異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈

文字の大きさ
28 / 190

#28 まだ名も無い頃のサユリと、ある男の出会い。その2

しおりを挟む
 男の足は早かった。サユリが口を開けぬ程に。あっという間に街を抜け、それから休憩を挟みながらも数時間走り続け、気付けば緑生い茂る林の中で息を点いていた。

 男はサユリをその場に下ろしてくれた。

「街のガキどもが悪かったな。身体は痛まないか?」

 優しげな表情を向けられ、痛む頭をそっと撫でられ、サユリは迷う。身を呈してサユリを守ってくれたこの男、決して悪人では無いのだろう。しかしサユリの事情は別だ。

 この男が善人だとして、サユリが魔法使いだと知って、助けてくれた時の様な心持ちでいられるかどうか。

 少なくともサユリがここに至るまでに収集した情報の中では、魔法使いは民間人の中では決して良い扱いでは無かった。国にし抱えられても、それはそもそもが本人の望んだものでは無い事がほとんど。

 全体数が少ない事もあって、一般では奇異きいの目で見られる事が多かった。

 しかしサユリは信じたかった。こんなしがない獣を助けてくれたこの人間を。

 あの時壁に打ち付けられた子どもは、少なからず怪我をしている筈だ。とすれば、あのクソガキを養っている馬鹿親は、男を傷害罪などで訴える可能性が高い。

 男がそこまで考えていたかは判らない。しかし、助けてくれた。ただ耐えるしか無かった小さな生命を、かばってくれたのだ。

 サユリは意を決して、口を開いた。

「大丈夫カピ。痛いカピが、我慢出来るカピよ」

 喋ったサユリに、男は大いに眼を見開き、次には雄叫びを上げていた。

「うおー! 凄げー!! もしかしてお前、魔法が使えるカピバラか? 魔法が使えたら動物でも喋れるって聞いた。本当に? 本物!?」

 思いも掛けない反応に、サユリはびくりと跳ねる。

「そ、そうカピ。我は魔法が使えるカピバラだカピ」

「そっかそっかー! 凄げーな! 見た目とかは普通のカピバラだから判らなかった」

「感激しているところ申し訳無いカピが、我は国に見付かりたく無いのだカピ。さっき暴行を受けている時に我慢していたのも、そこで魔法を使ってあの街を加護する魔法使いに見付かりたく無かったからカピ。お前が来てくれなければ、あの子どもたちの心臓を潰してても、逃げていたカピ。けど、魔法感知されて駆け付けて来るであろう魔法使いや騎士団などとやり合いたく無かったカピ。我の魔力は膨大だから、下手をすると街を潰しかねないカピ。もしお前が国に我の事を言うと言うなら、すぐにでも我はお前を壊すカピ。生命の恩人に手を掛けるのは心苦しいカピが、我は自分の身を守らなければならないカピ」

「しねーって、そんな事」

 男はサユリの台詞を笑い飛ばす。しかしその笑いは、次には苦笑に変わる。

「俺が跳ね飛ばした子どもさ、あの街の有力者の息子なんだよ。だから甘やかされてあんな風に育ってんだけども、ガキが親に駆け込めば親はまた甘やかして、俺を探そうそすると思う。だからもうあの街には帰れないんだ」

「それは……申し訳無い事をしたカピ」

 サユリが言いすぎたかと項垂うなだれると、男は明るく笑ってサユリの背中を軽く叩いた。

「構わねーよ。街には家族とかもいないし未練も無いさ。それよりお前はこれからどうするんだ?」

「特に当ては無いカピ。また旅を続けるカピよ。寄る辺が無いのも寂しい気もするカピが。ま、適当にやるカピよ」

「それならさ、確かもう1日程行ったところに、海辺の開けたところがあるんだよ。そこで少しでも良いから一緒に暮らさないか?」

「暮らす? お前と我がカピ?」

「そう。やっぱりさ、落ち着けるところってあった方が楽じゃ無いかなって。もしまたお前が旅に出る事があっても、俺のところに帰ってくれば良いだろ?」

「それは……悪く無いカピね」

 サユリは少し考え、こたえた。何、この男が下手な事をしても、他所から人が来たとしても、サユリの魔法で対処出来る。自惚うぬぼれでは無く、少なくともこれまでの旅の間で、サユリ以上の魔法使いに出会った事は無かった。

 今日はうっかりあの街に迷い込んでしまったが、他の街に近付いた時には、そこに掛けられている加護の魔力を観察していた。どこも、サユリより格下だった。

 全ての街では無いが、確率的にサユリより格上の魔法使いはそういないだろう。

「じゃ、行くか。身体痛いか? かかえてやろうか?」

「心配無用カピ。治癒ちゆ魔法も使えるカピ」

「おお、やっぱり凄げーな! でも疲れたら言えよ? 抱えてやるから」

「その時は甘えるカピ」

「おう」

 そしてサユリと男は連れ立って、海辺に向かって歩き始めた。

 そこが、今のコンシャリド村の場所なのである。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

うちの孫知りませんか?! 召喚された孫を追いかけ異世界転移。ばぁばとじぃじと探偵さんのスローライフ。

かの
ファンタジー
 孫の雷人(14歳)からテレパシーを受け取った光江(ばぁば64歳)。誘拐されたと思っていた雷人は異世界に召喚されていた。康夫(じぃじ66歳)と柏木(探偵534歳)⁈ をお供に従え、異世界へ転移。料理自慢のばぁばのスキルは胃袋を掴む事だけ。そしてじぃじのスキルは有り余る財力だけ。そんなばぁばとじぃじが、異世界で繰り広げるほのぼのスローライフ。  ばぁばとじぃじは無事異世界で孫の雷人に会えるのか⁈

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...