異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈

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#20 味噌に思いを馳せながら

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 客や従業員がフレンチトーストに舌鼓したづつみを打っているのを見ると、壱も嬉しくなる。

 作り始めはレシピを調べたりもしていたが、次第に目分量になっていたフレンチトースト。柚絵も美味しいと食べてくれたそれ。

 それが受け入れられる喜びがとても大きく、やはり壱は食に関わる職に就くのに向いているのかも知れないと感じた。

 実家の相葉味噌でも、手ずから味噌を買ってくれた客に「美味しかったよ」と言ってもらえたら、本当に嬉しいものだった。それと同じなのだろう。

 嬉しくて、つい頬をほころばしてみんなの様子を眺めてしまう。するとフレンチトーストを頬張りながら、メリアンとマーガレットが壱に声を掛けた。

「イチも食べなよ。おいしーよ!」

「そうよぅ。勿体なぁい」

 うん、俺が作ったんだけどな。そう思っていると、マユリがフォークを持って来てくれた。

「イチさん、ど、どうぞ」

「ありがとう」

 フォークを受け取り、食堂メンバーが囲んでいる大皿に盛られているフレンチトーストに突き刺した。

 大口を開けて、含む。じっくりと咀嚼そしゃく。うん、我ながら旨く出来た。

「うむ、壱、これはなかなか良いものカピな。また作るが良いカピ」

 サユリもテーブルに上がって、小皿に盛られたフレンチトーストにかじり付いていた。

「じいちゃんがメニュー化したらどうかって。そうで無くてもいつでも作れるから、また作るよ」

「おい店長の孫! これはメニューに入れるべきもんだぜ」

「そうだ! 俺もまた食べたい!」

 客のテーブルからもそんな声が飛ぶ。壱は嬉しくなって口角を上げた。ちなみにシェムスはまだ床の上で伸びている。

「ほっほっほ、メニュー化するから安心するが良いぞ。そうじゃな、甘いもんじゃから、昼のメニューが良いかの」

「よっしゃ! 俺毎日でも食いたい!」

「俺だって!」

 茂造の台詞に客たちが沸く。しかしこんな簡単に作ったフレンチトーストにこんな喜びを見せるとは、この世界のスイーツ事情はどうなっているのだろうか。

「この世界は、と言うかこの村には、あまり甘い菓子が無いカピよ。なのでこのフレンチトーストやらがここまで歓迎されるカピ。壱、他にも菓子は作れるカピ?」

 口元にフレンチトーストの欠片を付けたサユリが、満足げな表情で壱の足元に擦り寄って来た。壱は視線の高さを合わせる為にその場にしゃがむ。

「同じ材料で作れるものもあるよ。うん、いろいろ調べてみようか。その前に俺は味噌が作りたいんだけど。味噌汁飲みたい」

 昆布とカツオで取った甘やかなお出汁に、芳しい味噌を溶かす。それだけで良い。わかめや豆腐、青ネギなどの具は大変魅力的であるが、もう純の味噌汁だけでも良い。

 すると、サユリが声を潜める。壱だけに聞こえるほどの、息だけで言葉を紡ぐ。

「それは勿論作ると良いカピ。まずは我の時間魔法を使っての試作カピね。しかし壱、スマホなるもの、村人、と言うか、我と茂造以外に知られてはならんカピよ」

「え、何で……あ、そうか」

かんが良くて助かるカピ。説明が面倒だと言うのもあるカピが、街の人間には絶対に知られたく無いカピ」

 サユリがそう言いながら険しい表情をする。未だ壱には判らない厄介事があるのだろう。

 壱にも多少の予想は付く。下手にこの世界に知られては良い技術では無いのだ。

「解った。スマホは持ち歩かずに、部屋に置いておく事にするよ。俺、部屋とか貰えるんだよな?」

「勿論カピ。この上が住居スペースになっているカピ。壱がいつ来ても良い様に、茂造が整えている筈カピ」

「そっか。やっぱり個室は欲しいから助かる」

「他にも伝えきれなかった事はあるカピ。なので、今夜我は壱の部屋に泊まるカピ。ああ、大丈夫カピ。きちんと睡眠時間は確保してやるカピ」

「……そうして貰えると助かるよ」

 緊張もあってかあまり意識していなかったが、この世界に飛ばされて、壱は相当に疲れているはずだ。心身ともに。

 なので、出来るなら今夜はゆっくりと眠りたかった。しかしなかなかそれは許されない様である。

「大丈夫カピ。壱が体調を崩したりする事を我は良しとしないカピ」

「頼むよ」

「ふむ」

 サユリは鼻を鳴らすと、またフレンチトーストをねだりに、椅子伝いにテーブルに上がった。
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