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#28 まだ名も無い頃のサユリと、ある男の出会い。その2
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男の足は早かった。サユリが口を開けぬ程に。あっという間に街を抜け、それから休憩を挟みながらも数時間走り続け、気付けば緑生い茂る林の中で息を点いていた。
男はサユリをその場に下ろしてくれた。
「街のガキどもが悪かったな。身体は痛まないか?」
優しげな表情を向けられ、痛む頭をそっと撫でられ、サユリは迷う。身を呈してサユリを守ってくれたこの男、決して悪人では無いのだろう。しかしサユリの事情は別だ。
この男が善人だとして、サユリが魔法使いだと知って、助けてくれた時の様な心持ちでいられるかどうか。
少なくともサユリがここに至るまでに収集した情報の中では、魔法使いは民間人の中では決して良い扱いでは無かった。国に召し抱えられても、それはそもそもが本人の望んだものでは無い事がほとんど。
全体数が少ない事もあって、一般では奇異の目で見られる事が多かった。
しかしサユリは信じたかった。こんなしがない獣を助けてくれたこの人間を。
あの時壁に打ち付けられた子どもは、少なからず怪我をしている筈だ。とすれば、あのクソガキを養っている馬鹿親は、男を傷害罪などで訴える可能性が高い。
男がそこまで考えていたかは判らない。しかし、助けてくれた。ただ耐えるしか無かった小さな生命を、庇ってくれたのだ。
サユリは意を決して、口を開いた。
「大丈夫カピ。痛いカピが、我慢出来るカピよ」
喋ったサユリに、男は大いに眼を見開き、次には雄叫びを上げていた。
「うおー! 凄げー!! もしかしてお前、魔法が使えるカピバラか? 魔法が使えたら動物でも喋れるって聞いた。本当に? 本物!?」
思いも掛けない反応に、サユリはびくりと跳ねる。
「そ、そうカピ。我は魔法が使えるカピバラだカピ」
「そっかそっかー! 凄げーな! 見た目とかは普通のカピバラだから判らなかった」
「感激しているところ申し訳無いカピが、我は国に見付かりたく無いのだカピ。さっき暴行を受けている時に我慢していたのも、そこで魔法を使ってあの街を加護する魔法使いに見付かりたく無かったからカピ。お前が来てくれなければ、あの子どもたちの心臓を潰してても、逃げていたカピ。けど、魔法感知されて駆け付けて来るであろう魔法使いや騎士団などとやり合いたく無かったカピ。我の魔力は膨大だから、下手をすると街を潰しかねないカピ。もしお前が国に我の事を言うと言うなら、すぐにでも我はお前を壊すカピ。生命の恩人に手を掛けるのは心苦しいカピが、我は自分の身を守らなければならないカピ」
「しねーって、そんな事」
男はサユリの台詞を笑い飛ばす。しかしその笑いは、次には苦笑に変わる。
「俺が跳ね飛ばした子どもさ、あの街の有力者の息子なんだよ。だから甘やかされてあんな風に育ってんだけども、ガキが親に駆け込めば親はまた甘やかして、俺を探そうそすると思う。だからもうあの街には帰れないんだ」
「それは……申し訳無い事をしたカピ」
サユリが言いすぎたかと項垂れると、男は明るく笑ってサユリの背中を軽く叩いた。
「構わねーよ。街には家族とかもいないし未練も無いさ。それよりお前はこれからどうするんだ?」
「特に当ては無いカピ。また旅を続けるカピよ。寄る辺が無いのも寂しい気もするカピが。ま、適当にやるカピよ」
「それならさ、確かもう1日程行ったところに、海辺の開けたところがあるんだよ。そこで少しでも良いから一緒に暮らさないか?」
「暮らす? お前と我がカピ?」
「そう。やっぱりさ、落ち着けるところってあった方が楽じゃ無いかなって。もしまたお前が旅に出る事があっても、俺のところに帰ってくれば良いだろ?」
「それは……悪く無いカピね」
サユリは少し考え、応えた。何、この男が下手な事をしても、他所から人が来たとしても、サユリの魔法で対処出来る。自惚れでは無く、少なくともこれまでの旅の間で、サユリ以上の魔法使いに出会った事は無かった。
今日はうっかりあの街に迷い込んでしまったが、他の街に近付いた時には、そこに掛けられている加護の魔力を観察していた。どこも、サユリより格下だった。
全ての街では無いが、確率的にサユリより格上の魔法使いはそういないだろう。
「じゃ、行くか。身体痛いか? 抱えてやろうか?」
「心配無用カピ。治癒魔法も使えるカピ」
「おお、やっぱり凄げーな! でも疲れたら言えよ? 抱えてやるから」
「その時は甘えるカピ」
「おう」
そしてサユリと男は連れ立って、海辺に向かって歩き始めた。
そこが、今のコンシャリド村の場所なのである。
男はサユリをその場に下ろしてくれた。
「街のガキどもが悪かったな。身体は痛まないか?」
優しげな表情を向けられ、痛む頭をそっと撫でられ、サユリは迷う。身を呈してサユリを守ってくれたこの男、決して悪人では無いのだろう。しかしサユリの事情は別だ。
この男が善人だとして、サユリが魔法使いだと知って、助けてくれた時の様な心持ちでいられるかどうか。
少なくともサユリがここに至るまでに収集した情報の中では、魔法使いは民間人の中では決して良い扱いでは無かった。国に召し抱えられても、それはそもそもが本人の望んだものでは無い事がほとんど。
全体数が少ない事もあって、一般では奇異の目で見られる事が多かった。
しかしサユリは信じたかった。こんなしがない獣を助けてくれたこの人間を。
あの時壁に打ち付けられた子どもは、少なからず怪我をしている筈だ。とすれば、あのクソガキを養っている馬鹿親は、男を傷害罪などで訴える可能性が高い。
男がそこまで考えていたかは判らない。しかし、助けてくれた。ただ耐えるしか無かった小さな生命を、庇ってくれたのだ。
サユリは意を決して、口を開いた。
「大丈夫カピ。痛いカピが、我慢出来るカピよ」
喋ったサユリに、男は大いに眼を見開き、次には雄叫びを上げていた。
「うおー! 凄げー!! もしかしてお前、魔法が使えるカピバラか? 魔法が使えたら動物でも喋れるって聞いた。本当に? 本物!?」
思いも掛けない反応に、サユリはびくりと跳ねる。
「そ、そうカピ。我は魔法が使えるカピバラだカピ」
「そっかそっかー! 凄げーな! 見た目とかは普通のカピバラだから判らなかった」
「感激しているところ申し訳無いカピが、我は国に見付かりたく無いのだカピ。さっき暴行を受けている時に我慢していたのも、そこで魔法を使ってあの街を加護する魔法使いに見付かりたく無かったからカピ。お前が来てくれなければ、あの子どもたちの心臓を潰してても、逃げていたカピ。けど、魔法感知されて駆け付けて来るであろう魔法使いや騎士団などとやり合いたく無かったカピ。我の魔力は膨大だから、下手をすると街を潰しかねないカピ。もしお前が国に我の事を言うと言うなら、すぐにでも我はお前を壊すカピ。生命の恩人に手を掛けるのは心苦しいカピが、我は自分の身を守らなければならないカピ」
「しねーって、そんな事」
男はサユリの台詞を笑い飛ばす。しかしその笑いは、次には苦笑に変わる。
「俺が跳ね飛ばした子どもさ、あの街の有力者の息子なんだよ。だから甘やかされてあんな風に育ってんだけども、ガキが親に駆け込めば親はまた甘やかして、俺を探そうそすると思う。だからもうあの街には帰れないんだ」
「それは……申し訳無い事をしたカピ」
サユリが言いすぎたかと項垂れると、男は明るく笑ってサユリの背中を軽く叩いた。
「構わねーよ。街には家族とかもいないし未練も無いさ。それよりお前はこれからどうするんだ?」
「特に当ては無いカピ。また旅を続けるカピよ。寄る辺が無いのも寂しい気もするカピが。ま、適当にやるカピよ」
「それならさ、確かもう1日程行ったところに、海辺の開けたところがあるんだよ。そこで少しでも良いから一緒に暮らさないか?」
「暮らす? お前と我がカピ?」
「そう。やっぱりさ、落ち着けるところってあった方が楽じゃ無いかなって。もしまたお前が旅に出る事があっても、俺のところに帰ってくれば良いだろ?」
「それは……悪く無いカピね」
サユリは少し考え、応えた。何、この男が下手な事をしても、他所から人が来たとしても、サユリの魔法で対処出来る。自惚れでは無く、少なくともこれまでの旅の間で、サユリ以上の魔法使いに出会った事は無かった。
今日はうっかりあの街に迷い込んでしまったが、他の街に近付いた時には、そこに掛けられている加護の魔力を観察していた。どこも、サユリより格下だった。
全ての街では無いが、確率的にサユリより格上の魔法使いはそういないだろう。
「じゃ、行くか。身体痛いか? 抱えてやろうか?」
「心配無用カピ。治癒魔法も使えるカピ」
「おお、やっぱり凄げーな! でも疲れたら言えよ? 抱えてやるから」
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そしてサユリと男は連れ立って、海辺に向かって歩き始めた。
そこが、今のコンシャリド村の場所なのである。
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