りも、調べなきゃならない事がたくさんあるから」
「良いカピよ。巧くやって欲しいカピ。話はこれくらいカピ。村のルールなどもあるカピが、それは追々解って行けば良いカピ。何、そうややこしいものは無いカピ」
「うん。村の人と話したりしながら、覚えて行く事にするよ」
「それが良いカピ。そう広い村では無いカピ。自然と顔見知りになって行くカピよ。では、そろそろ寝るカピ。眠いだろうカピ」
「うん、さすがに疲れた」
壱は大きな欠伸をすると、ベッドに潜り込んだ。今着ているパジャマは街に出たマーガレットが選んで来たものだと言う事で、やや派手な赤だった。
他にもチェストには、村の若者から分けて貰ったりしたと言う下着や服が幾つか入れられていた。茂造は「壱の好みもあるだろうし、また街に仕入れに行こうかの」と笑って言った。
「じゃあサユリさん、お休み」
「お休みカピ」
そして眼を瞑ると、壱の意識はあっと言う間に沈んで言った。
なので、サユリの「あ、言い忘れてしまったカピ。まぁ明日で良いカピか」と言う台詞は聞こえなかった。
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